マーケティング活動と営業活動の切り分けは難しいですが、今回のレッスンでは、主に集客や顧客育成などの領域をマーケティング領域として定義して解説します。
マーケティングDXの必要性
DXは、中小企業がデジタル技術を活用してビジネスを変革し、競争力を高めるプロセスですが、これまでのレッスンで説明したように、データドリブン思考と顧客理解を深めることが必要不可欠です。
しかし、多くの中小企業では、デジタル技術に関する知見やデジタル人材の不足を抱え、DXに着手した段階では意思決定に必要なデータが不足していることもあり、データの活用や顧客理解がなかなか進まない状況が発生します。
そのような状況では、どんなに組織内のデジタル化を進めて業務効率化を実現しても、単なるコスト削減にしかつながらず、本来の目的である組織の競争力の向上には到達できません。
そこで、早い段階で中小企業が着手するべきDX領域として、マーケティングDXが候補に挙がってきます。
現代のマーケティングにおける課題
現代のマーケティングは、顧客の行動の変化や競争の激化により、ますます複雑化しています。
インターネットやスマートフォンの普及により、顧客は簡単に情報を収集し、比較・検討できるようになり、以前は大きな差があった、商品・サービスの提供者との情報格差がなくなっています。場合によっては、顧客の方が商品・サービスの提供者よりも多くの情報を抱えていることも発生しています。

米国のコーポレート・エグゼクティブ・ボードが発表したThe Digital Evolution In B2B Marketingの中では、2011年の段階で、法人取引において、商品・サービスの導入を検討する企業は、営業担当者にコンタクトを取るタイミングで検討の57%を終えているとされています。
現在では、2011年当時よりも商品比較サイトや口コミサイト、ユーザーコミュニティの発展、顧客独自の情報発信などが進み、営業担当者へのコンタクトはより遅くなっていると考えられます。
つまり、顧客から問い合わせが入り、商談が始まるときには、すでに商談の勝負がついてしまっている可能性が高く、それ以前に、自社の商品やサービスがそもそも検討のまな板にさえ乗っていない可能性があるということです。
このような状況では、想定される顧客層へ自社の商品・サービスの認知を増やし、適切な情報提供を積極的に行うことが求められます。
マーケティング活動を行わず、営業プロセスの最適化やサポート品質の向上を進めたとしても、目標とする売上や利益を達成するのに必要な商談数の確保すら難しくなる可能性があるため、注意が必要です。
マーケティングDXがもたらすメリット
マーケティングDXの推進は中小企業にとって多くのメリットをもたらします。代表的なメリットを紹介していきます。
情報収集等の初期段階でのコンタクトの実現
マーケティングDXは攻めと守りという視点では、攻めのDXです。
企業が新たなマーケティング施策を実施し、認知向上、集客の効率化を進めることで、いままでは顧客任せとなっていた情報収集のタイミングで、企業側が関与できるようになります。
前のレッスンで提示したカスタマージャーニーマップで表すと、認知・理解の段階です。
フェーズ | 認知 | 理解 | 検討 | 導入 | 推奨 |
顧客の行動 | ・営業組織に関する漠然とした課題を持っている | ・SFAツールや導入事例についての情報収集を行う | ・自社の課題の整理 | ・意思決定 | ・SNS等への投稿 |
タッチポイント | ・SNS、ブログ | ・ホワイトペーパー、導入事例、動画コンテンツ、 ウェビナー | ・営業担当者 | ・営業担当者 | ・サポート担当、カスタマーサクセス担当 |
現状施策 | ・年2回の展示会出展 | ・SFAに関するホワイトペーパーやダウンロード資料、導入事例の定期的な公開 | ・セミナーおよび個別相談会の定期的な開催 | ・個別商談 | ・ユーザーコミュニティイベント開催 |
これまで展示会での集客のみを実施していた企業がSNS広告や投稿を行うことで認知・理解の段階で、検討対象となるサービスに取り上げられる確率が上がるといったことが考えられます。
検討の初期段階でダウンロード資料の提供などにより、担当者のメールアドレスを取得し、メールマーケティングを行うことで、本格検討のタイミングを逃さず顧客にアプローチすることも可能となります。
顧客理解を深める新たなデータの取得
多くのマーケティングツールやデジタル広告は、デジタル技術を使いさまざまなデータを活用することが前提となっているため、ツールの導入・活用を進めることで自然とこれまで収集できていなかったデータを取得できるようになります。
