一方、エクセルをはじめとするオフィススイートが企業に浸透していった経緯を見ればわかるとおり、何か1つでも省力化、効率化に貢献する機能があれば急速に受け入れられるIT製品があることも事実です。
SFAがオフィススイートと異なるのは組織全体での活用が求められるという点であり、自社の営業スタイルと親和性の高い機能を見極めることがより重要になってきます。
ここでは、調査データから、SFA導入に失敗する要因を分析するとともに、SFA導入を成功させるために必要なことについて解説します。
データに見るSFA導入が上手くいかない理由
人口減少社会に突入し、社会構造の変化に対応する形でビジネスのあり方が見直されるなか、政府も後押しを進めるDXは大手企業から中小企業に至るまで着実に浸透しつつあります。DX化による業務改革についての認識が高まることと合わせて、ベンダー・サプライヤー側からのソリューションも多様化しており、製品の選択とシステム構築の巧拙がDXの成否を左右している例が顕在化しています。
つまり、システムを導入してDXを掲げても成功するケースと失敗するケースがはっきりしてきているということであり、さまざまなソリューションが存在するセールステックにおいても同様です。
SFA導入の成功と失敗について、以下の調査データの結果から検証します。
調査①「SFA導入経験がある従業員数う300名以上の経営者アンケート」株式会社ハンモック
(調査対象・有効回答:SFAを導入したことがある従業員数300名以上の経営者・役員305名)
https://www.hammock.jp/hpr/media/sfa_questionnaire.html
調査②「SFA(営業支援システム)の利用状況」キーマンズネット:アイティメディア株式会社
(有効回答:87件)
https://kn.itmedia.co.jp/kn/articles/2107/29/news004.html
調査③「国内企業における、営業活動の課題、およびSFA/CRMの利用・導入実態を明らかにする」日本オラクル株式会社
(調査対象:売上100億円以上 SFA/CRM導入・運用・利用の担当者合計1,400名 うち営業担当1,200名 )
https://blogs.oracle.com/saas-jp/post/sales-dx-survey-vol-2
SFAは活用されていない?
SFA導入企業の8割弱が活用されていると回答(調査① )
調査①の「SFAの活用度」に対する回答結果を見ると「すべての機能を使いこなしている」27.6%、「一部の機能を使っている」49.8%を合わせると77.4%です。一方、「導入しデータを入力するのみ」が7.5%、「導入したが利用していない」5.9%となっています。全体の8割に近い企業でSFAは活用されており、SFA導入が成功しているとはいえないのが1割ほどと考えられます。
SFA導入企業の約7割が活用されていると回答(調査② )
調査②のSFA導入済みという回答者に「SFAの活用度」を聞いた結果です。「とても活用できている」59.0%、「まあ活用できている」10.3%を合わせると約7割です。「あまり活用できていない」が30.8%であることから、SFA導入済み企業の約7割が活用できていると評価しています。
SFA/CRMの活用が顧客・案件の「記録」「管理」にとどまり、データ利活用に及ばず(調査③)
調査③のSFA/CRMの主な利用用途についての複数回答の結果です。「顧客管理」70%「案件管理」62%「営業活動の可視化」62%と、SFA/CRMは顧客情報や案件の記録・管理に活用されていますが、「営業指標の把握」24%、「戦略立案」22%、「売上予測」18%とデータの利活用や予測への活用度が低いことがわかります。
これらの結果から、SFA導入企業の7割以上が業務に活用できているとしている一方で、活用されている中味としては「記録」や「管理」などにとどまり、「戦略立案」や「売上予測」といった高度な機能はあまり使われていないと見ることができます。
活用されていない理由とは
調査データのなかで「あまり活用できていない」「データを入力するのみ」といった回答結果が示す、SFA導入が成功しているとはいえないケースの理由を見ていきます。
調査①で「すべての機能を活用できている」以外の選択肢を選んだ回答者に「すべての機能が使われていない理由」を聞いた結果は以下のとおりです。
【すべての機能が使われない理由(複数回答)】(調査①)
- 使いこなすのに時間がかかる(52.3%)
- 入力したデータが活用できていない(30.1%)
- 入力の負担が増える(28.0%)
- 導入目的の共有不足(25.4%)
- 営業が使いたがらない(14.0%)
- 操作性が悪く使いづらい(13.0%)
- SFA導入の効果やメリットが感じられない(11.4%)
調査②では「活用できていない」と答えた回答者に、その理由を聞いています。自由回答で得られた回答結果は以下のとおりです。
【活用できていない理由(自由回答)】(調査②)
