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DX導入計画の策定とプロジェクトマネジメント

Lesson 6、7では中小企業が早めに着手すべきDX(デジタルトランスフォーメーション)領域として、マーケティング・営業領域でのDXについて説明してきました。自社において着手すべきDX領域の選定ができたら、次は具体的にDXを推進するための計画を策定し、DX導入プロジェクトを推進していく必要があります。
計画の策定プロセスでは、課題を整理し、達成したいビジネス環境の具体的なイメージを構築することが重要であり、プロジェクト推進においては、関係者の理解を得て、組織が一丸となってプロジェクトを推し進めていかなければ、成功には到達できません。
このレッスンでは、DX計画の策定に必要な前提条件や実際の計画の作り方、プロジェクトマネジメントについて説明します。

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DX導入計画の策定とプロジェクトマネジメント

DX導入に計画が重要な理由とは

組織内において、DXをうまく機能させるためには、計画の策定が重要です。

実際にDX導入を進めていく際には、3年程度の長期的な計画と半年から1年程度の短期的な計画策定が求められます。

長期的な計画においては、大きな方向性として、デジタル化による業務や顧客とのコミュニケーションの変化と企業が成し遂げたいことが一致していることを確認しましょう。この際、単に業績を向上させるという意識を持つのではなく、どのような価値を顧客に提供することで、最終的に業績を向上させるのかという視点を持つことを忘れないようにしましょう。

長期的な計画は、組織全体がどこに向かっているのか、どうすればそこにたどり着けるのかを示す地図のようなものです。

短期的な計画においては、より具体的な成果を短い時間で達成するための明確な計画が必要となります。

最終的に成し遂げたいことと、直近で達成すべきことの両方の視点を持ちながら、計画の策定と実行を行うことで、なぜいまデジタル化による変化を推進する必要があるのかをチーム全員が理解し、関係者が具体的な行動を起こし、より良いものを目指して協力し合えるようになります。

本レッスンでは、主に短期的な計画立案に主眼を置いて説明します。

DX導入をプロジェクトとして捉える

DX計画の策定が重要であることを理解したら、次はどうすればより良い計画を策定できるのかについて理解する必要があります。

DX導入計画の策定と実行を進める上で、重要な「プロジェクトマネジメント」について、PMBOKガイド を参考に解説していきます。

プロジェクトとは

プロジェクトやプロジェクトマネジメントという言葉自体は耳にすることが多いと思いますが、改めて定義を説明すると、「独自のプロダクト、サービス、所産を想像するために実施される有期性のある業務」となります。

少し分かりづらいのでもう少しかみ砕くと、「設定された納期までに要望に合う製品やサービス・システム(成果物)などを提供する活動」といえます。

例えば、ある企業で業務を遂行するために必要なシステムを導入することを考えてみましょう。

この例では、必要なシステムが提供される成果物であり、半年後に利用開始する必要がある場合、半年後が納期に当たります。そして、納期と成果物が明確になることで、「いつまでに誰が何をするのか」の計画を策定することができるようになるのです。

ここでは、システム開発の例をご紹介しましたが、プロジェクトは納期と成果物のある活動すべてに当てはまり、規模の大小も問いません。しかし、日々の営業活動のような定常的な業務とは異なる枠組みやチームを構築し業務を行う一連の活動であるため、単純なタスク管理とは違う独自の考え方をもって計画の策定や遂行を行う必要があります。

DXの導入もまさに定常業務とは異なる納期と成果物を定めて行う活動であり、DX導入をプロジェクトと捉えて計画策定を進めることが求められます。

プロジェクトマネジメントとは

プロジェクトマネジメントとは、PMBOKガイドでは、「プロジェクトの要求事項を満たすために、知識、スキル、ツールと技法をプロジェクト活動に適用すること」と定義されており、目的である成果を上げるための適切な計画策定や実行をサポートする一連の考え方といえます。

なんとなくDX導入を進めるのではなく、正しい計画を策定して予算を確保し、進捗管理を行いながら活動のサポートを行い、問題が出れば計画を見直すなどの一連の活動を行いながらDX導入を進めるのがプロジェクトマネジメントです。

ここからは、DX導入の計画の策定・遂行に欠かせない考え方であるプロジェクトマネジメントの基本的な考え方について解説します。

プロジェクトマネジメント12の原理・原則

ここでは、PMBOKガイドに掲載されている、世界中のプロジェクト専門家の経験に基づいてまとめられた12の原理・原則を取り上げます。これらの原則は、プロジェクトマネジメントを実践する上で、有益な考え方です。

