アップセルとクロスセルの指針をしっかり決めて、顧客に満足してもらえる提案をしましょう。
アップセルとクロスセルの適性判断
戦略を立案する前に自社がアップセルまたはクロスセルに向いている企業なのか判断しましょう。
扱っている商品の上位プランが無かったり、関連商品が無い場合は、アップセルやクロスセルによる顧客単価の向上ができないからです。
自社商品 | 適性判断 |
売れ筋商品に上位プランがある | アップセルができる可能性あり |
売れ筋商品に関連商品がある | クロスセルができる可能性あり |
自社の商品構成ががアップセルまたはクロスセルに合っているのかを把握することからはじめましょう。
アップセルが向いている企業
以下の3つの手法について、具体的な戦略が考えられる企業は、アップセルに向いているといえるでしょう。
アップセルの手法 | 具体例 |
上位・高級品化 |
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まとめ買い・数量割引 |
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長期契約の割引・特典 |
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顧客のニーズを深く理解し、商品の満足度や期待値が高いタイミングで顧客にとって価値のある提案ができれば、取引量が増加したり、より高価格帯のサービスを使ってもらうことで、顧客単価の向上が見込めます。
アップセルの「上位・高級品化」の例としては、Web会議サービスの「Zoom」が挙げられます。Zoom は無料プランからサービスを利用でき、無料プランでは、最大40分間の会議に利用できますが、時間以外にもいくつかの機能制限を付けています。無料プランで基本的な使い勝手を確認してもらい音声品質などの基本的な内容に満足してもらった上で、上位の有料プランを提供する戦略をとっています。
無料プランの利用者は短い会議での利用には満足しつつも、1時間の会議では途中でZoomが終了してしまうことに不便を感じます。ある程度利用してもらった段階で「上位プラン」への切り替えを案内することでアップセルを図れます。
クロスセルが向いている企業
以下の2つの手法が当てはまる企業は、クロスセルが向いています。
クロスセルの手法 | 具体例 |
関連商品の提案 |
|
補完的なサービスの提案 |
|
既存顧客に関連性の高い商品やサービスを提案することで、顧客単価の向上を目指せるからです。
例えば、Microsoft社のAIサービス群「Copilot」が注目されていますが、単体の購入はできません。指定された製品とセットで購入するという戦略で顧客単価の向上を促しています。
クロスセルは顧客のニーズに合わせて関連性の高い商品やサービスを提案し、顧客単価の向上を目指しましょう。
アップセル・クロスセル戦略のゴールイメージ
アップセル・クロスセル戦略のゴールイメージを明確にしましょう。大切なことは以下の3点です。
- 誰に
- いつ
- 何を提案するか
アップセル・クロスセルの基準を明確にしておかないと担当者によって提案内容にばらつきが出て、売上につながらない活動となったり、顧客との関係性を悪化させてしまう可能性があるからです。
例えば、BtoBの法人向けPC販売の営業をしている場合は、以下のようにゴールを設計します。
誰に | いつ | 何を提案する | |
アップセル | 経営者 部門管理者 |
| 一律で格安PCを購入している企業に、利用者の職種によって高スペックなPCを勧める |
クロスセル | IT管理者 |
| PCだけでなくマウス、プリンタなどの周辺備品や不要PCの廃棄も提案する |
まずはアップセルのシナリオを見てみましょう。
期末の時期には、組織によって期初に計画した予算が余っている可能性があります。予算が余っている場合、予算を使い切りつつ、来年度に向けて投資をしてもらえる可能性が高いため、上位モデルのPCを視野に入れた提案ができるかもしれません。
次はクロスセルの例です。
新入社員が入社するタイミングや人事異動の時期は、組織改編によりオフィスレイアウトが変わることで、追加のプリンタが必要になったり、ノートPCの画面だけで作業を行うと生産性が上がりづらい職種(システムエンジニアやデザイナーなど)の人員が増えると、PC以外に特殊なマウスやセカンドディスプレイとしての液晶ディスプレイが必要になる可能性があるため、クロスセルの狙い目の時期といえます。
上記で説明したアップセル・クロスセル戦略はあくまで一例ですが、戦略を立案する場合は、ゴールイメージを明確にすることから始めましょう。
また、自社の顧客リストに多い部門や職責の担当者がどんな課題を持っているのか、この時期であればどんな提案が受け入れられるのか、この商品を売りたいならいつの時期なのかなど、3つの要素をそれぞれ起点として戦略を考えると、さまざまなシナリオが思い浮かぶはずです。
戦略立案の流れ
戦略立案の流れを把握しましょう。把握することは以下の4点です。
- ターゲットの特定
- 提案のタイミングの特定
- 提案内容の決定
- 陥りやすい課題とその回避方法
