見積もり提示ステージの位置付けと役割
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ここでは、営業活動のクロージングを「見積もり提示ステージ」「交渉ステージ」「受注ステージ」の3つに分けて整理します。
見積もり提示ステージの位置付けは「商材価値と価格を提示し、契約する価値があるかを顧客に判断してもらうこと」です。
見積もり提示には「価格提示を通じて商品やサービスの価値を伝える」役割があります。数パターンの価格や内容を提示し、どの価格やサービス内容がニーズにマッチするのかを探る重要な段階といえるでしょう。
顧客は、商材を提案した初期段階で早めに価格を知りたがる傾向があるため、営業担当者によっては急いで見積書を提示してしまうケースがあるかもしれません。しかし、見積もり提示のタイミングや方法を間違うと価格だけが一人歩きしてしまい、先入観を持たれ成約につながらないケースもあります。見積書の提示方法も「メール」「郵送」「直接提示」などさまざまです。企業によっては相見積もりを目的に価格提示を求めるケースもあるため、見積書の提示は慎重に行いましょう。
交渉ステージの位置付けと役割
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交渉ステージの位置付けは、契約に向けた条件調整の場であり、合意形成を図る重要な段階といえます。
交渉ステージのゴールは「契約により生まれる顧客メリットを認識してもらうこと」、一方販売者側は「交渉成立による販売利益を確定させること」です。つまり、販売者側と顧客の双方が納得するポイントを見つけ出すことが交渉ステージの役割といえるでしょう。
顧客が契約意思を固めるタイミングは、「契約により得をする」または「契約により損害を未然に防ぐこと」を認識できたときです。顧客は、契約時に「損をしたくない」という心理が強く働きます。交渉ステージでは、「今契約することで回避できる損害」を具体的に伝えると良いでしょう。
受注ステージの位置付けと役割
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受注ステージの位置付けは「契約意志の最終確認」です。受注はゴールではなく、顧客との中長期的な関係のスタートともいえます。また、受注ステージの役割は、最終的な契約締結と納入後のアフターサービスに向けた準備をスタートすることです。
クロージングの際は、顧客から「検討します」「他社と比較検討します」といった言葉がよく出てきます。しかし「検討します」と言われて「そうですか、ではぜひ検討ください」と相手のペースに任せていると、成約率を上げるのは難しいでしょう。
顧客からの反論(※よくあるノー)が断り文句かどうか見極めるスキルも重要です。クロージングトークのなかで、反論を事前に消すトークスキルも必要になってくるでしょう。
クロージングの技術
クロージングを成功させるには、「クロージングの基本を理解すること」と「効果的なクロージングのタイミングを理解しておくこと」が重要です。
クロージングの基本は「顧客とWIN-WINの関係を築くこと」です。顧客目線での対応を忘れず、顧客課題の解決には何が有効かを常に考えましょう。また、理想的なクロージングのタイミングは「顧客が損をしないと確信を持てたとき」です。費用対効果などの不安要素を取り除けるような準備が必要です。
クロージングの基本を理解する
クロージングの基本は「顧客とWIN-WINの関係を築くこと」です。販売者側の利益だけを追求していては理想的なクロージングはできません。ヒアリング時に確認した顧客課題を、自社商材で解決する覚悟をもって交渉に臨むことが重要です。
顧客の立場で自社の提案内容を吟味し、顧客ニーズにマッチした商品プランや価格になっているか再度確認します。受注を決めてもらう最終局面では、営業担当者の「信用」が大きく成果を左右します。顧客から高い信頼を得るために、自社商材の知識はもちろん、競合他社の知識や業界の情報などは常に最新の情報にアップデートしておきましょう。
効果的なクロージングのタイミング
クロージングの理想的なタイミングは「顧客が損をしないと確信をもてたとき」です。したがって、成約率を上げたいならクロージングの最終段階までに顧客の不安を取り除いておきましょう。
具体的には下記のような不安を取り除く必要があります。
- 契約することで本当に自社課題を解決できるのだろうか?
- 費用対効果は得られるだろうか?
- 契約後の保証やサポートは万全か?