今回は詳しくは解説しませんが、十分な知識がないと感じたり、考えたこともない内容があった場合には、PMBOKやPMBOKの解説書などでより深く学んでおきましょう。

原則1:勤勉で、尊敬に値する、思いやりのあるスチュワードであること

「プロジェクトマネージャー」に求められる責任、誠実さ、信頼性、コンプライアンスの維持についてまとめられています。

原則2:協働的なチーム環境を構築すること

プロジェクトを推進するメンバーの組織である「プロジェクト・チーム」の多様性・専門性・合意・組織構造・プロセスについてまとめられています。

原則3:ステークホルダーと効果的に連携する

プロジェクトチーム以外の利害関係者との関わり方についてまとめられています。

原則4:価値に焦点を当てる

成果に焦点を当てることで、チームが期待される効果の実現を促進し、進捗を評価し、最大限の価値を引き出せることについてまとめられています。

原則5:システムの相互作用を認識し、評価し、対応する

プロジェクトは複数の領域で構成され、それらは相互に依存しており、これらの相互作用を十分に把握して対応する必要があることがまとめられています。

原則6:リーダーシップを示す

プロジェクトマネージャー以外も発揮すべきリーダーシップについてまとめられています。

原則7:状況に基づいたテーラリング

テーラリングとは洋服の仕立て直しのことであり、プロジェクトの成功は、常に変化する状況に応じた手法をとれるかにかかっていることについてまとめられています。

原則8:プロセスと成果物に品質を組み込む

プロジェクト品質とは、ステークホルダーの期待を満たし、要件を充足することを意味します。品質のコントロールとマネジメントについてまとめられています。

原則9:複雑さに対処する

複雑さは、人間の行動、システムの相互作用、不確実性、曖昧さから生じます。影響を軽減するためにさまざまな方法を用いて複雑さをに対処する方法がまとめられています。

原則10:リスク対応の最適化

プロジェクトでは、リスクに継続的に対処していく必要があり、対処の方法がまとめられています。

原則11:適応性と回復力を持つ

成果を重視し、柔軟性を維持して、目標に向かって前進し、課題や挫折を乗り越える方法についてまとめられています。

原則12:将来のあるべき姿を実現するための変化を促す

変革を成功させるには、構造化されたアプローチが不可欠です。ステークホルダーを巻き込み、変化を受け入れるよう動機付けし、抵抗を避けるために必要な段階的なアプローチについてまとめられています。

プロジェクト・パフォーマンス領域

プロジェクト管理の原則の基本が分かったところで、PMBOKによる8つのプロジェクト・パフォーマンス領域について解説していきます。

パフォーマンス領域は、プロジェクトの成果を効果的に提供するために不可欠な活動領域のことで、ステークホルダー、チーム、計画などの関連領域が連携することで、プロジェクトを成功に導くことができるようになります。

領域1:ステークホルダー

ステークホルダーの特定と積極的な関与を維持するエンゲージメントが重要

領域2:チーム

チームが高いパフォーマンスを維持するためのオーナーシップの共有、チームビルディング、リーダーシップや対人関係スキルが重要

領域3:開発アプローチとライフサイクル

成果物を作成するさまざまな開発手法を適切に選択し、納品回数やタイミングなども考慮する必要がある

領域4:計画

選択された開発手法に基づき、外部環境も考慮しながら、スケジュールや予算、チームなどに関する計画を策定する必要がある

領域5:プロジェクト作業

適切な作業プロセスを確立し、改善し続けることが重要

領域6:デリバリー

要求事項にあわせた成果物を定義し、妥当な品質を維持することが重要

領域7:測定

プロジェクトが適切に進んでいるのかを測定し、評価することが重要

領域8:不確かさ

プロジェクトの不確実性やリスクに常に備え、状況把握を行いながら適切な対処を行うことが重要

DX導入計画を策定する

ここまで解説してきた12のプロジェクトマネジメント原則と8つの「プロジェクト・パフォーマンス」領域を念頭に置くことで、DXプロジェクトを成功させるための計画を策定することができるようになります。

ここからは、具体的な計画策定方法を見ていきましょう。

プロジェクト計画ツールキット

無料のプロジェクト計画ツールキットを使って、プロジェクトを効果的に計画しましょう。このツールキットには、本レッスンでご説明した計画立案の各ステップで役立つテンプレートが含まれています。

Step1:目標と目的を定義する

プロジェクト計画を成功させるためには、目標を明確に定めることが不可欠です。目標をはっきりさせることで、関係者全員が一致団結し、意図した成果に向かって努力を続けられます。プロジェクトが空中分解してしまうようなケースは、目標設定と実際の業務が切り離されていることから生じることがよくあります。目標定義を作業計画に直接組み込むことで、チームの活動とプロジェクト目標とのリアルタイムな連携を確立できます。

