カスタマーサクセスとは? 導入の課題と解決策

カスタマーサクセス(CS:Customer Success)は、顧客の満足度を上げることで継続利用を促しLTV(Life Time Value:顧客生涯価値)を最大化させるための活動です。組織内での位置付けやKGI・KPIの選定を理解しましょう。

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カスタマーサクセスとは? 導入の課題と解決策
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カスタマーサクセスとは?

カスタマーサクセス(CS:Customer Success)とは、既に商品を購入している顧客に対し能動的に関わり支援することで「顧客が望む成果の達成(顧客の成功:カスタマーサクセス)」に導くことを指します。

その結果として解約率の減少、アップセル・クロスセルの増加、顧客ロイヤルティの向上につながり、LTV(Life Time Value:顧客生涯価値)を最大化させることができます。

簡単に言ってしまえば、顧客の満足度を上げることで継続利用や追加購入を促すための活動です。

カスタマーサクセスとカスタマーサポートの違い

カスタマーサクセスはよくカスタマーサポートと比較されますが最大の違いは「能動的かどうか」です。

カスタマーサポートは、顧客からの問い合わせに対応する行為ですが、カスタマーサクセスは顧客が期待する成果を実現するために、導入の支援や定例ミーティングやウェビナー開催など能動的な支援を行います。

これは、カスタマーサクセスの目的が「顧客の成功(カスタマーサクセス)」であるのに対し、カスタマーサポートの目的は「顧客の不満や不便の解消によって、顧客満足度を上げること(下げないこと)」であるからです。

カスタマーサクセスとカスタマーサポートはそれぞれの概念が部署名にもなっています。両者の違いはKPI(重要業績評価指標)の設定の違いにも表れており、カスタマーサクセスのKPIは後述する「解約率」「アップセル率・クロスセル率」などであるのに対し、カスタマーサポートのKPIは多くの場合「対応回数」や「返信時間の短さ」になります。

『The Model』におけるカスタマーサクセス

カスタマーサクセスは『The Model』型の分業体制の一つです。

『The Model』(福田康隆、翔泳社)では、米国SaaS企業日本法人の営業プロセスの改善を目的にを「マーケティング」「インサイドセールス」「フィールドセールス」「カスタマーサクセス」の4部門での分業制を紹介しています

マーケティング/営業活動におけるインサイドセールスの定義

営業プロセスの一連の流れの中で、カスタマーサクセスは、購買後の顧客の継続・追加購入を促す役割を担います。

カスタマーサクセスの教科書として世界的に知られている『カスタマーサクセス サブスクリプション時代に求められる「顧客の成功」10の原則』(ニック・メータ/ダン・スタインマン/マーフィー・リンカーン、英治出版)では、「本当の意味での顧客第一主義」と言及しています。

うまくいっている企業では、1日も欠かさず顧客の成功を目指している。自分の成功のことは考えていないのだ。(中略)
顧客第一主義を究極まで取り入れるということは、顧客の話を聴き、クラウド、モバイル、ソーシャルメディア、分析技術などを活用して、自社のサービスを顧客の立場に寄せて運用するということだ。本当の意味で顧客を大切にするということは、顧客のまだ満たされていないニーズを深く理解するということである。その理解が自社の組織でカスタマーサクセスを運用するための戦略、チーム、仕組みを築く基盤となる。
出典:『カスタマーサクセス サブスクリプション時代に求められる「顧客の成功」10の原則』(ニック・メータ/ダン・スタインマン/マーフィー・リンカーン、英治出版)

営業部門とカスタマーサクセス部門の連携が重要としたうえで、全社レベルで取り組む課題であり「カスタマーサクセスを企業の核に据える」べきであるとされています。

もちろん営業部門との連携なくして顧客に適切なアプローチは行えませんが、カスタマーサクセスは顧客のニーズを拾い上げ、フィードバックする役割があるため、開発系部門や経営陣との連携も必要です。

顧客の満足度を向上させるためには、全ての従業員が企業におけるあらゆる行動の際にカスタマーサクセスを意識し、業務に当たり、連携できる体制を整えることが重要だといえます。

どのような組織にカスタマーサクセスが必要なのか

「カスタマーサクセス」は2000年ごろに米国SaaS企業が浸透させた概念です。

同社が提供するのはクラウドサービスのため、オンプレミス製品のように導入時に大きな売上が立ちません。そのため利益率を向上させるには「長期的に継続利用してもらう」必要があります。

そこでシステムを導入するだけでなく、その後も継続的にシステムを利活用してもらい、顧客の業務改善を支援していくために「カスタマーサクセス」という役職が誕生しました。