営業担当者だけで解決できない不安が残るなら、商材にもよりますが技術やサポート部門の専門スタッフの協力を仰ぐなど、他部署を巻き込んだ交渉も必要になってくるでしょう。
クロージングが成功したと思っても「社内稟議があるので」とか「もう一度最終検討します」など契約に至らないケースもあります。契約を急がせるのは逆効果ですが、相手のペースにならないよう、回答期日や検討期間が伸びないようなキャンペーンオファーを用意しておくと効果的かもしれません。
クロージングのフレーズと手法
成約率を上げるための効果的なフレーズや具体的な手法を知っておきましょう。実際の営業シーンで使える6つの手法を紹介します。
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1.テストクロージング
テストクロージングとは、契約想定の質問を投げかけて「小さなYES」を重ねていくやり方です。小さなYESを取ることで、顧客は「自己説得」を繰り返すようになり、契約確度も上がります。
テストクロージングの例としては、下記のようなトークがあります。
- 営業「今回ご提案の当社プラットフォームですが、ここまでの説明で特にデメリットと感じられた点はありましたか?」
- 顧客「特にないですね(※YESを取る)メリットが多いように感じました」
- 営業「ありがとうございます。費用についても初期コストがないプランもご用意しています。選ばれるとしたら初期コストがないタイプがいいですよね?」
- 顧客「そうですね(※YESを取る)予算もないので初期コストがないタイプがありがたいです」
このように、YESを繰り返していくと顧客の否定的な概念が薄れてくるため、成約率をあげられるようになります。
2.選択クロージング
選択クロージングとは「契約する前提で商品やサービスを選んでもらう」手法です。
- 営業「今回ご提案したプラットフォームは、初期コスト30万円で月額無料のAタイプと、初期費用0円・月額1万円で利用できるBタイプがあります。他社では初期費用0円のBタイプを契約される方が多いのですが、もし契約されるとしたらAかBどちらでしょう?」
- 顧客「そうですね。契約するなら初期コストがないBタイプですね」
選択クローズを使えば、「〇〇を選ぶ」と答えた顧客自身が、契約後の状況をイメージしてくれるようになります。上記の例なら「初期コストが0円のほうが社内稟議も通りやすいし…」などと考えてくれるため、最終クロージングでのハードルを上げずに済みます。
3.シミュレーション(想像させる)クロージング
シミュレーションクロージングとは、商品やサービスを契約したあとの状態を顧客自身にシミュレーション(想像)してもらう方法です。
例えば、営業活動に使えるSFA(営業支援システム)を販売する例で見てみます。
- 営業「紙での日報から当社のSFAに切り替えた場合、営業効率がどれくらい上がるか想像してみてください。社内業務も毎日1時間は減らせるので、営業活動時間をさらに割けるのではないでしょうか?」
- 顧客「そうですね。訪問件数も週5件は増やせるので売上も10%は上がりますね」
契約後の状況をシミュレーションしてもらうことで購買意欲が高まり、もっと積極的な質問を引き出せるようになります。
4.プラスマイナスクロージング
プラスマイナスクロージングとは、デメリットもしっかり伝えたうえで「メリットのほうが大きいこと」を認識してもらう手法です。
- 営業「こちらのプラットフォームは、導入時に1カ月の研修が必要です。営業社員の方も研修に参加する必要があるため、1カ月だけ稼働時間が減るデメリットがございます。しかし、導入後は業務効率が今より20%もアップしますので、3カ月トータルでみれば導入したほうが利益貢献度は高いといえます」
- 顧客「なるほど。1カ月間は投資と考えてもよさそうですね」
顧客は「うまい話」に警戒心を抱きます。商品やサービスの欠点を正直に伝えることで安心感を与えられるでしょう。
5.期日設定クロージング
期日設定はBtoCの営業でよく使われる手法です。キャンペーンなどを利用して、検討を先延ばしにさせない効果があります。
- 顧客「では検討します」
- 営業「ご検討ありがとうございます。ちなみに今回のキャンペーンで初期費用0円となるのは、今月末までです。今日は15日ですので、遅くとも25日までにご回答いただけますか?」
6.サイレントクロージング
サイレントクロージングとは、あえて沈黙の時間を作り顧客に考える時間を与えるやり方です。交渉中に沈黙ができると、つい不安になり喋り過ぎてしまうケースも多いでしょう。契約確度が見えてきたら「焦らずにゆっくりご検討ください」と、あえて引く態度を出すと効果的な場合があります。
交渉のポイント
営業で顧客と交渉する場合は、下記4つのポイントを忘れないようにしましょう。「クロージングテクニック」と聞くと、つい交渉術やトークスキルの向上など「テクニック論」に偏りがちです。交渉を成立させるためには、顧客との信頼関係を築き、顧客課題の解決に重点を置くなどを理解しておくことが重要といえます。
