このレッスンで学べること

Lesson 3に続き、Lesson 4は個人向けビジネス(BtoCビジネス)のアップセル・クロスセルを取り上げます。Lesson 3は多くの対象にアプローチするマーケティング活動でしたが、Lesson 4は営業活動に焦点を当てます。生命保険代理店のアップセル・クロスセルという具体例を通じて、どのような施策を行い、評価し、改善していくかを学びます。
アップセル・クロスセルにおける営業活動の整理
BtoCビジネスの営業活動は基本的に営業担当者と顧客と1対1です。このため、営業担当者は、顧客の一人ひとりに寄り添った営業ができるかが売上に直結します。
例えば、結婚式場の営業は商談前にアンケート回答を促します。アンケートを通じて、顧客が大事にする観点(会場の雰囲気や予算、挙式スタイルなど)を把握することで、営業時には顧客のニーズに沿った提案を行います。
マーケティング活動の反応を把握する
顧客に最適な提案をするためには、営業部門が独自に蓄積した情報ももちろん必要ですが、マーケティングの反応を把握しておくことも忘れてはいけません。どのようなメールを開封しているか、どのようなイベントに参加しているか、などを事前に把握することで、提案を個別具体的なものにすることができます。
営業担当者が効果的にパーソナライズされた提案を行うためには、CRM(顧客関係管理)ツールやSFA(営業支援)ツールを活用することが有効です。ツールを使って顧客のあらゆる情報を一元管理し、マーケティング活動の結果を営業活動に活かせます。
このレッスンの例:個人向け生命保険代理店
個人向け生命保険代理店のアップセル・クロスセルに関する営業施策として以下の手法と、それぞれに関する評価・改善について具体例で紹介します。
- メール:教育資金に関心がある生命保険契約者に対する学資保険のクロスセル
- 電話:医療保険セミナーに参加した生命保険契約者に対する医療保険のクロスセル
- 訪問:医療保険セミナーに参加した生命保険契約者に対する医療保険のクロスセル
以降、個人向け生命保険代理店でのマーケティング施策を取り上げますが、保険代理店では顧客に商材を提案する際には、保険業法第300条、保険業法施行規則第234条に違反しないことが求められます。施策はあくまでBtoCビジネスのアップセル・クロスセルの具体的なイメージを持つための例であり、実際に保険業で活用できることを保証したものではありません。
出典:日本損害保険協会
クロスセル施策:メール
メールは一方的に送信でき、低コストで情報を届けられます。顧客の時間を拘束しないため、電話や訪問の前段階として営業担当者が活用したい手法です。
- データを参照しながら文章を検討する時間がある
- リンクや添付資料も含めて一度に伝えられる内容や情報量が多い
- 送受信履歴が明確に残るので、過去のやりとりを追跡できる
- 開封や閲覧を確認できる(ツールなどで設定した場合)
メールの設計例
生命保険の契約者で出産を機に新たな保険を検討して保険会社に問い合わせた顧客に対して、クロスセルを目指してのアポイントメールを送る、という想定で設計します。
目的 | 生命保険契約者に対する学資保険のクロスセル |
ゴール | アポイント獲得 |
対象者 | 生命保険の契約者で出産を機に新たな保険を検討し問い合わせた顧客 |
マーケティング部門からの引継ぎ情報 | 29才でパートナーと子どもの3人家族。教育資金の準備のための保険を考えている |
紹介保険 | 学資保険を中心に家族向けの他商材 |
メール文の例
メール文は、問い合わせいただいたことに感謝を伝え、同時に、顧客が求める学資保険をストレートに案内し、ニーズに応える姿勢を明確にしています。他の商材についても軽く触れておくことで、顧客に追加の提案があることを予告しています。これにより、顧客は多様な選択肢があることを理解し、関心を持つ可能性が高まります。
さらに、アポイント、という約束を設定するボールを顧客に投げることで、一方通行のメールにならないようにします。
件名: 山田様、学資保険を含めたご提案
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山田様
〇〇生命保険の担当、〇〇です。
この度は、弊社の保険商品についてお問い合わせいただき、誠にありがとうございます。また、お子様のご誕生、心よりお祝い申し上げます。ご家族が増えたことで、将来の計画やお子様の教育資金の準備など、多くのことを考えられていることと存じます。
現在、ご検討いただいている教育資金の準備のために、弊社の学資保険をご紹介させていただきます。学資保険は、お子様の教育費を計画的に準備するための保険であり、将来の大きな負担を軽減することができます。詳細なプラン内容や特典については、ぜひお話させていただきたいと考えております。
詳しくは添付の資料をご確認ください。
また、出産を機にご家族全体の保障を見直す良い機会かと思います。収入保障保険や医療保険など、家族の安心をサポートする商品もご提案させていただきます。ご家族の将来に向けて、総合的な保障をお考えいただければと思います。
