チャーンレートとは?数値の意味や計算式・高い解約率の改善方法も紹介
チャーンレートとは?顧客離脱率の指標
「チャーンレート(Churn Rate)」とは、一定期間内に解約やサービスの利用を停止した顧客の割合を示す指標です。ビジネスモデルによっては、「離脱率」や「退会率」とも呼ばれ、契約の解約だけでなくプランのダウングレードを含む場合もあります。チャーンレートは、特にSaaSや定期購入、サブスクリプションビジネスにおいて重要ですが、あらゆるビジネスで活用可能です。解約がない契約モデルでも、自社を離れた顧客を追跡するためにチャーンレートを算出することが一般的です。
チャーンレートがビジネスで重要な理由
チャーンレートは、SaaSやサブスクリプションビジネスだけでなく、金融、通信業界、さらには一般消費者向けビジネスなど、あらゆる業界において顧客離脱を防ぐための重要な指標です。顧客離脱は収益の直接的な減少につながり、長期的には事業の成長を阻害する要因となります。顧客がなぜ離脱するのか、その理由を理解し、改善することは、事業を継続的に成長させるために不可欠です。
収益の安定に直結する
チャーンレートが高い場合、既存顧客の離脱が加速するため、継続的な収益の確保が難しくなります。また、新しい顧客を獲得するために、マーケティング予算を多く使わなければならなくなる一方で、既存顧客を維持するための施策やキャンペーンに十分なリソースを割けなくなる可能性があります。逆に、チャーンレートが低い場合、既存顧客が長期間にわたりサービスを利用し続けることで、安定した収益が見込めるため、マーケティング施策において新規顧客獲得と顧客維持のバランスを取りやすくなります。
顧客獲得コストとのバランス
新規顧客を獲得するためには、マーケティングや営業のコストがかかります。多くの場合、既存顧客を維持するコストよりも、新規顧客を獲得するコストの方が高いです。早期に顧客が離脱してしまうと、これらの獲得コストを回収できないばかりか、マーケティングROIの低下を招く可能性があります。したがって、チャーンレートを低く抑えることで、顧客獲得コストを効率的に回収し、利益率を向上させることが可能です。マーケティング担当者としては、リテンションを高める施策やカスタマーサクセスチームとの連携を強化することが重要です。
顧客ライフタイムバリュー(CLV)の向上
顧客ライフタイムバリュー(CLV)は、顧客一人当たりが企業に提供する総収益を意味します。チャーンレートが高いと、顧客が短期間で離脱するため、CLVは低くなります。逆に、顧客を長期的に維持できると、追加の購入やアップセルの機会が増え、CLVが向上します。マーケティング施策を通じて、顧客と強固な関係を築き、長期的な収益の最大化を図ることが重要です。
チャーンレートの種類と計算方法
チャーンレートは、「カスタマーチャーンレート」と「レベニューチャーンレート」の2種類に分けられます。これらはそれぞれ顧客数や収益を基準に計測され、ビジネスモデルや目指す成果に応じて使い分けが必要です。特にマーケティング担当者にとっては、チャーンレートを定期的にモニタリングすることで、顧客維持施策の改善や収益の安定化に役立ちます。
カスタマーチャーンレート
カスタマーチャーンレートは、顧客数を基準に計測されるチャーンレートです。一般的に「チャーンレート」と呼ばれる場合はこちらを指します。顧客がどれだけ継続利用しているかを評価するための重要な指標であり、マーケティング施策の効果を確認する際にも役立ちます。
計算方法
カスタマーチャーンレートの計算方法は下記の通りです。カスタマーチャーンレート = (一定期間内に離脱した顧客数)/(その期間のはじめ・直前にいた顧客数)×100
計算例
例えば、4月の顧客離脱数が15人で、3月末時点の顧客数が1,000人の場合、計算式は以下の通りです。15 ÷ 1,000 × 100 = 1.5%
この結果は、4月に1.5%の顧客が離脱したことを示します。マーケティング担当者はこの数値を参考に、リテンション施策を強化する必要があるかどうかを判断できます。
カスタマーチャーンレートが上昇している場合、リテンションを高めるための具体的なマーケティング施策が必要です。例えば、ターゲットを絞ったメールキャンペーンや、ロイヤルティプログラムを導入することで、顧客がサービスを継続利用するよう促すことができます。
