OODAループとは
元米空軍パイロットが考案「OODAループ」とは
OODA(ウーダ)ループとは、適切に意思決定をするためのフレームワークのことです。「Observe」(観察)、「Orient」(状況判断)、「Decide」(意思決定)、「Act」(実行)の4要素で構成され、それぞれの頭文字を取った総称です。
1970年代に元米空軍パイロットのジョン・ボイド氏が考案したとされています。。研究熱心で航空戦術家としても知られるボイド氏は、危険と背中合わせの戦場で迅速に意思決定し、行動に移すことを得意としており、40秒ほどで不利な状況から形成を逆転することから「40秒のボイド」との異名を持つほどでした。ボイド氏がOODAループを提唱した当初は、パイロットを対象としていましたが、現在ではビジネスをはじめ政治やスポーツなど、目まぐるしく変わる状況の中で素早い意思決定から行動に移す必要がある場面で用いられています。
「PDCA」と「OODA」 違いは意思決定スピードにあり
OODAループとよく比較されるのが、PDCAサイクルです。ともに改善や適切な意思決定を目指したフレームワークですが、両者の大きな違いはスピード感にあります。
PDCAサイクルは組織や個人の計画を立ててそれを実行し、結果をフィードバックする際に用いるフレームワークのことで、トヨタ生産方式に代表されるように主に品質改善や生産管理の改善手法として活用されてきた歴史的経緯があります。戦後の高度経済成長をけん引した日本企業の経営に大きな影響を与えたとされるPDCAサイクルですが、ある程度、時間をかけて改善策を検討すること前提となっているという側面もあります。
しかし、ITの発展などで時代とともに事業環境の変化が激しくなり、その対応にはスピード感が求められるように。次第に従来のPDCAサイクルでは対応が難しくなってきました。
こうした背景から登場したのがOODAでした。PDCAサイクルのように各ステップに対して順番に対応するのではなく、4つの行動を瞬時に行うことで瞬間的な判断に優れたOODAは、指示を待つことなく自考・自走できる組織構築の手法として、ビジネスの場でも活用が進むようになりました。瞬時の判断が求められる航空戦術から生まれたこともあり、近年のビジネス環境にマッチしたのです。
プロセスの進め方でも、PDCAサイクルとOODAループには違いがあります。PDCAサイクルが計画→実行→評価→改善を一つのサイクルとしているのに対して、OODAループは必要に応じて前のステップに戻ったり再スタートしたりと、柔軟にプロセスを変更できます。
こうした特徴から、OODAループはスタートアップや消費者ニーズの掘り起こしなど不確実性の高い状況下での判断、PDCAサイクルは管理プロセスの見直しなど仮説の検証にそれぞれ適しているとされています。
OODAループの実行手順
OODAループの各ステップの詳細について、詳しく見てみましょう。
Step1 Observe(観察)
OODAループの最初のステップは、Observe(観察)です。
ここでの目的は、市場や競合などを観察し、情報収集を行うことです。例えば企業の場合、競合他社の市場シェアを観察することなどが挙げられます。このプロセスを無視すると、客観的な根拠がない勘や思いつきで仮説を立てることになり、意思決定の精度が落ちます。消費者などターゲットを決め、トレンドや変化がないかどうかを調べましょう。
ただ、観察者に強い固定観念や思い込みがある場合、得る情報は偏りがちです。できるだけフラットな視点から、対象者/対象物を観察するように心がけましょう。
Step2 Orient(状況判断)
Observe(観察)で得た情報をもとに、Orient(状況判断)をします。言い換えると、状況を解釈して行動の方向性を見つけ、仮説を構築するのがこのステップにおけるメインテーマです。具体的には、「なぜこのような結果となったのか」を深掘りし、現状を変えるための手段を発見します。
意思決定者は、自らが持つ価値観や経験などを用いてObserve(観察)で得たデータを分析し、データを再構築します。時にこの作業は、無意識または本能的な直感に頼ることがあります。できるだけバイアスを排除しながら、データを分析することが大切です。