つきましては、以下の日時でお電話もしくは訪問の機会をいただけますと幸いです。お客様のご要望を詳しくお伺いし、最適なプランをご提案いたします。
【ご都合の良い日時をお知らせください】
- 〇月〇日(〇)午前10時~12時
- 〇月〇日(〇)午後2時~4時
- 〇月〇日(〇)午後6時~8時
ご都合の良い日時を返信いただければ、さっそく調整させていただきます。また、上記以外の時間帯をご希望の場合もお知らせください。
お忙しいところ恐縮ですが、何卒よろしくお願い申し上げます。
〇〇生命保険 担当 〇〇
電話番号: 〇〇-〇〇〇-〇〇〇〇
メールアドレス: example@example.com
PDCAサイクルの例
メールでは、返信率を改善の対象とします。
問い合わせを受けている前提の場合には、返信はある程度あると想定されます。数日たっても返信がない場合は、フォローアップメールを送りましょう。
送信時間の改善例
社会人の多くは、平日の朝から夕方まで働いており、メールを確認する時間が限られています。そのため、配信時間を通勤時間や昼休憩を中心に設定することが望ましいと想定されます。ただ、営業段階で業種や職種などまで判明している場合は一般論よりも個別の配慮が生きます。
フォローアップメールの例
初回のメール送信後、顧客からの返信がない場合、適切な頻度でフォローアップメールを送ることで、再度顧客の関心を引き、返信を促せます。
この際、フォローアップメールには、再度感謝の意を表し、提案内容の重要性を強調し、顧客が返信する必要があることを明確に示すことが重要です。
下記に、フォローアップメールの例を掲載します。
件名: 山田様、ご提案についてご連絡をお待ちしています
山田様
〇〇生命保険の〇〇です。先日お送りしたメールにて、お子様のご誕生に関するお祝いとともに、学資保険のご提案をさせていただきました。
お忙しいところ恐れ入りますが、こちらのご提案についてご確認いただけましたでしょうか?ご家族の将来に備えた重要なプランですので、ぜひ一度ご検討いただければと思います。
また、ご質問やご不明点がございましたら、いつでもお気軽にご連絡ください。
ご都合の良い日時をお知らせいただけましたら、詳細なご説明をさせていただくための電話または訪問の調整をさせていただきます。
以下の日時でご都合はいかがでしょうか?
- 〇月〇日(〇)午前10時~12時
- 〇月〇日(〇)午後2時~4時
- 〇月〇日(〇)午後6時~8時
お忙しいところ恐縮ですが、ご確認のほどよろしくお願いいたします。
〇〇生命保険
担当 〇〇
電話番号: 〇〇-〇〇〇-〇〇〇〇
メールアドレス: example@example.com
クロスセル施策:電話
電話は顧客との双方向で会話でき、ニーズの把握に最適な手法です。直接対話を通じて、詳細な質問にも対応できます。
コールスクリプトの設計例
健康診断の結果を受けて医療保険のセミナーに参加した顧客に対して、マーケティング部門からの引継ぎ情報をベースに、医療保険の案内や顧客のニーズの把握をして、実際に訪問のアポイントを目指す、という前提でコールスクリプトを設計します。
目的 | 生命保険契約者に対する医療保険のクロスセル |
ゴール | 顧客のニーズ把握とアポイント獲得 |
電話対象者 | 健康診断の結果を受けて医療保険のセミナーに参加した顧客 |
マーケティング部門からの引継ぎ情報 | 32才でパートナーと子どもの3人家族。パートナーは過去に病気で入院していた経歴があり、将来的には住宅の購入を考えている |
紹介保険 | 医療保険や家族総合保険、病歴がある方向けの保険 |
コールスクリプトの例
コールスクリプトでは、セミナーへの参加に感謝しながら、セミナーでの情報をベースに顧客のニーズを確認し、最終的には訪問の日程調整を行います。
あくまで台本ですので、どのように話が展開するか分かりません。ただ、ニーズの確認と日程調整、という大きな目的を営業担当者が意識できるものにしましょう。
営業担当者: こんにちは、山田様。〇〇生命保険の〇〇と申します。先日は医療保険のセミナーにご参加いただき、本当にありがとうございました。お忙しい中お時間をいただき、感謝申し上げます。今、お話しするのに少しお時間よろしいでしょうか?
顧客: はい、大丈夫です。
営業担当者: ありがとうございます。セミナーの内容について、何かご質問やご不明点はございませんでしたでしょうか?ご家族の健康について不安、という点をアンケートでもご回答いただいていたようですが。
顧客: とくに不明点はありませんでしたが、少し検討中です。会場でもご相談したとおり、パートナーの将来的な健康リスクは気になっています。
営業担当者: やはり将来的な健康リスクは気になるところですね。パートナー様の健康をしっかりとサポートするために、特別な医療保険や家族総合保険をご提案させていただければと思います。これにより、どのような状況にも対応できる安心を提供いたします。
顧客: そうですね、具体的な内容を知りたいです。
営業担当者: ぜひ一度、山田様のご都合に合わせて直接お話しさせていただければと思います。具体的な資料をご用意し、お伺いさせていただきますので、ご都合の良い日時を教えていただけますでしょうか?