具体的には、Webサイトのアクセスデータ、検索エンジンのキーワード、興味を持った広告などの情報です。
例えば、Webサイトのアクセスデータを活用すれば、サイトを訪問した顧客がどの商品に興味を持っているのか、具体的に問い合わせが発生するのはどの商品ページを閲覧した顧客なのかという傾向に関する情報が分かるようになります。
さらにマーケティングオートメーションツールなどを活用することで、問い合わせを行った顧客が事前にどのページを見ているのかなどを把握して商談に臨み、顧客のニーズを想定したスムーズな商談を進めることができるようになります。
未顧客理解
DX戦略の推進には深い顧客理解が欠かせませんが、問い合わせなどの実際のコンタクトが発生する顧客は市場全体の顧客から見るとほんの一部です。
ほとんどの顧客が自社の商品・サービスを知らなかったり、興味を持ってWebサイトの訪問しても予算感が合わなかったり、期待した機能を見つけられずに具体的な行動を起こさずに離脱していきます。
実際に見えている顧客だけではなく、顧客に至っていない「未顧客」を理解することが、今後の事業拡大の大きなカギとなる可能性を秘めているといえます。
マーケティングDXを進めることで、個人を特定する前のデータを取得・活用できる可能性があり、このようなデータは未顧客を理解することに役立ちます。
中小企業が行うべきマーケティングDX
ここまでの内容を踏まえて、中小企業が取り組むべきマーケティングDXの具体的な内容について解説していきます。
既存施策の効率化・デジタル化
マーケティングDXを進める際に、最初に中小企業が取り組むべき施策は、既存マーケティング施策の効率化・デジタル化です。
例えば、これまでのメインの集客施策が展示会出展である場合を考えてみます。
デジタル化が進んでいない企業では、展示会で獲得した名刺情報を各担当者が手でExcelに手入力し、個別に電話でアポイントを取り、フォロー状況を個人管理のExcelに入力するといった流れで業務を行うことになるでしょう。
このような状況でデジタル化を進める場合には、名刺情報を自動でデータ化する仕組み、獲得した顧客情報を一元管理する仕組み、お礼メールを一斉配信してメールの開封状況を把握できる仕組み、開封状況などから個別にアプローチすべき顧客をリストアップする仕組みなどが必要となります。
展示会の出展や出展後のフォローを効率化することで、フォロー漏れをなくしたり、今までよりも多く展示会に出展するなど、成果向上を見込める活動を進めることができるようになります。
このような効率化は、展示会以外の施策でももちろん有効ですので、現在行っているマーケティング施策を整理して、効率化・デジタル化が進められそうな施策について検討してみましょう。
集客のマルチチャネル化
既存施策のデジタル化の次に中小企業が取り組むべき施策は、集客のマルチチャネル化です。つまり、これまで実施してこなかった施策にチャレンジする取り組みです。
マーケティングに苦戦している企業の多くは、これまで実施したことのない施策に消極的であったり、デジタル広告などの新たな施策を一度実施して、すぐに効果が出なかったため実施を取りやめてしまう、といった行動を繰り返していることがあります。
これは中長期的にさまざまな施策を試し、投資対効果に基づく施策の選択や優先順位付けを行うサイクルが回せていない状況です。このような状況から抜け出すためには、マーケティング施策に関する評価を正しく行うためにデジタル化を進め、データに基づく意思決定を行っていく必要があります。
ただし、新たな施策のチャレンジするといっても、むやみにチャレンジするのではなく、カスタマージャーニーマップに基づき、よりよい顧客体験を提供するという視点が欠かせません。顧客に適切な情報提供を行うために必要なメディアを選択し、施策を実施していかなければ、新たな顧客層の開拓や優良な見込み客を獲得することはできません。
カスタマージャーニーマップのフェーズごとに適したメディアや施策が存在するので、自社の顧客を具体的にイメージしながら、自社のマーケティング上の課題解決につながる可能性の高い施策にチャレンジしてみましょう。

マーケティング施策の投資対効果による比較
既存の施策のデジタル化を進め、新たなマーケティング施策を実施し、データが蓄積されてきたら、次に行うべきは、各施策の投資対効果による比較と優先順位付けです。
多くのマーケティング施策は、何らかの形で資金的・人的コストがかかるため、かけたコストに見合った投資対効果を得られているかを見極めることが重要です。