現在、この考え方はSaaSなどのサブスクリプション型のビジネスを中心に広く取り入れられています。

また、サブスクリプション型のビジネス以外でも「カスタマーサクセス」の考え方は応用できます。

例えば、ホテルやレストランなどのサービス業界では、顧客の満足度がビジネスの成功に直結します。
そのため、カスタマーサクセスのアプローチは、顧客のニーズを理解し、サービスの質を向上させることに焦点を当てます。
具体的には、会員制度を導入し、顧客の過去の滞在履歴や利用頻度に基づいて特典や割引を提供したり、ホテル周辺の観光スポットやレストランの情報、交通手段などの情報を提供したりといったサービスを行うことで、顧客満足度を向上させ、リピート利用を促進します。

能動的なアプローチによって顧客の満足度の向上を図り、継続的な利用を促すというカスタマーサクセスの考え方は、再来訪や再購入などリピート利用がありうる業態においても応用することができるのです。

カスタマーサクセスのKGIとKPI

「顧客の成功」の定義とは何か、何をもって顧客の成功とするのでしょうか。1つの大きな指標はLTV(Life Time Value:顧客生涯価値)です。製品の満足度やサービスの満足度を通して「顧客の成功」をとらえることもできますが、定性的な部分も含めて「顧客が成功」を感じ、その成功の結果として生じるのがLTVだととらえることができるため、多くの企業が重視しています。

カスタマーサクセスのKGIはLTV(ライフタイムバリュー)を最大化させること

LTV(Life Time Value:顧客生涯価値)とは、ある顧客が生涯にわたって自社にもたらす利益の総額を指します。LTVの向上には取引の継続と拡大が必要ですので、カスタマーサクセスのKGI(経営目標達成指標)として最適といえます。

LTVの算出方法はいくつかありますが、主に以下の計算方法で算出されます。

  • 顧客の年間取引額×収益率×顧客の継続年数
  • 平均顧客単価÷解約率
  • 平均顧客単価×平均購入回数

顧客のセグメンテーション

ハイタッチ・ロータッチ・テックタッチ

カスタマーサクセスでは、限られたリソースを有効に使いながら可能な限りすべての顧客に対応を行うために、KGIであるLTVを軸として顧客を「ハイタッチ」「ロータッチ」「テックタッチ」に分類し、対応内容を差別化します。

分類

LTV

支援スタイル

具体例

ハイタッチ

個別にカスタマイズされた支援

・個別訪問でのヒアリング
・定例MTG

ロータッチ

1対多の支援

・ワークショップ
・セミナー

テックタッチ

デジタルを駆使した画一的な支援

・説明動画
・チャットボット

ハイタッチ

ハイタッチとは、LTVの高い顧客群を指します。
顧客への対応としては、課題に対する提案、導入前に行う指導やアドバイス、導入にあたってのカスタマイズ、導入時に実施する社内勉強会、運用が始まってからのユーザー個別サポートなど、「その企業ならでは」の個別の対応を行います。

ロータッチ

ロータッチとは、LTVがハイタッチ程ではないものの、ある程度高い顧客群を指します。
顧客への対応としては、個別の訪問までせず、電話でサポートしたり、ワークショップ、他企業事例の勉強会などのセミナーなどで利用を促したりします。

テックタッチ

テックタッチは、ロータッチよりもさらにLTVの見込みが小さい顧客に対する対応を指します。
顧客単価が低くても最も人数が多い顧客層であり、チャットボットでの回答や、ウェビナー動画の配信などのITテクノロジーを駆使してなるべく全員に対応できるようにします。

RFM分析

カスタマーサクセスによってアプローチを行う対象を選定する手法として、RFM分析を行うこともあります。

RFM分析は、Recency(直近の購入)、Frequency(購入頻度)、Monetary(購入金額)の3つの指標で顧客を分類する方法です。

Recency(直近の購入)

Frequency(購入頻度)

Monetary(購入金額)

ランク1

1週間以内

5回以上/年

2万円以上

ランク2

1カ月以内

3回以上/年

1万円以上

ランク3

3カ月以内

2回以上/年

5千円以上

ランク4

1年以内

1回以上/年

千円以上

上図のように、3指標を細分化し、それぞれを組み合わせてグループ分けをします。
例えば自社製品をよく利用してくれているランク1や2の顧客にはハイタッチなサポートを実施したり、特別なサービスや特典を提供したりすることで、顧客の満足度やロイヤルティを向上させることができます。

