MECE(ミーシー)とは
MECE(ミーシー)とは
MECE(ミーシー)とは「Mutually Exclusive, Collectively Exhaustive」の略で、「漏れなく、ダブりなく」という意味で使われます。MECEは、収集した情報を整理するためのフレームワークで、情報の重複を避け、抜け漏れがないようにすることを目的としています。このフレームワークを使用すると、問題解決や意思決定の際に論理的思考を実践しやすくなります。
MECEを理解するため具体例
はじめに、営業におけるMECEの活用方法を紹介します。営業担当者として「アポ獲得数」を増やすための方法を考案している場合、次の要素はMECEとなっているでしょうか。
- 大手企業への営業
- 中小企業への営業
- メールでのアプローチ
- 電話でのアプローチ
一見、網羅されているように見えますが、このようなリストではMECEとはいえません。「大手企業」と「中小企業」は定義が曖昧で、重複が発生している可能性があります。また、「メール」や「電話」以外にもアポを取る手段は存在します。
適切にMECEを意識した例は次の通りです。
目的: | アプローチ対象: | 1人~5人 |
6人~30人 | ||
31人~100人 | ||
101人~ | ||
アプローチ手段: | メール | |
電話 | ||
飛び込み | ||
DM | ||
SNS | ||
ウェビナー | ||
展示会 |
次に、ビジネスシーンの戦略立案におけるMECEの活用を見てみましょう。例えば「新商品の販売戦略」を立案する際、販売方法として次のような案を出したとします。
- オンライン販売
- 自社ホームページ
- ソーシャルメディア
- 直営店販売
- アフィリエイト
こちらも一見、MECEのようですが、いくつか重複や漏れがあります。
まず、「自社ホームページ」は「オンライン販売」の一種のため重複しています。オンライン販売についても、「Amazon」「楽天市場」「Yahoo!ショッピング」といった特定のECサイトまで細分化しないと戦略立案から漏れてしまうでしょう。「直営店販売」に関しては、「取引先店舗」での販売が可能であれば、漏れが発生しています。
さらに、「アフィリエイト」は販売チャネルではなく広告手法です。また、「ソーシャルメディア」には決済機能がないため、販売チャネルというよりはプロモーション手段だと捉えるべきでしょう。したがって他項目と同列に扱うことは、MECEの観点からは不適切です。
このような観点をふまえ、MECEを意識して販売戦略を整理すると、次のようになります。
販売チャネル | オンライン販売 | 自社ECサイト |
楽天市場 | ||
Amazon | ||
Yahoo!ショッピング | ||
オフライン販売 | 直営店 | |
取引先店舗 |
MECEが必要な理由
MECEが必要な理由としては、以下の3点が挙げられます。
- 課題の全体像の把握
- プロセスの効率化
- 認識の共有
これら3点について、それぞれMECEが備わっていないと起こる問題を交えながら解説します。
課題の全体像の把握
MECEを意識して情報を整理しないと重要な要素を見落とす危険性があります。この情報の漏れは致命的なミスも招いてしまうため、避けなければなりません。例えば、プロジェクトの要件を洗い出す際にMECEを適用することで、全ての要素を網羅し、重複なく整理することができます。MECEは情報の整理や分類の原則であり、論理的思考をサポートするためにも重要です。MECEを意識し情報を整理することで、論理的な思考プロセスをスムーズに進め、より効果的な分析や意思決定が可能になります。
プロセスの効率化
MECEを怠ると、重複が発生し、同じプロセスを何度も繰り返してしまう可能性があります。例えば、営業アプローチの対象がMECEでないと、「同一顧客に対して異なる担当者がアプローチする」といったリソースの無駄使いやが生じます。このような重複や漏れを防ぐ、効率的に業務を遂行するためにも、MECEは欠かせません。
認識の共有
MECEではない情報を用いると、誤解や混乱が生じやすくなります。例えば、「大手企業への営業」「中小企業への営業」という表現で指示を出すと、ある人は「売上50億円以上が大企業」だと考え、別の人は「従業員数100名以上が大企業」と考えるかもしれません。これでは、漏れも重複が発生します。チーム内や取引先との認識を合わせ、コミュニケーションをスムーズに図るためにも、MECEは不可欠です。