Step3 Decide(意思決定)
状況判断をもとに、ゴールを達成するためにどのように行動すべきか、意思決定(Decide)を行います。複数の選択肢の中から最善策を選べるように、過去の意思決定や達成するゴールなどを参照にしましょう。
意思決定は、具体的に以下のステップを踏みます。
- ①ゴールの確認:その行動を起こすことによってどうなりたいのかを明らかにする
- ②選択肢の提案:①を達成するために、できる行動をリストアップする
- ③最善策の選択:②の中から、ベストと考えられるものを選ぶ
Step4 Act(行動)
意思決定した内容を実践します。OODAループはスピード感が重視されるため、できるだけ早い段階で行動に移すことが大切です。行動することによって得た情報は、次のOODAループに反映させます。
OODAループの使用例
OODAループは、ビジネスをはじめ軍事戦略やセキュリティ、法律などさまざまな分野で活用可能です。日常生活においては、直感的に何かを選択したい時や相手への接し方、住宅購入をすべきかどうかの決断などに利用できるでしょう。
◯日常生活におけるOODAループの例
- Observe(観察):おなかが空いた。定食が食べたい
- Orient(状況判断):この近くに◯◯食堂がある。あそこは焼肉定食が900円で食べられて、ご飯はおかわり自由だ。他にも1,000円以下の定食が複数ある。また、同じエリアの■■食堂は、日替わり定食がおいしいと評判で、毎週水曜日は2割引になる。午後1時を過ぎているので、どちらもピークは終わっているだろう。
- Decide(意思決定):今日はおなかが空いているので、たくさん食べられそうだ。それに、焼肉定食が食べたいと決まっている。◯◯食堂に行こう。
- Act(行動):◯◯食堂に行く
ビジネスにおいては、例えば営業部門であれば競合に関する情報を収集して分析する、毎日のように流れてくる市場情報を収集して営業方針を検討することなどが使用例として挙げられます。特に新興企業であれば、不確実な状況の中で競合に備えた対策を講じる時に、OODAループは役に立つでしょう。
◯ビジネスにおけるOODAループの例
- Observe(観察):SNSで◯◯ペンが話題になっている。その影響からか、1日500本の受注が一気に1,000本に増えた。
- Orient(状況判断):現状の体制では、1日500本を製造するのが精一杯で、これ以上増やすことはできない。よって、1日1,000本を製造するのは不可能である。
- Decide(意思決定):臨時に24時間体制で製造することはできないだろうか。需要が多い期間だけバイトを雇い、労働力を補う。また、交代制にすることで無理のないシフトを組める。24時間体制なら1日1,000本の◯◯ペンを製造できることは可能である。
- Act(行動):◯◯ペンを1日1,000本製造する体制を整え、納期までに必要数を製造する。
もし、OODAループの途中で◯◯ペンの需要がさらに増し、追加受注が難しい状況になった場合は、以下のように再度OODAループを回します。
- Orient(状況判断):すでにフル活動しているため、1日1,000本以上の製造はできない。
- Decide(意思決定):追加受注を断ることもできるが、得意先のリクエストには、可能な限り応えるのがベスト。追加分を外注に依頼すればクライアントの希望する数量を納期までに終わらせることは可能だ。
- Act(行動):◯◯ペンの追加分を外注に依頼し、納期までに必要数を手配する。
OODAループのメリット
OODAループは、変化が激しく、不確実性が高い世の中での意思決定フレームワークとして、米Appleや米Googleなどのビッグテック企業が集まる「シリコンバレー」(米カリフォルニア州)を中心に世界中で活用されています。具体的なメリットとして以下のものが挙げられます。
①最善の判断を素早く引き出す