レベニューチャーンレート
レベニューチャーンレートは、顧客離脱やプランのダウングレードによって失われた収益を基準にした指標です。特に価格帯や契約プランに幅があるビジネスにおいて、カスタマーチャーンレートとは異なる数値が出ることが多いため、両方の指標を並行して確認することが大切です。レベニューチャーンレートは、マーケティング施策が収益にどのような影響を与えるかを測定するために役立ちます。特に、価格帯の高いプランでの離脱が多い場合、アップセルやクロスセル戦略を再評価する必要が出てきます。
またレベニューチャーンレートには「グロスレベニューチャーンレート」と「ネットレベニューチャーンレート」の2種類があります。グロスは損失額のみを評価し、ネットは損失額と増収額を合算して評価します。
グロスレベニューチャーンレート
グロスレベニューチャーンレートは、解約やプランのダウングレードによって失われた収益のみを基準に評価される指標です収益に対するネガティブな影響を測定し、収益減少リスクの把握に役立ちます。
計算方法
グロスレベニューチャーンレートは以下の計算式で求められます。グロスレベニューチャーンレート=(一定期間に失われた収益)/(その期間のはじめの収益)×100
計算例
例えば、4月の損失売上が22,500円、3月の売上が30万円の場合、計算式は以下の通りです。22,500 ÷ 300,000 × 100 = 7.5%
この場合、4月に収益の7.5%が失われたことを示し、収益減少リスクに対するマーケティング施策の再考が必要になります。
ネットレベニューチャーンレート
ネットレベニューチャーンレートは、失われた収益に加え、同期間内に増加した収益も考慮した指標です。増収が損失を上回ると、マイナスの数値が発生します。これはビジネスにとって好ましい成長を意味し、特にアップセルやクロスセルの成功を評価する際に有効です。
計算方法
ネットレベニューチャーンレートは以下の計算式で求められます。ネットレベニューチャーンレート=(一定期間に失われた収益 - 同期間の増収益)/(その期間のはじめの収益)×100
計算例
例えば、4月の損失売上が20,000円、増加収益が30,000円、3月の売上が30万円の場合、計算式は以下の通りです。(20,000 - 30,000) ÷ 300,000 × 100 = -3.33%
この例では、増収が損失を上回っており、収益が増加していることを示します。マーケティング担当者は、この数値を参考にして、アップセルやクロスセル施策が成功しているかどうかを評価することができます。
チャーンレートの目安・平均
チャーンレートの目安は、業界やビジネスモデルによって異なりますが、一般的には3%が健全な水準とされています。この数値は、顧客維持を目指す上でバランスの取れた目標として多くの企業で採用されています。特にSaaSやサブスクリプション型ビジネスでは、顧客が解約する前に獲得コストを回収し、長期的な収益を確保するために3%以下を目指すことが理想とされています。
業界によっては、さらに低い数値が目標となる場合もあります。例えば、モバイル・通信業界のように長期契約が一般的なビジネスでは、1%台を維持することが目標とされることがあります。逆に、SaaSやジム・フィットネスなどの業界では、3%から5%程度が一般的です。
以下は、業界や業態ごとのカスタマーチャーンレートの目安です。実際の数値は、サービス内容や企業規模によって異なるため、参考値としてご覧ください。
業界 | 月次チャーンレート | 備考 |
SaaS | 3〜5% | SaaSでは顧客がサービスを簡単に解約できるため、この範囲が一般的です。 |
通信業界 | 1〜3% | 長期契約が一般的なため、1%台を維持する企業も多いです。 |
ジム・フィットネス | 4〜5% | 季節的な要因や個人のモチベーションにより離脱が多い業界です。 |
参照:総務省
参照:日本フィットネス産業協会
業界やビジネスモデルによってチャーンレートが異なるのは、顧客のライフサイクルや契約モデル、競合他社との競争状況が影響するためです。SaaS業界では顧客が容易にサービスを切り替えられる一方で、通信業界では長期契約に縛られるため、チャーンレートが低い傾向にあります。