MECEに考えるためのアプローチ方法
MECEのアプローチ方法には、主に、「トップダウンアプローチ(演繹的アプローチ)」とボトムアップアプローチ(帰納的アプローチ)の2種類があります。それぞれ詳しく解説します。
トップダウンアプローチ
トップダウンアプローチは、すでに結論がある場合に有効な方法です。この方法は、大きな視点から細部に向かって問題を分解します。例えば、企業が「新製品の年間売上目標を達成する」という結論を先に設定した場合、その結論に向けて具体的な販売戦略やマーケティング手法を考える際に有効です。このアプローチのメリットは、結論からスタートするため全体像を把握しやすく、明確な目標やゴールを設定しやすい点や計画的に進めやすい点です。トップダウンアプローチでは、以下の手順で進めます。
1. 結論を設定
まず最初に、明確な結論を設定します。例えば、年間売上目標を1億円に設定するといった具体的な目標を掲げます。この結論が全体のゴールとなり、すべての活動はこの結論を達成するために行われます。
2. 主要要素の分解
次に、その結論に至るための主要な要素を分解します。これには、販売チャネル、マーケティング手法、価格設定、顧客ターゲティングなど、結論に到達するために必要な要素を細かく分析します。例えば、販売チャネルにはオンライン販売、店舗販売、パートナーシップ販売などが含まれ、マーケティング手法にはデジタルマーケティング、イベントプロモーション、広告キャンペーンなどが含まれます。
3. 詳細情報の収集
その後、各要素に関連する詳細な情報を収集し、結論を補強します。例えば、各販売チャネルの効果を評価するためのデータを収集し、どのチャネルが最も効率的であるかを判断します。また、マーケティング手法の効果測定を行い、どの手法が最も多くの顧客にリーチできるかを確認します。さらに、競合他社の価格設定を調査し、自社の価格設定が市場に対して競争力があるかを分析します。
これらのステップを踏むことで、トップダウンアプローチを効果的に実行し、明確な目標に向かって計画的に進めることができます。
ボトムアップアプローチ
ボトムアップアプローチは、ある程度の情報は揃っているものの、結論が出せていない場合に有効です。この方法は、細部から全体に向かって考える方法で、例えば市場調査データや顧客のフィードバックなどの具体的な情報をもとに、最終的な結論や戦略を導き出す場合に有効です。このアプローチのメリットは、高い柔軟性にあり、さまざまな状況や細かなニーズに対応できる点です。ボトムアップアプローチでは、以下の手順で進めます。
1. 情報の収集
まず、可能な限り多くの情報やデータを収集することから始めます。この段階では、市場調査データ、顧客フィードバック、販売データ、競合分析など、必要な情報を幅広く集めます。例えば、新市場参入の戦略を立てる場合、市場の動向や顧客のニーズ、競合他社の状況などの詳細なデータが必要です。
2. ブレインストーミング
次に、チームでアイデアを出し合い、様々な視点を検討します。このブレインストーミングのステップでは、収集したデータをもとにチームメンバーが戦略のアイデアを出し合い、ディスカッションを行います。例えば、収集した市場調査データを基にして、どのようなアプローチが最も効果的かを検討します。
3. 情報のグルーピング
その後、収集した情報やアイデアをグルーピングし、関連性を整理します。ここでは、顧客ニーズ、競合戦略、内部リソースなどに情報を分類していきます。例えば、顧客のニーズに関連する情報を一つのグループにまとめ、競合他社の戦略に関する情報を別のグループに分けることで、情報の整理がしやすくなります。
4. 漏れや重複の解消
次に、グルーピングした情報を精査し、漏れや重複を解消します。この段階では、重複している戦略案を見直したり、漏れている重要な情報がないかを確認します。例えば、複数のチームメンバーが同じような提案をしている場合、それを統合し、逆に欠けている重要なデータがあればそれを補完します。
5.結論の導出
最後に、整理した情報を基に、結論を導き出します。市場調査データと顧客フィードバックを基に、新市場参入の戦略を策定するなど、具体的な結論を導き出します。この結論を元にして、実際の戦略を構築し、実行に移すことができます。
