前回は、人材不足の時代を営業部隊がどう乗り切っていくべきなのか、という観点から
「組織営業」の実現により、人材不足の時代を乗り切るというお話をしました。
コンサル先の企業に、売上を継続的に上げられる組織や仕組みを作っていきましょうといった提案をすると、
「既存の業務を回すので手いっぱいで、ノウハウの共有なんかやっている余裕がない」
とか
「新人を教育している暇があったら1件でも多く顧客を訪問したい」
といった声を聞くことになります。
こういった声にはどうやって向き合えばよいかを考えてみましょう。
組織力の向上と生産性の向上はセットで
もし現場に余裕を持たせることなく、新たな取り組みを単純に上乗せして、仕事を増やしてしまったらどうなるでしょうか。
社員のモチベーションの低下や売上の低下、あるいは離職率の増加などマイナスの影響が出てしまう可能背も十分にあります。
そして組織力の向上も中途半端に終わってしまうという最悪のシナリオもあり得るでしょう。
いくら組織力を上げるのが大事だとしも、現場に余裕がなければ絵に描いた餅に終わってしまうということです。
では、どうすればよいかといえば、単純に現場に余裕を持ってもらう取り組みを先に行えばよいのです。
しかし、組織営業の仕組みがない状態で、新たな人員を採用してしまうと、教育の手間などが増えたり、採用の当たりはずれにも影響を受けることにつながります。
まずは人員はそのままで、業務効率をアップさせる取り組みを行う必要があると考えてよいでしょう。
(絶対的に人員が不足している場合には、採用も並行して行う必要があります)
つまり、組織力を上げるためには、現場に余裕を持たせるために、業務効率のアップ=生産性の向上もセットで取り組むべきということになるわけです。
では、営業組織にとっての生産性の向上とは具体的にどのようなものなのでしょうか。
営業組織にとっての生産性の向上とは
営業組織にとって、生産性を向上させるということは、
営業パーソンの労働時間当たりの売上を向上させる
ということとイコールです。
ある営業パーソンが月に160時間働く場合に、1,600万円の売上を上げたとすると、この営業パーソンは1時間当たり10万円の売上を上げられる生産性を持っているということになります。
これがもし、同じ労働時間で、月に2,400万円の売上を上げられれば、生産性が1.5倍になったということですね。
ここでポイントになるのは、「同じ労働時間」という部分です。
例えば労働時間を1.5倍にして売上を1.5倍にした場合、売上は上がっても、生産性は変わりません。
単に労働時間を増やしてしまうと業務効率が落ちたり、活動の質が低下することが一般的ですので、生産性は低下することになります。
残業代を出さずに営業パーソンに根性で頑張ってもらうといったことをすれば数値上の生産性は上がるかもしれませんが、そんなことは長続きできません。
(そういったことを行っているのがいわゆるブラック企業です)
いまの時代に求められているのは、労働時間を増やさずに業績を上げるための方法論です。
生産性の向上させる取り組み
では、具体的に営業組織の生産性を上げる取り組みを考えてみましょう。
一つの例として、訪問件数について掘り下げてみます。
一般的に、売上を向上させるためには、
「営業の質を上げて受注率を上げる」
「訪問件数を増やして商談数を増やす」
のどちらがが必要です。
ただし、競合他社の動向やそもそもの商品力などにも影響を受ける受注率の向上には限界があるため、売上を向上させるためには、訪問件数を増やすことがもっとも確実な方法といえます。
しかし、人員が増えていない状態で単純に訪問件数を増やすことは、営業部門の負荷が増大することにつながります。
何も考えずに訪問先を増やせば、玉石混合で売上につながりそうもない誤った見込み顧客に多くの時間を使ってしまうことにもなるでしょう。
では、生産性向上につながる訪問件数の増加施策とはどのようなものなのでしょうか。
売上向上に結び付く訪問件数を増やすためには、
「正しい訪問先を選別する」(=売上につながらない訪問を減らす)
「営業日報作成などのルーチンワークの負担を減らす」(=訪問に使える時間を増やす)
