ターゲットの特定と競合分析のやり方

個人対象ではなく法人向けであるBtoB広告は、意思決定者を意識した展開が必要であり、広告のターゲティングが重要です。ターゲティングは広告の成果を大きく左右する要素であり、競合分析を通じて自社の強みを最大限に活かす戦略を練ることが、BtoB広告施策の成功につながります。このレッスンでは、ターゲットの特定と競合分析の方法を説明します。

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ターゲットの特定と競合分析のやり方
目次

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ターゲットを特定するための分析

BtoB広告戦略での「ターゲット特定」とは、自社の製品やサービスに最も適した企業を明確にし、彼らに対して効果的な広告を届けるプロセスの一部です。

ターゲットの特定は特に、BtoB広告戦略の土台を築く重要なステップであり、プロセス全体の鍵を握ります。企業の購買プロセスに複数の意思決定者が関与しやすいというBtoBの特性上、ニーズに合うメッセージと意思決定者に合わせたアプローチを行い機会獲得を最大化ためにも、精度の高いターゲティングが重要になるからです。

ターゲットは、まずペルソナを設定し、企業規模や業種のデモグラフィックデータや顧客心理特性、顧客行動データを分析しながら絞り込みを行います。定めるべき内容と分析要素について、次に解説します。

1.ペルソナの設定

ターゲットを正確に特定するための第一歩は、ペルソナの設定です。ペルソナとは、理想的な顧客像を具体化したものです。

まずは、自社の製品やサービスが解決する課題や提供する価値を明確にし、それに最も適した企業や意思決定者のプロファイルを描いてみましょう。ターゲットとなる企業の業種、規模、所在地といった基本的なデモグラフィック情報、意思決定者の役職と組織内での役割、などの要素を考え、ターゲット企業の全体像をイメージしていきます。これらの情報を明確することで、例えば、企業の所在地による地域特性や市場の影響を踏まえた訴求、組織内の役職情報からは予算などの経済的なメリットを強調するなど、が可能になります。

さらには、顧客の情報をより深く掘り下げます。顧客が直面している課題やニーズを把握し、購買に至る動機や意思決定のプロセスを理解した上で、より具体的なペルソナを作成します。

例として、ITインフラの効率化を改善する商品を提供する企業を挙げ、ペルソナの設定を紹介します。

ペルソナ1: IT部門の管理職(ITマネージャー)

  • 役職: ITマネージャー、ITディレクター
  • 年齢: 35~45歳
  • 業種: 製造業、金融業、ITサービスなど(技術インフラが重要な業種)
  • 企業規模: 500~1000人規模の中堅企業
  • 所在地: 都市部、もしくは技術導入が活発な地域(例: 東京、名古屋、大阪)
  • 業務内容: システムの運用管理、トラブル対応、ITインフラの更新li 導入の意思決定
  • 主な課題:
    1. システムの老朽化によるパフォーマンスが低下している
    2. 現在のインフラが最新技術に追いついていない
    3. トラブル対応の工数がかかり、業務が効率的に進まない
  • ニーズ:
    1. システムの効率化やパフォーマンス向上を図りたい
    2. 最新技術への対応を早め、社内の生産性を向上させたい
    3. トラブルの頻度を減らし、日々の業務負担を軽減したい
  • 訴求メッセージ:
    1. 「システムパフォーマンスを大幅に向上させ、運用の手間を削減!」
    2. 「最新技術対応でトラブル対応の時間を削減!」
    3. 「インフラの更新で、将来の成長を支える基盤を構築」

2.デモグラフィックデータを分析

ターゲットを特定するために、ペルソナに記載していないような更に細かな情報を掘り下げていきます。以下の5つの要素を細かく分析しましょう。

1. 企業規模の分析

企業規模に応じて組織のリソースやニーズが異なることが想定されるため、正しくターゲットを定めるには企業規模の分析も含まれます。企業規模を明確にするための要素として、従業員数、売上高の2つを分析してみましょう。分析の上、更に小規模企業、中堅企業、大企業のどれに当てはまるか分類してみましょう。

従業員数

企業の公開情報(企業の公式ウェブサイトなど)、企業データベースツール、業界レポートなどを調査し、企業の従業員数を把握します。また従業員数により企業規模を分類します。

例)
小規模企業: 50人未満
中小企業: 50~500人
大規模企業: 500人以上

売上高

売上高は、企業の財務状況や市場でのパフォーマンスを示す指標にもなり、売上が大きい企業は、財務的に余裕があり、新しい技術やソリューションへの投資意欲が高いという判断を下す指標にもなり得ます。企業の公開財務報告、業界レポート、ビジネスデータベースを使用して、調査します。