このように、情報収集からブレインストーミング、情報のグルーピング、漏れや重複の解消、結論の導出というステップを経ることで、MECEを意識した論理的かつ体系的な思考が可能となります。
ロジックツリーを用いたMECEの訓練方法
MECEの概念を頭で理解するだけでは難しい場合があります。MECEが苦手だと感じる方には、「ロジックツリー」を活用することをおすすめします。ロジックツリーは、要素を「ツリー(樹形図)」のように論理的に分解する手法です。これを使うと、最初に設定した目標から問題や原因を分解できます。例えば、「売上を10%UPする」という目標がある場合、以下のようにロジックツリーを構築します。
ロジックツリーを使うことで、売上を向上させるために必要な要素をMECEの状態で視覚化できます。また、ピックアップした要素の相互関係も分かりやすくなり、売上向上に必要な施策を論理的に導き出すことができます。
ロジックツリーを使うメリット
MECEでロジックツリーを使うことは、ビジネスにおける問題解決や意思決定のプロセスを大幅に改善する手法として広く活用されています。
問題の明確化と構造化
ロジックツリーを使用することで、すべての要素を重複なく、かつ漏れなく分類できます。これにより問題を包括的に分析でき、重要な要素を見逃すリスクが減少します。例えば、新製品の市場投入時に、ターゲット市場、競合分析、価格設定などをロジックツリーで整理することで、抜けや漏れのない戦略を構築できます。
問題解決の効率化
ロジックツリーは問題を細分化し、段階的に整理することで、問題の根本原因を特定しやすくします。これにより、具体的かつ効果的な解決策を見つけることが可能です。例えば、売上低迷の原因を分析する際に、マーケティング戦略、販売チャネル、顧客満足度などの要素をロジックツリーで分解することで、効果的な対策を立てることができます。
コミュニケーションの向上
ロジックツリーは視覚的に情報を整理する手法であるため、関係者とのコミュニケーションがスムーズになります。複雑な問題やデータを一目で理解できる形式で提示することで、チーム内や関係者との意見交換や意思決定が容易になり、共通理解を得るのに役立ちます。例えば、プロジェクト計画をロジックツリーで示すことで、全員が同じ理解を持ち、効率的に進めることができます。
MECEで考えるトレーニング
ここまで紹介した要素をもとに、実際にMECEで考えるトレーニングをしてみましょう。MECEとは「Mutually Exclusive, Collectively Exhaustive」の略で、漏れなく重複なく情報を整理するためのフレームワークです。これを用いることで、論理的かつ体系的な思考が可能となります。
トレーニング手順
- 問題の設定: トレーニングの具体的な問題を設定します。
- 情報の収集: 必要な情報を集めます。
- MECEの適用: 情報をMECEに基づいて整理します。
- 提案の作成: 整理した情報を基に、提案を作成します。
- 評価と改善: 作成した提案を評価し、改善点を洗い出します。
今回は、一般的な営業現場の提案の場面を例題として、CRM(顧客管理システム)の営業として、「顧客に対して提案をする状況」を仮定します。この際、どのような提案をすれば顧客にツールの良さを納得してもらい、導入してもらえるでしょうか。
MECEを使用していない場合の提案例
多くの営業担当者は次のような提案をしているかもしれません。
提案項目 | 提案内容 |
顧客の課題 | 「御社は顧客情報の管理に苦労しているとうかがいました。」 |
メリット | 「このCRMは顧客情報を管理できます。直感的なインターフェースのため、使いやすく、操作が簡単です。」 |
価格 | 「初期費用はかかりますが、それ以上の価値があるはずです。」 |
この提案には以下の問題点があります。この提案を受けた顧客としては、何となく良いサービスであるように感じるものの、具体的なイメージが湧かない可能性が高いです。
1. 顧客の課題
課題が具体的に示されていないため、顧客にとって切実な問題として認識されにくい。具体的には、「顧客情報の管理に苦労している」という表現が漠然としており、どのような問題があるのか詳細がわからない。
2. メリット