戦略立案をする時は、それぞれの手順で何を行うのか把握しておくと迷いなく、営業活動に取り組めます。
アップセル・クロスセルを実践するに当たって、戦略立案の流れを把握することから始めましょう。
ターゲットの特定
戦略立案する上で最初に行うのは、ターゲットの特定です。
どのような見込み客がアップセル・クロスセルの対象となるのかターゲットを見誤ってしまうと、提案のズレが生じてしまい工数が掛かるだけでなく、受注に結びつかないからです。
そのような誤りを生まないためにも、可能な限り顧客の生の声や受注データなどを元にターゲットを特定していく必要があります。
具体的には、営業部門とマーケティング部門が存在する組織の場合、顧客からの意見を直接聞く機会の多い営業担当者と自社の購買データや市場データから顧客ニーズを調査しているマーケティング担当者が協力して顧客の属性と購買情報を基に分析することによって精度が高いターゲットを特定できます。
ターゲットの属性で見るべきポイントは、ビジネスによっても異なりますが、法人向けのBtoB、個人向けのBtoCそれぞれの属性のポイントは次の通りです。
顧客の属性 | |
BtoB | BtoC |
|
|
ターゲットを決める上で購買情報についても確認しましょう。例えば、上位プランの商品を買っている顧客とそうでない顧客の属性に明らかに違いがある場合、上位プランの比率が高い顧客セグメントにアップセルを提案すると購入してもらえる可能性が高いと判断でき、営業先の優先度が高くなるためです。
購買情報 | |
|
また、BtoB、BtoCの購買プロセスの違いも理解しておきましょう。BtoBでは商品・サービスの利用者が購入の決済権を持っているとは限りません。高額な商品・サービスになるほど、経営者や管理者が決裁権を持っていることが多く、購買に至るには決済者に対する稟議の提出と承認が必要です。
稟議申請時には、商品の購入を検討している現場の担当者は、経営者や管理者から費用対効果について指摘されることになるため、アップセル・クロスセルの営業を行う際は、費用対効果をまとめたコンテンツを現場の担当者に提供して、稟議を通しやすくなるようにサポートするなど、購入の意思決定がスムーズに進むように意識しましょう。
購買プロセスの違い | ||
BtoB | BtoC | |
商品サービスの利用者 |
多くの場合、利用者と決裁者は異なる |
多くの場合、利用者と決済者は同じ |
決済者 |
複数の立場の人が関わる |
1人で購入を決めることが多い |
商談の期間 | 長い | 短い |
アップセルのターゲット
顧客の属性と購買情報を基に分析し、アップセルのターゲットを特定します。
例えば、BtoBの法人向けPC販売を行っている企業の場合、顧客のフィールドセールス部門からタブレット型ノートPCの購入金額が高いことが分かったとします(Excelのサンプル参照)。
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この時点で、データを元に「フィールドセールス部門の担当者は、外回りが多く持ち運びが便利なPCを探しているのではないか」という仮説が立てられます。営業担当者に現場の声を確認した上で十分なニーズがあると判断できる場合は、フィールドセールス部門に絞って上位モデルのタブレット型ノートPCを提案することが考えられます。
なお、サンプルデータは分かりやすくするために、1件1件の購買データを見せていますが、実施の分析の場面では、購買データを属性で分けて、平均購入金額等を計算して分析を行っていきます。
クロスセルのターゲット
クロスセルも同様に顧客の属性と購買情報を基に分析し、ターゲットを特定します。
例えば、BtoBの法人向けPC販売の営業をしている場合、顧客のフィールドセールス部門からPCと一緒に覗き見防止フィルムが購入されているということが分かったとします(Excelのサンプル参照)。
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この時点で、データを元に「フィールドセールス部門の担当者は、外回りが多く情報漏洩の防止についてのニーズがあるのではないか」という仮説が立てられます。営業担当者に現場の声を確認した上で十分なニーズがあると判断できる場合は、フィールドセールス部門に絞って「覗き見防止フィルム」や「PCの紛失時のリモートデータ削除機能」など、ニーズを満たす商品を提案することが考えられます。
提案のタイミングの特定
次に、過去の商談記録や担当者へのヒアリングを行い、アップセルやクロスセルに適した提案のタイミングを特定しましょう。
商品に不満を持っているタイミングでアップセル・クロスセルを提案しても、顧客単価の向上に繋がらなかったり、顧客との関係性を悪化させてしまうからです。
例えば、提案しやすいタイミングは2つあります。
- 契約更新のタイミング(買い切り方の商品であれば商品が切れるタイミング)
- 予算を見直すタイミング
契約更新のタイミングは商品に満足してもらえている場合、上位プランの切り替えを検討してもらえたり、現在利用している部署以外の他部署でも利用を検討してもらいやすくなります。