チャーンレートが高まる原因
チャーンレートが高まる主な原因は顧客満足度の低下です。顧客満足度が低下する理由は多岐にわたり、サービスの品質、価格、サポート体制など、顧客体験全体に影響を与えます。以下に、代表的な原因を示します。
サービスや製品の機能不足・使い勝手の悪さ
顧客が期待していた機能が提供されていなかったり、サービスの使い勝手が悪い場合、顧客は早期に解約を決断することがあります。特にSaaSビジネスでは、インターフェースの使いにくさや導入時の期待外れが解約の大きな原因になります。
サポート体制の不備
顧客が問題を抱えた際に迅速で適切なサポートが提供されないと、顧客の不満が積み重なり、解約につながります。カスタマーサポートは単なる問題解決の場ではなく、顧客との信頼関係を築く重要な役割を果たします。
価格の不満
顧客がサービスに対して適切な価値を感じられない場合や、競合他社が同様のサービスをより低価格で提供している場合、顧客は他の選択肢に移行することがあります。価格競争が激しい中でも、サービスの付加価値や品質を強調することで、価格面の不満を軽減することが可能です。
顧客ニーズの変化
顧客のビジネス環境やニーズが変化し、自社のサービスがもはや適合しなくなった場合、顧客は契約を終了する可能性があります。顧客の変化に合わせて、新たな提案やサービスの柔軟な提供が必要です。
競合他社の影響
競合他社がより優れたサービスや魅力的なオファーを提供することで、顧客が流出することがあります。競合分析を定期的に行い、自社の強みを活かしたプロモーションを行うことが、顧客流出を防ぐ対策となります。
広告と実サービスのギャップ
広告やプロモーションでの期待と実際のサービス内容が異なると、顧客は早期に失望し、契約直後に解約することがあります。過度な期待を持たせず、現実的な情報を提供し、顧客の期待を適切に管理することが重要です。
チャーンレートを下げる・改善する方法
チャーンレートを低く抑えることは、ビジネスの収益安定に直結します。マーケティング担当者としては、解約の要因を特定し、それに対処するための施策を実行することが非常に重要です。以下に、具体的な方法を解説します。
解約原因を分析する
顧客がサービスを解約する理由を徹底的に分析することは、解約防止の第一歩です。解約理由を把握することで、ターゲットに合わせた効果的な対策を講じることが可能になります。例えば、価格が不満の原因であればプランの見直しを、サポートの質に問題がある場合は顧客対応を強化するなどのアプローチが考えられます。
以下の方法を使って、解約要因を突き止めましょう。
- 顧客満足度調査:定期的な調査を通じて、顧客が期待するサービスと実際の提供内容のギャップを把握します。
- 解約時のアンケート実施:解約理由を直接尋ね、具体的なフィードバックを収集します。
- 顧客からのクレーム・指摘の集計:顧客の不満や課題を蓄積し、共通する解約理由を特定します。
もし特定の時期にチャーンレートが上昇している場合、その時期のキャンペーンやサービス内容の変更が影響している可能性があります。その原因を追跡し、必要に応じて改善策を講じましょう。
解約止めを的確に行えているか確認する
チャーンレートを下げるには、解約希望の顧客に対して適切な解約防止対応を行えているか確認する必要があります。顧客の解約希望理由をヒアリングし、その原因を解決するための提案を行うことがスタンダードです。理想的には、顧客と直接会話を行い、不満を解決すことが効果的です。
一般的な解約防止対応には、以下のような手法があります。
- カスタマーサポートや営業担当による聞き取り
解決理由を直接確認し、継続利用のためのサポートや代替提案を行います。 - プランのダウングレードや割引の提案
解約手続きを勧める前に、顧客にプランの変更や割引の提案をすることで、解約を防ぎます。
顧客の声に耳を傾け、解約を引き止めるための適切な対応を行うことで、長期的な顧客維持が期待できます。
フィードバックをもとにサービス規格やサポート体制を改善する
顧客からのフィードバックは、チャーンレートを下げるための貴重な情報源です。顧客の意見をもとに、製品の機能改善やサポート体制を改善することで、解約を防止でき、解約率を抑えられます。
