MECEとは?
MECEとは、問題解決や分析的思考で使われる原則であり、"Mutually Exclusive, Collectively Exhaustive "の略称で「漏れなく、ダブりなく」と訳されます。経営コンサルティングファームであるマッキンゼー・アンド・カンパニーが提唱した分析手法で、1960年代から使用されています。MECEを最初に広めたのは経営コンサルタントのバーバラ・ミントで、1978年に出版した著書 "The Pyramid Principle: Logic in Writing and Thinking "の中で紹介されました。
MECEとは、問題を解析する際に使用するカテゴリーや構成要素は、互いに重複しない「相互排他的」であるべきであり、すべての可能な選択肢を網羅する「集合的網羅的」でなければならないとするものです。MECE原則は、コンサルティング、経営戦略、プロジェクトマネジメントなどの分野でよく使われますが、あらゆる問題解決の場面で応用することが可能です。
MECE - ビジュアル表現
この例では、上の図にAとBという2つのカテゴリーがあり、相互に排他的であり、まとめて網羅的であることが示されています。この図では、カテゴリーAには4つの選択肢(A1、A2、A3、A4)があり、カテゴリーBには4つの選択肢(B1、B2、B3、B4)があることがわかります。これらの選択肢を合わせると、目の前の問題に対して考えられるすべての選択肢となります。
なぜ日本でMECEが重要なのか?
日本は問題解決の文化が強く、MECEは構造化された論理的なフレームワークとして、この文化によく適合しています。多くの日本企業は、構造化された思考と分析に高い価値を置いており、MECEは問題解決に対するアプローチに適合します。
MECEが日本で重要視されているのにはいくつかの理由があります。
1. 問題解決へのアプローチ
日本には、構造化された問題解決や分析という強い文化があります。MECEは、複雑な問題を管理可能なカテゴリーに分解する論理的かつ組織的なフレームワークとして、この文化によく適合します。
2. 効率と効果を重視する
日本企業は、効率と効果を重視しています。MECEは、すべての関連情報を考慮し、選択肢を見落とさないようにすることで、より効率的で効果的な意思決定へと導きます。
3. チームワークの重要性
日本企業は、チームワークとコラボレーションに高い価値を置いています。MECEは、情報を議論し分析するための明確で構造化されたフレームワークを提供します。
4. 継続的な改善の重視
日本企業は、継続的な改善への取り組みで知られています。MECEは、改善すべき領域を特定し、特定の問題や課題に対処するための的を射た解決策を開発するために使用することができます。
5. 欧米のビジネス慣習の採用
日本は、西洋のビジネス慣行を採用しています。多くの日本のコンサルティング会社や企業が、MECEを問題解決や意思決定のプロセスに取り入れており、日本では広く認知されたフレームワークとなっています。
MECEの重要性は、問題解決や意思決定のための構造化された論理的な枠組みを提供し、より良い結果、コミュニケーションの改善、分析・意思決定プロセスの一貫性と効率性を高めることにあると言えます。
MECEの実践例~マーケティング部門編
MECEをマーケティング部門に適用する場合、活動を相互排他的かつ総体的に網羅的なカテゴリーに分割することになります。
- 市場調査
- アンケートの実施
- 市場動向分析
- データの分析
- お客様の声を集める
- ブランディングとコミュニケーション
- ブランドメッセージとポジショニングの開発
- パンフレットや広告などのマーケティング資料の作成
- ソーシャルメディアなどのコミュニケーションチャネルの管理
- 製品開発・管理
- 製品開発のための市場調査の実施
- アイデア出しから発売までの開発プロセスの管理
- 製品が顧客のニーズへの対応
- 競争力の維持と強化
このようにマーケティング部門の活動を整理することで、各チームや個人の担当業務が明確になり、重複もなくなります。また、マーケティングに関わるあらゆる領域をカバーすることができ、包括的なアプローチが可能となります。
MECE流の考え方-トップダウンとボトムアップのアプローチ
MECEの原則は、組織が批判的かつ体系的に考えることを奨励し、可能な限りの選択肢を検討し、思考の重複やギャップを避けることができます。MECEを使うには、主にトップダウンとボトムアップの2つのアプローチがあります。
トップダウン・アプローチ
MECEのトップダウン・アプローチでは、問題や課題を大まかに把握した上で、より具体的なカテゴリーや要素に分解していきます。複雑な問題を扱う際に、大まかな理解をした上で詳細な検討を行う場合に有効です。
ステップ | 概要 | |
---|---|---|
ステップ 1 | 概要から始める | まず、解決すべき主な問題や課題を特定することから始めます。これは、ビジネス上の課題であったり、戦略的な目標であったり、答えが必要な特定の質問であったりします。 |
ステップ 2 | 大まかなカテゴリーを作成 | 主要な問題を特定したら、その問題の原因となりうるすべての要因や要素を網羅する大まかなカテゴリーを作成します。例えば、売上高の減少が問題であれば、価格設定、製品の特徴、マーケティング、競争など、大まかなカテゴリーを設定することができます。 |