例)
小規模企業: 年間売上1億円未満
中規模企業: 年間売上1億円~50億円
大規模企業: 年間売上50億円以上

コストが安価かつ運用がシンプルであり、短期間で効果が出る特徴の商品であれば、小規模企業はターゲット対象でしょう。小規模企業はリソースが限られやすいため、初期導入コストが低く、運用が容易なソリューションを好む傾向があると予測できるからです。

反対に大企業の場合は、コストよりも品質やスケーラビリティ、長期的なサポート体制を重視する傾向がありますので、コストや短期間での効果を売り出すサービスよりも信頼性が高い・導入企業が多い、複雑なニーズに応じたカスタマイズ可能なサービス提案が可能である、といった強みのある商品の方が望まれやすいと考えられます。

このように、2つの要素を総合的に見た上で、小規模・中規模・大規模のどの領域がターゲット対象かを判断します。

2. 業種の分析

業界の分析は、業界の動向、業界の市場環境、などの調査が含まれます。

市場レポートや統計データを活用し、市場全体の成長率を確認したり、CRM(顧客関係管理)/SFA(営業支援)ツールによる顧客行動のデータから業種特有の需要動向を分析します。中でも、一番にキャッチすべき情報は業界特有の課題やニーズです。

業界課題を知るには、最新トレンドを調査する必要があります。業界レポート、ニュースサイト、業界団体のリリース情報などから業界全体が現在直面している課題や、将来的に重要になる技術や動向を把握します。その結果、企業のニーズや期待される解決策を予測できるようになります。ここまで分析した上で、自社の商品やサービスが企業のニーズや期待される解決策となりえるのか、を踏まえターゲット対象かを特定します。

3. 役職と役割の分析

BtoBビジネスでは複数の関係者が関与する可能性高いため、誰が決裁権を持ち、誰がどの役割を担っているのか、を明確にすることが重要です。その上で、各役職に応じた異なるニーズや関心を理解し、ターゲット対象内外かを判断します。

例えば、IT企業の管理職者の場合、技術的な効率化やシステムのパフォーマンスに注目する傾向にあり、一方で、経営層(最高情報責任者や最高技術責任者)は企業の長期的な存続や成長を重視します。さらに、大手のIT企業の場合は調達部門が存在し、価格やサポート体制、セキュリティを重視するといった特徴もあります。このように、それぞれの役職や役割によって意識する傾向が変わるため、これらを考えた上で対象を考えましょう。

3.顧客行動を分析

企業としての大きなくくりで業界や役職などの特性分析を前述しました。ここでは、顧客個人のニーズ、課題を深掘りする「顧客行動の分析」に焦点を当て、自社製品やサービスに対する購買意欲の段階を明確にし、ターゲットをさらに明確にしていきます。

顧客の行動を分析するには、CRM/SFAツールやGoogle Analyticsなどのデジタルツールを活用します。ツール利用により、ウェブサイトの閲覧履歴やメール開封率、クリックデータなどが見れるようになるため、これらの精度の高いデータから購買意欲を特定して区分けします。

実際にCRM/SFAツールを活用することでどのような行動データを得られるか、またそのデータからどのような分析ができるか、以下に例を挙げました。

CRM/SFAツールによる行動データの分析例

①購買履歴
過去に購入した商品やサービス、購入頻度、購入額などを把握し、顧客のニーズや購買パターンを予測

②問い合わせ・資料ダウンロード履歴
問い合わせ内容を確認し、顧客の困り事を確認し、どのような課題を抱えているのかを把握。ダウンロードされた資料の種別を分析し、興味のある領域を把握

③ウェブサイトの閲覧履歴
よく閲覧されているページを分析し、どの製品に興味を示しているかを把握。また、閲覧回数、訪問回数で意欲の高い顧客をターゲットとして特定

④メールの開封・クリック数データ
メールの開封率やリンクのクリックデータを分析し、顧客がどのような情報に関心を持っているかを確認。関心度の高いターゲットをターゲットとして特定

⑤商談履歴
過去の商談日時、商談回数、商談内容を分析。商談内容では何がきっかけになり、失注した場合はどのような点がネックになったのかを確認。広告表示除外すべき否か、という視点でターゲットを特定