売上を50%以上増やす

目標を設定したら、その達成度を測定可能な指標で確認することが重要です。そのためには、SMARTの法則を採用することが最も効果的です。

具体的で(Specific)、測定可能で(Measurable)、達成可能で(Achievable)、関連性があり(Relevant)、期限のある(Time-bound)細分化した目標を設定することで、成功の指標が明確かつ定量的になります。これにより、プロジェクトの完了時に、目標を達成できたかどうかを簡単に評価できます。

次の四半期内にターゲットを絞ったデジタルマーケティングキャンペーンを実施し、月次売上を15%増やす

Step2:ステークホルダーとその役割を明確に定義する

プロジェクト管理において、ステークホルダーとその役割を明確にすることは、効果的な協働のために非常に重要です。RACIマトリックスを使って、プロジェクトのステークホルダーを特定しましょう。

RACIマトリックスは、プロジェクト管理や業務の役割と責任を明確にするためのツールです。RACIはそれぞれの役割を示す以下の4つの英単語の頭文字を取ったものです。

R(Responsible): 責任者
実際に作業を行う役割を担当する人やチームを指します。タスクや業務が完了することに対して実際の作業を行う主体となります。

A(Accountable): 説明責任者
最終的な責任を負う人で、結果に対して説明する責任を持ちます。この役割は1つのタスクにつき1人だけです。責任者である「A」が作業の方向性や最終決定を行います。

C(Consulted): 相談相手
知識や意見を提供する専門家や利害関係者を指します。「C」は意思決定前に情報提供やフィードバックを行い、双方向のコミュニケーションが必要とされます。

I(Informed): 報告先
業務やプロジェクトの進行や結果について情報提供される人やチームを指します。意思決定には関与しませんが、進捗や結果について報告を受ける必要があります。

タスク

デジタルマーケティングチーム

マーケティングマネージャー

営業チーム

プロダクトマネージャー

役員チーム

デジタルマーケティングキャンペーンの実施

R

A

C

C

I

月間売上高15%増の達成

N/A

R

C

C

I

ターゲット層と製品に関する分析の提供

C

R

I

A

I

キャンペーンの進捗状況のモニタリングと戦略の調整

R

A

I

C

I

キャンペーンのパフォーマンスに関する最新情報の入手

I

I

I

I

R

Step3:予算を決める

フリーランサーを雇う場合でも、イベントを企画する場合でも、プロジェクトを始めるにあたって財務上の問題は避けられません。プロジェクト計画、目標、ステークホルダーを考慮して予算を立てましょう。部門横断的なプロジェクトの場合は、各部門にコストを割り当て、目標と整合性を図ります。

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Step4:マイルストーン、成果物、依存関係を設定する

効果的なプロジェクト計画には、3つの重要な要素があります。

  • マイルストーン:
    • 進捗を示す具体的な成果
    • スケジュールに縛られすぎないこと
  • 成果物:
    • 完了したタスクの具体的な成果
    • プロジェクト進捗の具体的な根拠
  • 依存関係:
    • 構造化されたワークフローを実現する相互に関連するタスク
    • 前提条件が満たされたときのみ作業を開始

SMART目標:新しいカスタマーサポートシステムを導入し、今後2か月以内に返信時間を30%短縮する

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Step5:タイムラインとスケジュールを作成する

プロジェクトの目標達成のために、全体のスケジュールを明確にします。不確定要素がある場合は、詳細なスケジュールではなく、プロジェクトのロードマップを作成しましょう。作業計画でタスクを細分化し、開始日と終了日を割り当て、ステークホルダーを巻き込んで、まとまりのあるプロジェクトのスケジュールを作成しましょう。

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Step6:コミュニケーション計画を策定する

プロジェクトに関わるさまざまなステークホルダーを認識し、プロジェクト計画の初期段階で、期待されるコミュニケーションを確立します。しっかりとしたコミュニケーション計画を策定することで、プロジェクトの進行状況、開発状況、潜在的な課題を明確にできます。ミーティングの頻度と目的、ステータス更新の管理方法、プロジェクト管理とコミュニケーションのためのツールを検討します。

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DXや他のすべてのプロジェクトで成功を収めるためには、綿密な計画策定が不可欠です。

DX計画の策定と計画に基づく活動は、ビジネス目標との一貫性を保ち、リスクを軽減し、作業効率を向上させることが可能となりますので、本レッスンを参考にプロジェクト計画を策定してみましょう。

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