OODAループは、ゴールや決められたプロセスに縛られることなく、現状を判断し意思決定につなげます。さらに、意思決定の材料として最新情報や鮮度の高いデータを用いるため、“現時点”における最善の判断を素早く引き出すことにつながります。
②意思決定までがスピーディ
OODAループの意思決定は現在の状況を軸としているため、事前に計画を練る必要はありません。これは、状況が大きく変化した際に、競合やライバルよりも1歩先に行動を起こすことができ、市場において有利に働きます。あらゆることにおいてスピードが求められる現代のビジネスにおいて、OODAループはさまざまなシーンに応用できます。
③創造性や革新性の活性化につながる
OODAループは、限られた時間の中で現状を的確に把握し、最適な答えを導き出す必要があります。短時間で未知の物事への対処法を見つけることから、実践者は必然的にクリエイティブに考えるようになります。創造性や革新性を高めることによって、課題を克服する新たなアイデアが生まれやすくなるでしょう。
④リアルタイムで戦略を修正できる
OODAループを実践することによって、市場のトレンドや顧客ニーズの変化に敏感になります。そのため、小さな変化も見逃すことなく、その場で戦略を見直し必要に応じて修正できるでしょう。スピーディーに改善することで、ゴールに早く近づけます。
OODAループのデメリット
OODAループを活用する際、以下のデメリットが生じるおそれがあります。実践する際の留意点として覚えておくとよいでしょう。
①組織全体の統制に影響が出る可能性がある
OODAループは、現場の判断で意思決定をして行動する点において効果を発揮しますが、度が過ぎると組織全体の統制を乱してしまう可能性があります。例えば、特定の商品に関する問い合わせが取引先から増えた場合、「クロスセル(関連商品の購入をを併せて促すこと)で他の商品も勧めてみよう」「営業エリアを拡大しよう」といった意思決定が考えられます。しかし、個人や部門の独断で行動すると、主体性を超えて自分勝手な行動につながる可能性が高まります。臨機応変に行動するのは必要なことですが、行動する前に、意思決定によって得られる結果が顧客や自社が求めるものと一致するかどうかを確認しましょう。
②改善点を発見しにくい
OODAループは、現在進行中の事実に対して意思決定を下します。加えて検証プロセスがないため、改善点に気づきにくく、かえって問題解決に時間がかかる可能性があります。特に、Observe(観察)の段階で得た情報が古い、誤った解釈をしたといった際には、その傾向が強まるでしょう。
OODAループのデメリットを避けるには、仮説の検証を前提としているPDCAサイクルと組み合わせることです。OODAを実践した後に、PDCAサイクルで行動を振り返ることで、改善すべきことが把握しやすくなるでしょう。
PDCAサイクルを実践し、サイクルがうまく回らなくなった原因についてOODAループを使って見つけることも、効果的なOODAループの活用方法の一つです。
関連用語
ここではOODAループの関連用語として、SWOT分析をご紹介します。
SWOT分析
SWOT分析とは、以下の4つの要素で構成する、経営戦略のフレームワークのことです。
- 「Strength」(強み)
- 「Weaknes」(弱み)
- 「Opportunity」(機会)
- 「Threat」(脅威)
これらの要素を用いて自社の内部環境と外部環境を分析して現状を把握し、経営方針の検討や改善点の発見などに役立てます。SWOT分析は、OODAループのOrient(状況判断)で活用可能です。Orientでは課題を明らかにしますが、SWOT分析を用いることによって戦略的な目標を抽出できるでしょう。
例えば、Observe(観察)によって「◯◯がトレンドとなっていて、各競合が関連商品の販売を始めた。順調に売上を伸ばしているようだが、わが社も参入できるのではないか」という仮説が生まれたとします。この場合、SWOT分析を用いて会社の強みや弱みを客観的に把握することで、ゴールと現状のギャップが明確になり「参入すべきか」「参入のためには今後何をすべきか」が見えてくるでしょう。