メリットが操作の簡単さに偏っており、他の重要な利点が漏れている。例えば、データの一元管理やレポーティング機能など、他の重要な機能について言及していない。
3. デメリット
デメリットが一切触れられておらず、導入時のリスクや対策について説明が不足している。新システムの導入には常にリスクが伴うため、これに触れないのは信頼性を損なう可能性がある。
4. 価格
価格の具体的な説明がなく、コスト対効果が明確に伝わっていない。「初期費用はかかる」とあるが、具体的な金額やその費用対効果についての詳細がない。
MECEを使用した場合の提案例
続いてMECEを意識した提案を見てみましょう。
提案項目 | 提案内容 |
顧客の課題 | 「御社では顧客情報をエクセルや紙にメモとして記録しており、各営業担当者の手元に分散していると伺いました。このため、情報の検索・共有が難しいのではないでしょうか。」 |
メリット | 「このCRMは、貴社が現在使用しているエクセルや紙のメモを代替するデータベースとして機能し、顧客情報を一元管理できます。情報の検索や共有が容易になり、営業活動の効率が大幅に向上します。さらに、直感的なインターフェースにより操作は簡単で、重要なタスクやフォローアップのリマインダーを自動設定する機能も備えています。また、売上や営業記録のリアルタイムレポーティングが可能です。」 |
デメリット | 「新しいシステムに慣れるために、営業スタッフには初期段階で多少の負担がかかるかもしれません。しかし、直感的なインターフェースであるため、数週間でほぼすべてのスタッフが操作に慣れることが期待されます。万が一の問題が発生した場合には、サポートセンターをご利用いただけます。」 |
価格 | 「初期費用は100万円、ランニングコストが毎月10万円かかります。現状では、毎月の最終週に分散した情報を手作業で集計していると伺いましたが、このCRMがあれば情報はリアルタイムで集計されるため、スタッフは月末まで営業活動に専念できます。これにより、人的コストを削減し、全体の効率が向上することで、初期費用を短期間で回収できる見込みがあります。」 |
MECEを意識した提案のポイントは以下です。
1. 顧客の課題の具体性
MECEを使用していない場合、提案の中で「顧客情報の管理に苦労している」といった漠然とした表現が用いられているため、顧客にとってその課題が切実な問題として認識されにくくなります。これに対して、MECEを使用した場合には「顧客情報がエクセルや紙に分散しているため、検索・共有が難しい」というように、具体的な課題を提示することで、顧客の現状に即した問題提起ができ、共感を得やすくなります。
2. メリットを詳細に話している
MECEを使用していない提案では、「直感的なインターフェースで操作が簡単」という単一のメリットに偏っており、他の重要な利点が漏れています。一方で、MECEを使用した提案では、「顧客情報の一元管理」「情報の検索・共有の容易さ」「営業活動の効率向上」「リマインダー機能」「リアルタイムレポーティング」といった複数のメリットを網羅することで、提案の内容が充実し、顧客にとって価値のある情報が提供されます。
3. デメリットにも触れる
MECEを使用していない提案では、デメリットに一切触れていないため、導入時のリスクや対策について説明が不足しており、顧客の信頼を得にくい可能性があります。これに対して、MECEを使用した提案では、「新しいシステムに慣れるために、営業スタッフには初期段階で多少の負担がかかるかもしれない」とデメリットを正直に伝え、その上で「数週間で慣れる」「サポートセンターの利用可能性」といった対策を示すことで、提案に対して信頼性が生まれます。
4. 価格の明確さ
MECEを使用していない提案では、具体的な金額の提示がなく、「初期費用はかかりますが、それ以上の価値があるはずです」といった漠然とした説明に留まっています。一方で、MECEを使用した提案では、「初期費用100万円、ランニングコスト10万円」「人的コスト削減による初期費用の短期間回収」という具体的な数値とその効果を提示することで、顧客にとっての費用対効果が明確になり、納得感を高めることができます。
このようにMECEを使用した場合の提案では、顧客に対する情報提供が漏れなく重複なく行われており、具体的な課題やメリット、デメリット、価格の詳細が明確に示されているため、顧客にとって分かりやすく、受け入れられやすい提案となります。