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1.相手のニーズや本質的な課題を再確認する
交渉を始める際は、顧客のニーズや本質的な課題を再確認しておくことが重要です。
「なぜ商品やサービスに興味を持ったのか?」「どんな課題を抱えていて、どのように改善したいのか?」など、ヒアリング段階で聞いた課題に間違いがないか再確認しておきましょう。また、本質的な課題に注目することも重要です。
例えば「営業効率を上げたいからSFAやCRM(顧客管理ツール)を導入したい」というオファーが来た場合、課題は営業管理の方法ではなく、別の「Web戦略」にあるかもしれません。本質的な課題を見つけることで、より大きな契約に結びつく場合もあります。
2.信頼関係を築く
交渉を成立させるには、顧客との信頼関係が最も重要です。
「期日を守る」「要望には必ず回答する」などはもちろん、顧客の期待を超える信頼関係を築くのが理想です。顧客が考える課題を先回りし、事前にサポートする姿勢を見せると、より効果的です。
3.売るのではなく課題解決の精神を持つ
交渉の場面では、つい「売ることばかり」を考えてしまいます。
顧客は何らかの課題や問題を抱えており、それらを解決するための商品やサービスを探しているケースがほとんどです。売るのではなく「課題解決をしたい」という精神で交渉すると、有利に交渉が進むでしょう。
4.最新の商品や業界知識を豊富に持つ
自社商品やサービスに関する知識はもちろん、競合他社の知識や業界知識を勉強しておくことも重要です。
顧客にとって「より良いアドバイザー」になれるなら、より信頼度は高まり交渉もスムーズに進みます。
Win-Winの交渉方法
交渉においては、販売者側と顧客がWin-Winの関係であることが重要です。自社のメリットばかりを追求するのではなく、下記3つのポイントを意識して交渉します。
- 共通目標を設定する
- 顧客メリットを明確に伝えフォローする
- 中長期的なサポートを約束する
1.共通目標を設定する
交渉の初期段階では、双方の共通目標を設定します。
自社の売上や販売利益だけではなく、顧客側のメリットにも注目しましょう。例えば、「今回のプラットフォーム導入で、来社の営業成績が今期比で120%になるようお手伝いさせていただきます」と、一緒に目標を追いかける姿勢を見せることで、より強固なWin-Winの関係が築けます。
2.顧客メリットを明確に伝えフォローする
単に商品を売るのではなく、契約後の顧客メリットを「根拠ある数値」で明確に伝えます。
「今回契約いただければ業務効率が向上します」といった曖昧なものではなく、「業務効率が上がるため、1年で人件費を200万円削減できます」や「顧客ターゲットを絞り込めるため成約率が今より10%上がります」など、根拠のある数値を示すと信頼度がアップするでしょう。
3.中長期的なサポートを約束する
交渉成立はゴールではありません。
契約を通じて中長期的なサポートができることも明確に伝えます。売って終わりではなく、商品やサービスを通じて顧客利益に貢献し続けることをアピールできれば、Win-Winの関係が築けるでしょう。
反論処理の技術
顧客からの「ノー」、つまり反論を上手く処理していく技術は、クロージングの場面でとても重要です。顧客は「契約することで損をしたくない」という警戒心を抱いているため、「予算がない」「魅力がない」などの反論がよく出ます
顧客から出る反論は、おおよそ共通しています。事前に対策しておけば反論をきっかけに成約に結びつけられるケースも多いでしょう。
1.想定される反論は事前に提示しておく
商材やサービスによっても違いますが、想定される反論はある程度予測できます。例えば「予算がない」「今すぐ契約する必要はない」「A社のほうが安い」などが典型的な例です。
これら共通する反論は、事前に提示しておくと効果的な場合があります。例えば「他社でも”予算がない”という声をいただきます。ただ、初期費用が0円で年度内に月額分の費用を回収できるなら、社内でも決済は取りやすいのではないでしょうか?」と、反論されるであろう内容を先に伝えると成約に結びつけやすいでしょう。
2.反論に共感し具体的に聞く
反論は顧客が関心を持っている証拠です。顧客が契約を検討していなければ、反論をすることもありません。
そのため、反論はポジティブなサインと捉え、共感する姿勢を見せましょう。また、内容をよく理解せずにイメージだけで反論している場合も多いため「何が期待と異なるのか?」など、反論をしている本質的な理由を見抜くことも重要です。
3.解決策を用意しておく
商品特性やサービス内容面での反論が多いなら、事前に解決策を用意しておきます。
例えば「〇〇のサービスは機能が多すぎて高額なので、機能を絞った他社製品を検討している」という反論が出ることも多いでしょう。このような場合は、事前に自社商品の廉価版を準備したり、お試しで機能を確かめてもらう方法を提案するなど解決策を提示できれば効果的です。
成功するクロージングのステップ