「会社に戻らなくても仕事ができる」(=訪問に使える時間を増やす)
仕組みを実現させることが必要です。
営業パーソンの負荷を減らす仕組みを導入して、はじめて訪問件数を増やしつつ、生産性も向上させることができるようになるのです。
営業パーソンが嫌うのは無駄な訪問とルーチンワーク
営業パーソンがもっとも嫌うことは、「売上につながらない顧客への訪問」と「意味があると思えないルーチンワーク」です。
マーケ担当や営業企画部門から売り上げに結び付きそうもない顧客リストを渡され続けた営業パーソンは、リストをもとにした積極的な訪問を行うことはありません。
そのような状況では、どうしても訪問しやすい既存顧客のところに足が向いてしまいます。
ですから、効率的に時間を使ってもらうためには、営業パーソンが訪問したいと思えるようなホットな顧客をリストアップし、優先順位をつけて効率的な訪問を行ってもらう必要があるのです。
また、訪問件数を増やすための阻害要因となっているのが、営業日報作成などのルーチンワークです。
ルーチンワークは必要な業務ではありますが、それ自体が価値を生む作業ではありません。
しかし、多くの企業では、上司が営業パーソンの行動を監視するためのやたら細かくて、書式だけにこだわった営業日報が作成され続けています。
そんなことをやっていては、いつまでたっても生産性の向上は見込めません。
無駄に時間のかかる営業日報を廃止し、必要最低限の項目だけスマホから簡単に入力できるような仕組みを実現できれば、営業パーソンが価値を生む顧客訪問に時間を使うことができるようになるのです。
移動時間に割いている時間をできるだけ減らす
営業組織の生産性向上を妨げるもう一つの阻害要因は「移動時間」です。
顧客を訪問するという業務の性質上、どうしても営業パーソンの移動時間は多くなりがちです。
いくら近くの顧客をまとめて回るようにするといっても、顧客側の都合もありますので、限界があります。
しかし、確実に削減できる移動時間があります。
それが出社に要する移動時間です。
極論ですが、もし一切出社しなくても仕事が回せたらどうでしょうか。
自宅から会社へ、会社から顧客先へ、顧客先から会社へ、といった移動時間が減らせればかなりの効率化が見込めます。
もちろん出社を完全になくすことはできませんが、
- 効率的で簡便な情報共有の仕組みを作って、社内での営業会議を減らす
- ルーチンワークは外出先で行える仕組みを導入する
といったことが行えれば、多くの無駄な移動時間を減らすことができるのです。
業務効率化で訪問件数を3倍に
そんなことが本当に実現できるのか、といった疑問を持つ方もいるかもしれません。
しかし実際に、毎日午前と夜に社内で行っていたルーチン業務を効率化し、日中の時間のほとんどを顧客訪問に回すことができるようになり、月間訪問件数を3倍にできた企業も存在します。
もちろん訪問件数3倍というのは、今日・明日ですぐに実現できる数字ではありません。
また、扱っている商材や1件当たりの商談時間などにも影響を受けますので、単純に1日に5件回っている営業パーソンが15件回れるようになる、というものでもありません。
しかし、一つ一つ手を打っていくことで、生産性の向上は確実に行うことができます。
根性論ではなく、営業パーソンの負担を減らす仕組みを作り上げて、訪問件数を向上させるようなマネジメントを行えれば、業績も向上し、さらに組織営業の仕組みを構築する余裕も生み出すことができるでしょう。
まずは自分たちで仕組み化を進めてみる
実際にCRMやSFAを導入しようとすると、必ずネックになるのがどのように効果的な導入を行うのかです。
CRMやSFAのサービスの利用料はZohoをはじめとして、低価格ものも増えてきましたが、外部のコンサルタントなどに導入支援を依頼する場合、その導入支援費用などは、単純な金額を見た場合には、中小企業がポンと投資できる金額ではないことが一般的です。
そこでお勧めなのが、ある程度自分たちで試してみて、自分たちでも継続して利用できそうで、効果がありそうな場合に、さらに自分たちで活用を進めるか、外部のコンサルタントなどに支援を仰ぐかを決めるという方法です。