顧客データを基に購買意欲を分類

①〜⑤のデータを分析することで、顧客の購買意欲がどの段階にあるかを、以下の3つのカテゴリーに分けることが可能となります。

①購買初期段階の顧客
メール開封のみ、資料ダウンロードフォームページに到達するも実際にダウンロードには至っていない、サイトの閲覧数が少ない、といった顧客は購買の初期段階にいる可能性があります。

②購買準備段階の顧客
問い合わせ数が複数回行われている、複数回資料ダウンロードされている、導入事例ページ、Q&Aやサポートなどの情報コンテンツページに複数回訪問している、といった顧客の場合はすでに情報収集を進めており、具体的な導入を検討している可能性があると考えられます。

③ 購買直前の顧客
商談履歴を確認し見積もりを依頼してきた顧客、商談の最終段階まで進んでいるものの保留になっている顧客、特定の製品ページや価格ページを複数回訪問している顧客などは、購買直前の顧客と考えられます。

①〜③の中でも最も優先度が高いのは、③の購買直前の顧客、であり即座にアクションを取るべきです。このようにデータを基に情報を分析することで購買意欲別で分類でき、最適なターゲットを特定するだけでなく優先順位も付けられるようになります。

競合分析のやり方

ターゲットを特定し自社の理想的な顧客像を明確にした後、次に行うのが競合分析です。競合分析を行うことで、自社の強みや弱みを把握し、競合との差別化を図ることができ流ようになります。特にBtoB広告では、競合の広告戦略を理解し、自社が持つ独自の価値を見極め、自社のメッセージがより効果的に響くようにすることが、広告の成功にもつながります。ここでは、競合分析の具体的な方法を解説します。

競合分析の目的

競合分析の目的は、競合他社と比較して自社の強みや改善点を客観的に把握することです。競合分析を通じて自社の優位性を明確にし、それを広告メッセージに反映させることで、ターゲット層に対して効果的にアプローチできるようになります。そのため、広告戦略を最適化する上で、競合分析は非常に重要なプロセスとも言えます。

特にBtoB広告においては、競合がどのような広告チャネルを使い、どのメッセージを発信しているかを理解することが、ターゲット層に対してどのようにアプローチするべきかを導く鍵にもなります。次に、競合分析を具体的にどのように進めるか、そのステップについて解説します。

競合分析の具体的なステップ

競合分析の具体的な6つのステップについて解説します。

1. 競合を特定する

自社が競合とする直接競合か、そうではない間接競合か、を特定します。

  • 直接競合: 自社と同じターゲット層に、類似した製品やサービスを提供する企業。
  • 間接競合: 類似の顧客層に対して、異なるソリューションや代替手段を提供する企業。

直接競合

まず、自社が直面している直接競合を先に特定します。同じ業界内で競合他社が提供するソリューションが、自社と比較して技術的にどれほど進んでいるか、または価格設定やサポート体制がどのように異なるかなどの要素を明確にします。

例えば、IT業界において、ある企業がクラウドソリューションを提供している場合、直接競合としては、同じクラウドサービスを提供する他の企業が考えられるかもしれません。競合他社が提供するクラウドサービスの技術的な強み、価格設定、導入の柔軟性やカスタマーサポートの内容を比較し、自社のサービスとの差別化ポイントを探ります。

間接競合

次に間接競合を明確にします。たとえば、ITインフラを最適化する企業の場合、クラウドサービス提供企業やアウトソーシング業者が間接競合となることがあります。これらの企業は、自社の提供するソリューションとは異なるアプローチを取っているかもしれませんが、顧客のニーズに対する代替的な選択肢として競合する可能性があることを視野に入れておきましょう。

2. 競合の製品・サービスを分析する

競合が提供している製品やサービスの詳細を調査します。特に、製品の品質、価格、顧客満足度、そして機能などを詳細に分析することで、競合のポジショニングを理解し、自社の差別化ポイントを明確にできます。ここで活用できるのがSWOT分析です。SWOTのそれぞれの分析要素は以下です。

  • Strengths(強み): 競合が優れている点、顧客に対して強力な訴求力を持つ箇所
  • Weaknesses(弱み): 競合が劣っている点、または自社が競合に勝っている箇所
  • Opportunities(機会): 競合が市場やトレンドに基づいて活かせる成長のチャンス
  • Threats(脅威): 競合が直面するリスクや市場の変動による脅威である箇所

例えば、ソフトウェアを提供しているBtoB企業の競合分析を行う場合、競合の製品が高機能であっても、価格が高すぎる場合やカスタマーサポートが不十分である場合は、それが「弱み」になります。対して、競合の強みとして、製品の技術的な優位性や高度なカスタマイズ機能があるかもしれませんが、逆に自社の「迅速な導入プロセス」や「コストパフォーマンスの高さ」を強調することで、差別化を図ることができます。