クロージングで成功したいなら下記3つの段階を踏むと良いでしょう。
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それぞれ具体的な手法を見ていきます。
①:顧客ニーズを再確認する
事前にヒアリングした顧客ニーズと、自社商材に期待していることについて再度確認します。
具体的には下記のように確認できるでしょう。
・営業「先日伺った内容ですと、御社はリアルタイムで営業プロセスを管理したいということでしたが、その点はお間違いないでしょうか?」「前回から追加で解決されたい課題などはございますか?」
新たな顧客ニーズが出てくるようであれば、クロージング段階で速やかに解決できるよう準備しておきましょう。
②:具体的な価値を提示する
次に、提案した商材が顧客の問題解決にどのように役立つか、具体的な数値で示します。
例えば、営業DXに関連するプラットフォームであれば下記のような提案ができます。
・営業「今回ご提案したCRMなら、現行の顧客管理システムと比較し、リード獲得を従来比で10%アップ・成約率は20%アップが望めます。月額コストを十分上回る効果が得られ、金額換算にすると年間〇〇万円のプラス効果です」
製品の具体的なメリットを数字や事例を交えて提示することで、契約意欲を高めていきます。
③:決定を誘導する
最後に、契約に向けた最終的な決断を下すよう顧客を誘導します。
この段階まで交渉が進んだら、契約前提で話を進めましょう。
具体的なトーク例は下記の通りです。
・営業「今回の提案についてご不明な点がなければ、来月10日の納入に向けて準備を進めさせていただきますが、何か問題はございますか?」「納入日から逆算しますと、今月20日までには契約書へのサインをいただきたく、よろしくお願いいたします」
企業によっては社内決済に時間がかかるケースがあります。交渉の途中で社内稟議のスピードなどについても事前にヒアリングしておくと、有利に交渉を進められます。
クロージングトーク例
ここまで学んだ内容を踏まえ、営業DXに関わるプラットフォームを販売する想定で、実際のクロージングトークを見ていきます。決定権者の再確認から契約の誘導まで、6つの段階別で具体的なトーク例をご紹介します。
【クロージングトーク例】
①決定権者の再確認 | 営業 | ちなみに、先日よりご提案している当社プラットフォームのご検討については、〇〇部長さまが決裁権限をお持ちということでお間違いないでしょうか? |
顧客 | はい。私が権限を持っています。 | |
②顧客ニーズを再確認する | 営業 | 先日伺ったところでは「リードからのナーチャリングに課題を抱えておられる」ということでしたが、あれから新たな課題などはございませんでしょうか? |
顧客 | 基本的には変わりないのですが、費用対効果が得られるかだけが不安ですね。 | |
③課題や不安要素を取り除き想定される反論を先に提示する | 営業 | 他社さまでも費用対効果を不安視される方は多いようですね。これまで当プラットフォームは1,000社以上の企業さまに導入しております。今回、具体的な費用対効果に関するデータをお持ちしました。一度、こちらをご確認いただけますか? |
顧客 | これだけ具体的な数値があると安心ですね。 | |
④選択クローズでテストクロージング | 営業 | ご不安を解消できて安心しました。ところで、もしご契約されるなら「Aプラン」か「Bプラン」どちらになさいますか?最近は初期費用0円のBプランを選択される企業さまがほとんどです。 |
顧客 | 契約するならBプランですね | |
⑤課題解決の精神や中長期的なフォローを申し出る | 営業 | ありがとうございます。当社はプラットフォーム納入がゴールとは思っておりません。課題解決のために並走する覚悟です。営業効率を20%アップさせて、今期比で御社営業利益も30%アップできるよう精一杯サポートさせていただきます。 |
顧客 | サポート体制も万全なので安心できますね。 | |
⑥決定を誘導する | 営業 | では、ここまでのご説明でお気づきの点や問題点はございますか?なければご契約に向けて手続きを進めたいと思います。今回のキャンペーンが月末までですので、25日のご契約目途でよろしいでしょうか? |
顧客 | 問題ありません。1週間以内に社内決済を取っておきます。 |
Lesson 5では、見積もり提示から受注までの「クロージングテクニック」を整理しました。
自組織のクロージングスキルを高めたいなら、成約率を上げるための手法やフレーズをマスターさせるのはもちろん、クロージングにおける原則を理解してもらうことが重要です。
クロージングでもっとも重要なのは「顧客課題の解決に熱意を注ぐこと」です。顧客が商品や商材を契約するのは、何らかの課題を解決したいからです。早く契約を取りたい一心でテクニック論に走るのではなく、営業を通じてどのように顧客課題を解決するのか、改めて考えさせるような指導が効果的といえます。
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