- 他のシステムとの連携がなく入力が重複し手間
- 他のシステムとの連携がなく統合的な運用ができない
- 忘備録的な使用方法限られる
- アクセス権限が与えられず利用頻度が低い
- 入力項目と顧客情報が最適化・整理されていない
- データが分析されていない
調査③ではSFA/CRMが「営業プロセスの効率化に貢献しているか」「受注率向上に貢献しているか」という質問に対して、両者ともに4割が「貢献していない」という回答結果となっています。その理由として以下の内容が挙げられています。
【業務プロセスの効率に貢献していない理由(複数回答)】(調査③)
- ツールのみでは顧客の情報が不十分(35%)
- 操作性が悪い(29%)
- 基幹システムとの未接続 (28%)
- マーケティングシステムとの未接続(27%)
- 部門の活動が共有されない(ー)
- 案件の進捗がリアルタイムで把握できない(ー)
【受注率向上に貢献していない理由(複数回答)】(調査②)
- データ活用・分析ができていない(38%)
- 受注率向上に必要なアクションに結びつかない(26%)
- 日報の提出や記録のためにしか使用しない(25%)
- 基幹システムとの未接続(23%)
- リアルタイムの進捗が把握できない(ー)
- 関連部門の活動状況が共有されない(ー)
データの活用・共有ができていないという回答が見られるのは情報システム運用の根幹に関わる課題といえます。結果としてSFAの効果・メリットが感じられないのは当然といえるでしょう。その原因としては、他のシステムとのデータ連携がなされていないことのほか、運用するなかでデータが入力されないケースや必要な顧客・案件情報が整理されていないことが挙げられています。
入力操作に負担を感じるのは、システムを運用するためのワークフローが未整備である場合やシステムそのものの操作性が悪いことも可能性の1つとして想定されます。入力操作を負担と感じられることが営業が使いたがらないという結果を生み、入力が行われずデータも活用されないという悪循環は情報システム導入失敗の典型的な例です。
また、営業が使いたがらないのは使いこなすための時間とサポートがあれば解消するケースや、そもそも情報共有や組織的な営業についての意識づけが課題となっているケースも多いと考えられます。
導入が成功した場合に得られるメリット
調査①では「すべての機能を使いこなしている」を選択した回答者に「SFAが定着している理由」をたずねています。回答結果はSFAが本来目的とするツールを活用することの効果が挙げられる結果となっており、SFAを「使いこなす」ことができれば営業組織に大きなメリットをもたらすことが裏付けられています。
【SFAが定着したと思う理由(複数回答)】(調査①)
- 受注に必要なアクションが明確化された(78.6%)
- 経営判断が迅速化された(51.2%)
- 導入目的が浸透し共有された(41.7%)
- 自社の業務にカスタマイズすることができた(34.5%)
- 入力操作の負担が小さい(31.0%)
SFAによって営業ノウハウの共有と営業手法の標準化が図られ、組織的な営業が可能になることが全体の底上げと個人のパフォーマンスの向上に結びつきます。最も多く挙げられている「受注に必要なアクションが明確化された」という回答は、SFAを活用することで営業担当者の行動が最適化され組織的な営業に移行することができた結果といえます。
2番目に挙げられている「経営判断の迅速化」は情報共有とレポーティング・分析機能が有効に活用されて実現するものであり、マネジメントの組織的営業への理解と情報を有効活用した営業戦略が可能にしているものにほかなりません。マネジメントがイニシアチブを取りSFA導入の意義の浸透させていくことがSFA導入が成功する鍵となります。
自社の業務に合わせたカスタマイズが可能であることは、既存の業務システムとの連携も含めて、それぞれの営業スタイルに合ったシステム構築が求められていることを示しています。入力操作の負担が小さいことも定着の要因として挙げられていることから、自社に必要な機能や拡張性と適切なUIを持った選品を選択することの重要性がこの調査結果から見て取れます。
SFA導入が失敗する要因
アンケート調査の選択肢や自由回答の結果のみから個別の具体的な運用状況を知ることはできませんが、調査結果から見えてきたSFA導入が失敗してしまう要因を以下のようにまとめました。
導入目的が不明確
何のためにSFAを導入するのか、SFA導入によって営業の課題をどう解決するのかが不明確であることがSFA導入が失敗する最も基本的な要因です。管理する側と現場、バックオフィスとの連携も含めて営業組織と業務プロセスに存在している課題についての認識が十分でなければ、SFAによって何が解決できるのかを明確にすることはできません。
現場に浸透しない