カスタマーサクセスのKPIの例

カスタマーサクセスのKPIは企業によって様々なものがありますが、以下の4つは重要な指標ですので個別に紹介します。

  • 解約率
  • アップセル率
  • 顧客単価
  • 利益率

解約率

解約率は、一定期間の間に契約している顧客がどのくらいの割合で解約するか把握する指標です。英訳でチャーンレート(Churn Rate)とも呼ばれます。

特にSaaSは長く契約が継続することで収益を上げられるため、チャーンレートをKPIとし、目標設定するケースも多いです。

カスタマーサクセスが機能すれば、CX(顧客体験)が改善され顧客はサービスを継続利用するため、解約率を引き下げることができます。

顧客がSaaSを解約する理由に関して、株式会社RevCommが実施した「SaaSの継続・解約理由に関する実態調査」では、「操作性(55.9%)」「費用対効果(55.6%)」次いで「カスタマーサクセスの対応に満足できなかったから(39.2%)」が挙げられています。

逆にSaaSの継続理由の上位は「操作性(58.5%)」「導入後のサポート(54.3%)」「カスタマーサクセスの対応や提案が的確(41.5%)」となっています。

いずれも「操作性」「価格」に次ぐ順要素として「カスタマーサクセス」が来ており、契約の継続・解約を判断するうえで重要な基準となっていることが分かります。

そんな中でも、カスタマーサクセスが行う顧客への最初の対応であり、顧客にとってのカスタマーサクセスの印象を左右するのがオンボーディングです。

オンボーディングとは

オンボーディングとは、顧客がサービスを導入した際に正しく定着できるよう行う支援を指し、端的にいえば導入支援です。

「船や飛行機に乗る」という意味の「on-board」から派生した言葉で「新規のクルーに対して、必要なフォローを行うことで、船・飛行機に慣れてもらう」というニュアンスです。

カスタマーサクセスが最初に行う支援であり、船や飛行機と同じように「製品に慣れてもらう」という目的があります。

多忙な社員の多くは変化を嫌い、新規に導入するソフトやツールをなかなか利用しません。そのため、定着までに時間が掛かることも多いです。最悪の場合、導入した直後からほとんど使われないまま、利用をやめてしまう場合もあるでしょう。

そうした状況に陥るのを防ぐために、適切な使いはじめの支援を行うのがオンボーディングです。

具体的には、顧客の会社に訪問して導入支援を行ったり、ワークショップを開いたりするといった方法をとります。

オンボーディングに特に力を入れて成功したのが、クラウド名刺管理サービス「Sansan」です。

Sansanのカスタマーサクセス部門をゼロから立ち上げた、取締役の富岡圭氏は以下のように語っています。

Sansanというサービスはメリットを実感してもらうのが難しく、そもそも使ってもらわなければ価値も出せません。つまり顧客価値を生み出すために「まず使ってもらうことが大事」という想いから、カスタマーサクセス部門が創設されました。従って当初はオンボーディング支援が重視されました。

出典:国産カスタマーサクセス事例(2)Sansan(SuccessGAKO)

この姿勢をカスタマーサクセスの立ち上げ時から変わらず続けた結果、Sansanの解約率は0.44%という業界トップクラスの実績を納めることに成功しています。

アップセル率

アップセルとは、顧客が購入したもの・購入しようとしているものよりも、上位のプランやモデルをおすすめすることで、顧客単価の向上を目指す営業手法の一つです。

また、ユーザーが購入を検討している商品に関連したものを提案することで顧客単価の向上を目指す手法をクロスセルといいます。

これらはサブスクリプション型のサービスにとって非常に重要な概念です。

というのも、アップセル・クロスセルが成功すれば、LTVを高めることができるからです。

そのため、カスタマーサクセスではアップセル率やクロスセル率をKPIとして設定することがあるのです。

ただし、アップセルやクロスセルを実施する際は、強引な営業による失注や信用の喪失が起こらないように注意しなければなりません。

具体的には、対象とする顧客を選定する必要があるのですが、詳細な選定方法やアップセル・クロスセルの手法は「アップセル・クロスセルとは?戦略の違いと提案方法」をご確認ください。

顧客単価

顧客単価もカスタマーサクセスのKPIとして設定されることがあります。

顧客単価が高い場合、顧客が企業からのサービスや製品に満足しており、継続的に収益を生み出している可能性が高くなります。

計測の際には、新規顧客と既存顧客、購買・契約した商品など、顧客の属性によって分類することで、より詳細な分析が行えるようになります。

利益率

利益率は、企業の収益とコストのバランスを示す重要な指標です。

カスタマーサクセスのKPIとしての利益率は、顧客満足度の向上や顧客ロイヤルティの向上が、利益率の改善にどのように影響するかなど、カスタマーサクセスとしての取り組みの効果を評価するのに役立ちます。