また、BtoBの顧客は長期的な関係を重視するため、競合の顧客満足度やリテンション率を分析することで、その企業がどれだけ顧客に信頼されているか、どこに課題があるかを把握することもできます。例えば、競合が市場シェアを拡大しているものの、サポートが悪化し、顧客離れが進んでいる場合は、自社にとっての「機会」として捉えることができるでしょう。このように、SWOT分析を活用して、競合製品やサービスを詳細に評価することで、競争優位性を高める戦略を立てることができるようになります。

3. 競合の広告戦略を調査する

競合がどのような広告戦略を展開しているかも調査します。広告を掲載するメディアやプラットフォーム(オンライン、オフライン含む)、使用しているクリエイティブ、広告のメッセージ内容、ターゲティング方法などを詳細に調べていきます。ツールを使って競合の広告キャンペーンを追跡し、どの戦略が効果的かを把握します。

調査方法は2種類、目視での確認とツールを活用した調査方法があります。

目視では、SNSや検索エンジンなどで直接、どの検索キーワードで表示されているか、使用されているクリエイティブを確認します。SNSはFacebook Ad Libraryという機能を活用すると、企業名を入力するだけで、競合が展開している広告キャンペーンを一覧で確認できます。

競合の広告戦略をより詳細に把握するために、有料ツールを活用する方法もあります。有料ツールを使うと、競合のオンライン広告のパフォーマンス、使用キーワード、広告のクリック率、広告の表示頻度や予算配分も確認でき、自社の広告戦略に反映できます。しかし得られるデータはあくまで推定値や過去の情報であるため、完全な精度を保証するものではないことを想定しておきましょう。

5. 競合のウェブサイトやコンテンツの質を分析する

次に、競合のウェブサイトやコンテンツの質を評価するための分析をしてみましょう。競合が提供するユーザー体験や発信しているメッセージを把握し、自社の強みを際立たせるための差別化ポイントは何か、を視点に調査します。

具体的には、競合のウェブサイトがどのように設計され、ユーザーにどのような体験を提供しているかを分析します。例えば、ユーザーが求める情報にどれだけスムーズにアクセスできるか、またサイト全体が直感的で分かりやすい構造になっているかなどを評価します。CTA(コールトゥアクション)ボタンの配置やデザインがユーザーの行動にどのような影響を与えているかも確認します。この情報を基に、仮に競合がユーザーフレンドリーなナビゲーションを提供していない場合、自社の広告では「簡単でスムーズな利用体験」を強調できるようになりますし、競合のCTAが弱い場合、自社広告ではより明確で行動を促すメッセージを打ち出すことの施策を打てるようになります。

コンテンツについては、質と量を評価します。競合が発信するブログ記事、ホワイトペーパー、動画など、どのコンテンツが最も効果的で、どの領域に注力しているのかを確認してみましょう。競合が成功しているコンテンツ形式やテーマを把握し、自社広告ではその形式を強化することで、より魅力的なコンテンツで差別化を図ることができます。

6. 広告クリエイティブとメッセージの分析する

競合が使用している広告クリエイティブやメッセージを分析します。主には、ビジュアルデザイン、キャッチコピー、訴求ポイントなどを調査し、競合のクリエイティブを参考にしながら、自社独自の強みを際立たせるクリエイティブやメッセージを考案します。

広告クリエイティブの分析では、ビジュアルやデザインの要素、コピーライティングのスタイルを詳細に調査し、ターゲットにどのようなメッセージが効果的に響いているかを把握します。たとえば、色使いやフォント、レイアウトがどのように視覚的に訴求しているかなどを視点に確認します。

メッセージの分析も重要で、競合がどのように製品やサービスを訴求しているかを調査し、特に顧客に響いているポイントを見極めます。この分析を参考に、自社の強みや差別化ポイントを反映した独自のメッセージを構築することで、競争力の高い広告戦略につながります。

ターゲットの特定と競合分析の統合

このレッスンで行った「ターゲットの特定」と「競合分析」を最後に統合し、最適な広告とは何かを考えてみましょう。

ターゲット層の詳細情報を基に、競合の強みや弱点を洗い出し、自社の差別化ポイントを明確にすることで、より精度の高い広告メッセージが作成できます。さらに、ターゲットの行動データと組み合わせ、タイムリーかつパーソナライズされた広告でアプローチすることで、競合との差別化が一層際立ち、より高いコンバージョン率を実現できるでしょう。