特に中小企業の場合には投下できる資金や人的資源が少ないことが多いため、投資対効果が高い施策に資源を集中させる必要があります。
ただし、施策の優先順位をつける場合には、組織の状況と施策ごとの成果が出るまでの期間も考慮する必要があります。
当期中に売上につながるような顧客を獲得しなければならない状況では、投資対効果が劣っている施策でも実施しなければならない場面もあります。
組織の状況を踏まえた適切な施策を選択できる環境を作ることに取り組んでいきましょう。
マーケティングDX推進の課題と解決策
中小企業がマーケティングDXを進める上では、その阻害要因となりうる課題が存在します。
データの統合と一元管理
マーケティングDXを進める上で、大きな課題となりえるのが、データの統合と一元管理です。
マーケティングDXを進める上では、顧客情報や購買履歴、ウェブサイトの訪問履歴など、多様なデータを統合し、適切に管理することが求められます。しかし、さまざまな施策を行うとデータが発生するプラットフォームが異なったり、データの形式が異なるなど、データ統合の難易度が上がっていきます。
このような課題を解決するには、さまざまなプラットフォームと連携可能なCRMツールの導入などが必要になるため、早い段階でデータの統合を意識したDX推進を検討しましょう。
デジタル化のコスト低減
マーケティングDXを推進するためには、活用できるさまざまなマーケティングツールが存在しますが、ツールの導入・運用には必ずコストがかかります。
高機能なデジタルマーケティングツールは導入・運用コストが高額なものが多く、使いこなせなければ十分な投資対効果を得ることはできません。また、中小企業の場合にはそのビジネス規模から使いこなせたとしても、投資対効果を出せないこともあり得ます。
想定される投資対効果を意識しながら、コストパフォーマンスに優れたツールの選択や段階的なツールの導入・活用などを検討しましょう。
リソースとスキルの不足への対応
中小企業にとって、DXを推進するためのリソースやスキルの不足は大きな課題です。この課題を克服するためには、外部パートナーとの連携や、社内での教育・研修プログラムの導入が有効です。特に、デジタルマーケティングに精通した専門家との協力は、効果的なDX推進につながります。
マーケティングDXの事例3選
ここまでマーケティングDXのメリットや取り組むべき内容、課題と解決策などについて解説してきました。
本レッスンの最後に、より具体的なマーケティングDXをイメージするために、Zohoサービスを活用したマーケティングDXの成功事例を3つ紹介します。
マーケティングDX事例①:Web制作会社がシンプルですばやいマーケティングオートメーションで急成長!
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CRMとマーケティングオートメーションを組み合わせてマーケティングDXの事例です。
「中小企業では、マーケティングオートメーションを簡単にすばやく実行して成果をだすことが大事」と代表の小園氏は語っています。
マーケティングDX事例②:エンドユーザーの顧客ロイヤルティを可視化して、売上アップにつながるOne-to-Oneマーケティングの基盤を構築

感覚に依存し曖昧だった個々の顧客イメージを、Zoho CRM に蓄積した詳細なデータによって可視化し、顧客理解を深めてマーケティング活かしたユースキン製薬株式会社の事例です。
企画部プロモーショングループ マネジャーの高嶋氏は「Zoho CRM の活用によって、顧客とのコミュニケーションが可視化できただけでなく、ロイヤルティ向上へ具体的に取り組めるようになった」と強調しています。
マーケティングDX事例③:半導体検査機器メーカーが小規模組織のリソース不足を補い、リード獲得数を10倍以上に
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リード獲得から顧客管理、ナーチャリング、商談、受注、クロージングといった営業プロセスをデジタル上で可視化し、数少ないリソースを効率的に活用できる体制を築いた事例です。
株式会社アポロウエーブ マネージャーの仲山氏は「当社は小規模組織のため営業活動のリソース不足が課題になりがちです。Zoho CRM Plus による営業活動の可視化や自動化は、リソース不足を補ううえでも重要ツールになっています」と語っています。
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