ステップ 3 | カテゴリーの絞り込み | 大まかなカテゴリーを決めたら、さらに具体的な要素に分解して絞り込みます。例えば、「価格設定」では、「価格帯」「割引」「お得感」などのカテゴリーが考えられます。 |
ステップ 4 | カテゴリーの評価 | 具体的な要素が決まったら、それらが相互に排他的であり、集合的に網羅的であることを確認するために評価します。つまり、各要素は1つのカテゴリーにしか当てはまらず、すべての可能な選択肢をカバーする必要があります。例えば、価格帯のカテゴリーであれば、選択肢は低、中、高となり、どの製品も2つ以上のカテゴリーには当てはまりません。 |
ステップ 5 | カテゴリーの分析 | 問題のMECEブレイクダウンができたら、各カテゴリーを分析し、問題の根本原因と潜在的な解決策を特定します。 |
ボトムアップ・アプローチ
MECEのボトムアップアプローチとは、具体的な内容から始めて、問題や課題のハイレベルな概要に至るまで取り組むことです。このアプローチは、より広いパターンやテーマを特定する前に、細部を深く理解する必要がある問題に対処する場合に有効です。
ステップ | 概要 | |
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ステップ 1 | 具体的な内容からスタート | 問題や課題に関するデータや情報を収集することから始めます。顧客の声、販売データ、市場調査などです。 |
ステップ 2 | 詳細をグループ化する | 詳細を確認したら、共通のテーマやパターンに基づいてカテゴリーとしてまとめます。例えば、お客様が製品の機能に対して不満を抱いていることがデータからわかったら、機能に関連するすべてのフィードバックをまとめます。 |
ステップ 3 | カテゴリーを絞り込む | 最初にカテゴリーを決めたら、それをさらに具体的な要素に分解して絞り込みます。例えば、「機能」カテゴリーでは、「使いやすさ」「機能性」「デザイン」などのカテゴリーを設けることができます。 |
ステップ 4 | カテゴリーを評価する | 具体的な要素が決まったら、それらが相互に排他的であり、集合的に網羅的であることを確認するために評価します。つまり、各要素は1つのカテゴリーにしか当てはまらず、考えられるすべての選択肢をカバーする必要があります。 |
ステップ 5 | カテゴリーを分析する | 問題のMECEブレイクダウンができたら、各カテゴリーを分析し、問題の根本原因と潜在的な解決策を特定します。 |
MECE導入に役立つフレームワークTOP4
MECE原則を実現するために、一般的に使われているフレームワークがいくつかあります。ここでは、代表的なフレームワークを4つ紹介します。
- SWOT分析
SWOTとは、Strengths(強み)、Weaknesses(弱み)、Opportunities(機会)、Threats(脅威)の頭文字をとったものです。このフレームワークは戦略立案でよく使われ、組織が内部の強みと弱み、外部の機会と脅威を特定するのに役立ちます。このフレームワークを用いることで、組織は、強みを活かし、弱みに対処し、機会を活用し、脅威を軽減する戦略を策定することができます。 - 3C分析
3Cとは、Company(会社)、Customer(顧客)、Competitor(競合)の頭文字をとったものです。このフレームワークは、顧客や競合他社との関係において、自社の強みと弱みを評価し、市場における自社のポジションを分析するために使用されます。このフレームワークを用いることで、企業は成長の機会を特定し、弱点に対処し、競合他社との差別化を図ることができます。 - ファイブフォース分析
ファイブフォース分析は、ある業界における競争力を分析するフレームワークです。新規参入の脅威、サプライヤーの交渉力、バイヤーの交渉力、代替製品やサービスの脅威、競争相手の強さの5つの力を分析します。このフレームワークを活用することで、企業は業界の競争レベルを決定する要因を特定し、効果的に競争するための戦略を策定することができます。 - マッキンゼー7Sモデル
マッキンゼーの7Sモデルは、組織の有効性に影響を与える7つの内部要因を分析するフレームワークです。7つの要因とは、戦略、構造、システム、共有価値、スタイル、スタッフ、スキルです。このフレームワークを用いることで、組織は成功の原動力となっている要因、あるいは前進を妨げている要因を特定し、パフォーマンスを向上させるための変化を起こすことができます。
これらのフレームワークはそれぞれ、複雑な問題を明確で重複しないカテゴリーに分解することで、MECE原則を実行するために使用できます。
MECE使用時の注意点
MECEは、情報を整理・構造化するのに役立つフレームワークですが、使用する際にはいくつかの注意点があります。
- MECEは過度に単純化されることがある
MECEは問題や状況を分解するのに役立つ方法ですが、複雑な問題を過度に単純化することもあります。すべての状況が、相互に排他的で網羅的なカテゴリーにきれいに分けられるわけではないことを認識することが重要です。 - MECEの達成が困難
真にMECEなカテゴリーを作るには、対象を深く理解し、高いレベルの分析的厳密さが必要です。完全なMECEを実現することは難しく、カテゴリーに重複やギャップが生じる可能性もあります。