また、競合他社が提供するサービスのほうが優れている場合、顧客が競合他社に流れている可能性があります。これを防ぐには、市場調査や競合分析を通じて、サービスの改善の方向性を見直し、改善することが重要です。
チャーンレートをモニタリングするための重要なポイント
チャーンレートを適切にモニタリングするには、いくつかの重要なポイントを押さえておくことが大切です。以下のような方法を参考に、チャーンレートの分析を継続的に行いましょう。
チャーンレートを効果的にモニタリングするための重要なポイントとして、まずはKPI(重要業績評価指標)として毎月の分析や定点観測にチャーンレートを含めることが挙げられます。チャーンレートを毎月のKPIに設定し、定期的に観測することで、顧客の動向や解約傾向を早期に把握し、迅速に対応することが可能です。
さらに、CRM(顧客管理システム)を活用して分析を半自動化することも有効です。CRMツールを導入することで、チャーンレートの計測や分析を効率化し、解約リスクのある顧客を事前に特定することができるため、適切な対応策を講じやすくなります。
チャーンレートのKPI例
効果的にチャーンレートをモニタリングするためには、ビジネスモデルや課題に合わせてKPIとして設定することが重要です。例えば、期間別チャーンレートをKPIとして設定することで、月間、年間、四半期ごとの短期的および長期的なトレンドを把握し、季節変動や外的要因の影響を分析できます。
また、カスタマージャーニー別チャーンレートを用いることで、顧客がサービス利用後のどの時点で解約しやすいかを明確にし、そのタイミングで適切な解約防止施策を実施することが可能です。
さらに、顧客セグメント別チャーンレートを分析することで、特定の年齢層や地域における解約傾向を把握し、それぞれのセグメントに対するアプローチを改善することで、顧客維持率を向上させることができます。
これらのKPIをモニタリングする際には、CRMツールの活用が非常に効果的です。ツールや設定によっては解約リスクのある顧客を事前に特定するアラート機能や、顧客の行動データを分析して最適な対応策を見つけることが可能です。
関連用語
顧客ライフタイムバリュー(CLV: Customer Lifetime Value)
顧客ライフタイムバリューは、顧客が企業と関係を続ける間にどれだけの利益をもたらすかを示す指標です。チャーンレートが高いと、顧客のライフタイムが短くなり、CLVも低下します。CLVを最大化するためには、チャーンレートを抑えることが重要です。
リテンション率(Retention Rate)
リテンション率は、一定期間内にどれだけの顧客が継続してサービスを利用しているかを示す指標です。チャーンレートが顧客の離脱率を示すのに対して、リテンション率は顧客維持の成功を表します。リテンション率の向上は、チャーンレートの改善と密接に関連しています。
ネットプロモータースコア(NPS: Net Promoter Score)
NPSは、顧客がサービスを他者に推奨する意向を測定する指標で、顧客満足度を評価するのに使われます。NPSが低い場合、顧客の不満が高まり、チャーンレートが上昇する可能性があります。逆に、NPSが高い企業は顧客満足度が高く、チャーンレートが低くなる傾向があります。
アップセルとクロスセル
アップセルは、顧客に現在契約しているより高価格なプランや商品を提案すること、クロスセルは、関連する商品やサービスを追加で提供することを指します。これらは、顧客価値を高めるだけでなく、リテンションを高め、チャーンレートを低下させる効果も期待できます。
顧客獲得コスト(CAC: Customer Acquisition Cost)
CACは、新規顧客を獲得するためにかかるコストを示す指標です。チャーンレートが高いと、獲得した顧客が短期間で離脱するため、CACの回収が難しくなります。そのため、チャーンレートの管理とCACの効率化は、収益性の向上において重要な要素です。
コホート分析(Cohort Analysis)
コホート分析は、特定の期間や属性に基づいて顧客をグループ化し、そのグループごとの行動を追跡する分析手法です。この手法を用いることで、どの顧客グループが特に離脱しやすいのか、どの施策が効果的なのかを把握し、チャーンレートの改善に役立てることができます。