カスタマーサクセス導入時によくある課題と解決策

売上につながらない誤ったKPI設定をしている

カスタマーサクセスの目的はLTVの最大化ですが、一口にLTV向上といってもその方法は、解約率を下げる・アップセル率を上げる・売上を伸ばす・顧客単価を上げる・利益率を上げるなど様々です。

そして、これらの何を優先し、どのように組み合わせるかは自社の規模やビジネスモデル次第で異なります。

そのため、適切でないKPIを設定してしまい売上が思うように伸びなかったり、KPIが定まらず、何をしたらいいのか分からなかったりすることはよくあります。

よくある事象として、顧客アンケートの結果、満足度が向上しているのに売上が伸びていない、ということがあります。

カスタマーサクセスの活動は、たしかに顧客を成功に導き満足度の向上させるものですが、「顧客満足度の向上」自体をKPIとするのは危険な場合があります。

顧客満足度は重要な指標ではありますが、その変動はあくまで解約率や顧客単価を変化させる要因の一つに過ぎません。
ホテルやレストランのように、顧客の満足度がリピート利用に直結するような場合でなければ、KPIとして設定することは適切とは言えません。

あいまいな指標を排除し、自社にとっての重要指標を分解して、売上と相関がある指標でありかつカスタマーサクセス職が日常業務で意識しやすい指標もKPIとして設定するようにしましょう。
LTVや顧客満足度は計測こそできるものの直接コントロールできない指標ですので、「アップセル売上高」や「クロスセル売上高」「平均解決時間」や「顧客フォロー数」などKPIに設定しておくべきです。

営業部門との連携

カスタマーサクセスは、組織全体がチームである意識を持ち、連携できるような体制を整えるのが重要ですが、中でもつながりが深いのは営業部門です。

特に受注時の情報の引き継ぎがしっかりと行えていないとオンボーディングやその後の施策の品質にも影響します。

実際に、株式会社RevCommが実施した「SaaSの継続・解約理由に関する実態調査」では「カスタマーサクセスの対応に満足できなかったポイント」として約8割が「顧客情報の共有ができていない」を挙げています。

顧客の満足度に大きく関わる要素ですので、顧客の詳細情報はもちろん、どういった経路で受注に至ったのか、受注までに行った対応の内容まで顧客データベースとして整理して共有しなければなりません。

カスタマーサクセス導入時の課題を解決するCRM

「適切なKPIの設定」と「営業部門との連携」というカスタマーサクセスの2つの課題を取り上げましたが、どちらもCRM(顧客管理システム)を導入することで解決することができます。

CRMとは、顧客の属性や商談、購買情報を全て一元管理できるシステムです。顧客情報を関連付けながら営業活動をはじめとした顧客とのコミュニケーションの履歴を定性的、定量的に保存できるため、営業活動やマーケティング活動の見える化に最適なシステムです。

例えば、KPIとして適切な「自社の売上と相関がある指標」をCRMのレポート機能を用いて探ることができます。

また、営業・マーケティング部門とともにCRMを用いて顧客管理を行えば、情報の受け渡しもスムーズに行えますし、受注経路やコミュニケーション履歴まで記録しておくことができます。

カスタマーサクセスでCRMを使用する際に必要な機能をまとめると以下ようになります。

顧客情報管理

顧客の基本情報(連絡先情報、会社情報など)や購買履歴などのデータを一元管理できる機能。
顧客のデータを集約し、容易にアクセスできるようにすることで、カスタマーサクセスチームが顧客の状況を把握しやすくなります。これに加えて、過去の対応状況を記録できるものを選びましょう。

タスク管理

カスタマーサクセスチームが実施すべきタスクやイベントを管理し、スケジュールや優先順位を設定できる機能。
定期的なフォローアップやイベントの予定管理を支援し、効率的な業務遂行を可能にします。

顧客セグメンテーション

顧客を特定のセグメントに分類し、それぞれのセグメントに対する適切なアプローチを設計できる機能。顧客ごとに、個別にカスタマイズされたサポートやサービスを提供することができます。

レポート、分析

カスタマーサクセスのパフォーマンスや顧客満足度を定量的に評価し、改善のための洞察を得るためのレポートおよび分析機能。
顧客の行動パターンやトレンドを把握し、戦略の調整や効果の測定に役立ちます。