「営業が使いたがらない」という声があがるのは入力操作の負担に比べて、担当者個人と組織全体に対するメリットが感じられない、あるいは、認識できていないのがその理由です。SFA導入による営業の組織化がどんなメリットをもたらすかについてのマネジメントと現場双方の理解・認識がないと、使われない業務システムとなってしまいます。
業務効率化・営業支援の効果を実感できない
SFAのメリットを実感できないというのは現場に浸透しない理由そのものですが、営業活動の一部分を自動化するだけではSFAによって実現できる本来の効果を生み出すことはできません。SFAが持つ機能を活かすためには業務の標準化と業務フローの見直しが必要であり、SFAを介して営業を組織化することの意義を理解することが業務効率化・営業支援の効果を実感するための前提となります。
データを活用できていない
SFAには顧客管理・案件管理・活動管理・予実管理などの機能があります。それぞれの機能において入出力されるデータに誰がどう関わり、SFAを介して提供される情報が組織全体と個人のパフォーマンス向上にどう結びつくのかをイメージできないことがデータを活用できない原因です。特にマネジメントがデータを有効に活用するためには、データを用いて戦略的に組織をコントロールしていくためのノウハウや、個々の営業担当者の底上げを図るための育成スキルといった部分の知見も求められます。
SFA導入成功に必要な取り組み
SFA導入が失敗する要因を見るとSFAを「使いこなす」には一定のハードルがあることがわかります。冒頭に触れたように、SFAは組織で活用されることでその効果を発揮するものであることがその理由です。失敗する要因を踏まえるとSFA導入を成功させるためには次のような取り組みが求められます。
マネジメント層のコミットメント
SFA導入は営業DXに直結する取り組みです。組織の構造改革や風土改革にも及ぶインパクトをもたらす可能性があり、必然的にSFA活用が組織に浸透するかどうかはマネジメントのリーダーシップに大きく依存します。データ活用の最大の恩恵を受ける当事者がマネジメント層であることを鑑みても、SFAとともに組織改革を進めていくことへのマネジメント層のコミットメントが、SFA導入を成功させるためのとりわけ重要なポイントとして位置づけられます。
現行業務の課題特定と導入目的の明確化
SFA導入が失敗する基本的な要素が導入目的の明確化であることについて触れましたが、SFAの導入目的として「営業の業務効率化」と「受注率の向上」を挙げるだけでは不十分です。SFAを活用し組織的な営業、営業の仕組み化が実現することによって得られるメリットを見据えた上で、その目標に到達する過程に存在する課題や障害を把握・特定しなければ導入目的を明確することはできません。
属人性が高いとされる営業スキルを共有することへの抵抗やデータ活用に対する認識の低さなど、これまで踏襲されてきた営業のやり方が課題を覆い隠してしまっているケースはよく見られることです。慣れ親しみ当たり前のことと考えられてきた自社の常識から抜け出し、業務効率化の障害や受注率が上がらない原因をゼロベースで検討してみる必要があります。
業務フローの標準化と再構築
調査データで、SFAが定着したと思う理由として最も多く選ばれたのが「受注に必要なアクションが明確になった」という選択肢です。実は、これが業務フローが標準化されたことで現場が得られる最も大きなメリットです。標準化とは自社の営業プロセスにおいて受注確率を高めるために必要な要素を明確化し共有することで、それぞれの営業担当者が最適なアクションを取れるようにすることです。標準化するためには従来の営業プロセスを見直す必要が出てきますし、場合によっては他のシステムとの連携やバックオフィスとのやり取りも含めて業務フロー全体を再構築する必要性が生じます。
自社のビジネスにあったツールの選択
例えば、フィールドセールスが受注に大きく関わる不動産や建設業界とインバウンドセールスを主体とするクラウドサービス業界では営業プロセスが全く異なります。また、同じ業種であったとしても企業ごとに業務フローはさまざまなパターンが存在します。
調査データに見られたとおり、他のシステムと連携できる拡張性や入力操作に関わるUIなど、自社の業務に合ったシステムの選択が適切でなかったケースもSFA導入が失敗してしまう要因です。製品を選定する段階では、デモやトライアルで現場責任者や担当者が実際に製品を使ってみる機会を設けることに加えて、サポートやトレーニングの品質も選定の基準に加えることが重要です。
スモールスタート
SFAの導入は組織の変革につながる可能性があるという点で、全社的に浸透させるまでには時間とエネルギーを要する取り組みになるという側面も否定できません。組織の規模が大きい場合や新しい業務フローを浸透させるためのハードルが高いことが想定される場合には、導入範囲を限定して操作性やデータ連携、得られる効果などを検証しながら、徐々に導入範囲を拡大していくスモールスタートが効果的な導入アプローチです。
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