顧客: 来週の火曜日の午後2時はどうですか?
営業担当者: 承知いたしました。それでは、来週の火曜日の午後2時にお伺いいたします。詳しい資料をお持ちし、しっかりとご説明させていただきますので、どうぞよろしくお願いいたします。
顧客: わかりました。ありがとうございます。
営業担当者: こちらこそ、ありがとうございます。それでは、火曜日にお会いできるのを楽しみにしております。どうぞよろしくお願いいたします。
顧客: よろしくお願いします。
営業担当者: 失礼いたします。
PDCAサイクルの例
アポイント獲得率を基に改善する例を紹介します。
応答率の改善例
顧客が電話に出やすい時間帯を狙って電話をかけることが重要です。これはメール部分で記載した配信時間と同様の考え方です。顧客が電話に出なかった場合には、留守番電話を残して不審電話ではないという記録を残しましょう。
例えば、「〇〇様、〇〇生命保険の〇〇です。先日のセミナーにご参加いただき、ありがとうございました。本日、特別なご案内がありましたので、折り返しご連絡いただければ幸いです。」といった内容を残すことで、顧客に折り返しの行動を促します。
クロスセル施策:訪問
客先への訪問は、提案内容を詳細に説明できる機会です。直接対話により信頼関係を構築しやすく、顧客の反応を直接観察できます。
訪問の準備
マーケティング活動やメール、電話でのやりとりを通じて、顧客のニーズをある程度把握できているのが訪問、という段階です。これまでの情報や仮説が間違いないかヒアリングを行い、それに基づいたアップセル・クロスセルの資料や見積もりを提示します。
健康診断の結果を受けて医療保険のセミナーに参加した生命保険契約者の顧客に対して、電話でアポイントが取れた後の訪問、という前提で解説します。
目的 | 生命保険契約者に対する医療保険のクロスセル |
ゴール | 契約 |
マーケティング部門からの引継ぎ情報 | 顧客年齢は32才でパートナーと子どもの3人家族。パートナーは過去に病気で入院していた経歴があり、将来的には住宅の購入を考えている |
紹介保険 | 医療保険や家族総合保険、病歴がある方向けの保険 |
訪問の流れ
訪問の際、時間の目安を先に伝え、提案の優先順位を確認し、時間が限られている場合には、特に重要な保険商品に絞って説明を行います。今回の訪問では医療保険に重点を置きながら、他の商材についても軽く触れて布石を打つ形にしています。
次回の訪問や連絡方法を提案し、継続的なサポートを約束します。これにより、顧客に対するフォローアップ体制を明確に示します。
1. あいさつと訪問の目的確認 | 1.1 あいさつ 1.2 訪問の目的確認 「今日は、先日のセミナーやお電話でお話しした内容について、30分で具体的なご提案をさせていただきます」 |
2. 顧客の状況確認 | 2.1 家族構成やライフイベントの確認 「まず、〇〇様のご家族についてお伺いします。お電話で〇〇様はパートナーとお子様の3人家族と伺いましたが、他にご家族構成についてお話しいただけますか?」 2.2 住宅や将来についてなど、アップセル・クロスセルの前提となる情報の確認と収集 |
3. 保険商品の提案 | 3.1 優先事項の確認 「今日は、特に医療保険について詳しくお話しさせていただきます。他の保険についてはご希望がございましたら後日のご説明差し上げます」 3.2 本題のクロスセル商品の提案 3.3 他商品の紹介 |
4. 資料の提供と質問の受付 | 4.1 資料の提供 4.2 質問の受付 |
5. 次回へのつなぎ | 5.1 次回の連絡方法と調整 5.2 まとめと感謝の意 |
PDCAサイクルの例
訪問は営業担当者の時間の負担が大きく、契約や購入を獲得できたか、という割合を見て改善を図ります。
上記の例の場合、基本的には顧客側のニーズがほぼ明確なため、契約獲得率は年間を通して上下にブレることは少ない、という仮説が立ちます。代理店が複数ある場合もその違いは大きくないはずです。その上で自社のアップセル・クロスセルだけの契約獲得率が下がった場合、まずは営業担当者が適切なタイミングで連絡を取っていたか、適切な見積もりを提示できていたかというプロセスを確認します。社内のデータ確認やヒアリングやなどで異常が見つかれば、すぐに対応します。
営業部門に問題が無い場合、顧客の質に異常が無いかをマーケティング部門とともに確認します。いつもと異なるターゲットを営業部門に渡している、などの問題が見つかれば、マーケティング部門と調整します。
このように、営業に近いところから順に遠いところに原因を探して、訪問の改善を図ります。
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