他にも期末や資金調達をして予算を見直すタイミングでは、採用活動に力を入れることがあり、人材が入社したタイミングでパソコンなどの物的資源を用意するため、アップセルとクロスセルの提案がしやすくなるでしょう。
また、購入後定期的に顧客と連絡を取り合い、問題が判明したタイミングで適切なサポートを行うことによって、信頼を得るだけでなく、アップセル・クロスセルの受注につながります。
上記で説明した提案のタイミングはあくまで一例ですが、過去の商談記録や担当者へのヒアリングを行い、適切なタイミングを提案をしましょう。
提案内容の決定
ターゲットと提案のタイミングを特定したら、提案内容を決めましょう。
顧客の属性と購買情報を分析し、ターゲットに合った商品を提案します。
例えば、BtoBの法人向けPC販売をしていて、情報システムの担当者から4月の新入社員が入社する時期に以下製品が購入されていることが分かったとします(Excelのサンプル参照)。
- ノートPC
- マウス
- Microsoft Office
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クロスセルの施策として、ノートPC以外にマウスやMicrosoft Officeもセットで購入すると割引がされるプランを作成し、情報システムの担当者へ提案すると顧客単価の向上を見込めるでしょう。
また、クロスセルの施策でどの関連商品を提案するか迷った場合は、購買情報を基に以下の手順で選定できます。
①購買情報から3カ月間などの一定期間で人気商品Aを購入したユーザーを抽出する
②人気商品Aを購入したユーザーが同時期に合わせて購入した商品を抽出する
③人気商品がA以外にも複数ある場合は、①と②の順にデータを抽出する
Excelで購買情報を管理している場合は、ピボットテーブルを活用すると集計しやすくなります。また、データ分析用のBIツールを使ったり、CRMツールなどを活用して顧客分析を行う方法もあります。
陥りやすい課題とその回避方法
アップセルとクロスセルを行う前に陥りやすい課題とその回避方法を把握しましょう。最も注意しなければならないのが、強引な提案による失注や顧客離れです。あらかじめ課題と回避方法を把握することによって、リスクを回避しましょう。
アップセルの陥りやすい課題と回避方法
アップセルの陥りやすい課題は、顧客のニーズを誤解することです。ニーズがない商品やサービスを提案してしまうと、失注や顧客離れにつながります。リスク回避するためには、顧客とのコミュニケーションを強化し、詳細なニーズ分析を行いましょう。
例えば、過去の購買情報からどの部門や職責から人気商品が購入されているかや、いつの時期であればアップセル・クロスセルの受注が成功しているかはデータからニーズ分析ができます。過去の問い合わせ履歴から顧客が求めているニーズも把握できます。
また、顧客からの問い合わせがあった時は、「なぜ問い合わせをしてきたか」や「何を解決したいのか」を考えながら対応を行いましょう。
クロスセルの陥りやすい課題と回避方法
クロスセルの陥りやすい課題は、提案のタイミングを誤ることです。顧客が購入した商品に満足していないタイミングで提案しても受け入れられてもらえず、受注につながらないからです。リスクを回避するためには、顧客満足度を高めつつ、購入後フォローアップのタイミングや、特定の使用状況に応じて提案をしましょう。
例えば、SaaSのサービスであれば、購入後の顧客満足度を高めるために以下の施策を行います。
- デモンストレーション
- FAQサイトを作成
- 動画による機能説明
- アンケート調査
デモンストレーションでよく受ける質問をFAQサイトに作成して案内をしたり、顧客が好きな時間にサービスの操作方法を確認できるように動画による機能説明を設けたりして、安心して活用できるようにフォローアップします。
また、定期的にアンケート調査を行うと主要商品に満足をしてもらえているか確認できるため、提案のタイミングを誤ることが少なくなるでしょう。
共通の陥りやすい課題と回避方法
共通の陥りやすい課題は、顧客の信頼を失うことです。売上を上げる為に強引に顧客の期待に合わない提案をしてしまうと、印象が悪くなり、失注してしまうリスクがあります。最も大切なことは、提案する商品の品質と価値を保証し、誠実なコミュニケーションを維持することです。
例えば、クラウドサービスを提供していて、顧客から「自動でデータをバックアップできないか」「操作をシンプルにできないか」などの商品に対するフィードバックを定期的に収集し、提案内容を改善しましょう。
また、提案の質が低く、提案内容が顧客にとって魅力的でない場合、アップセルやクロスセルの成功率が低下します。提案内容をカスタマイズして、上位モデルや関連商品を利用するメリットを強調しましょう。
例えば、商品のアップセル、クロスセルを実現できた顧客の成功事例をコンテンツにして共有します。顧客がどのような課題を持っていて、商品を利用したことによってどのようなメリットがあったのかが分かりやすくまとまっていると、顧客にも納得感を与えることができるでしょう。
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