問題の特定と意思決定
営業会議で議題となる問題とは、目標と現状との間に生まれる差や障害であり、意思決定とはその問題に対して最も適切な解決策を選び取るプロセスです。問題の特定と意思決定は密接に関連していて、正確な問題の特定によって効果的な意思決定が可能となり、組織全体のパフォーマンスを向上させられます。
問題の特定を誤ると、リソースの浪費や事態の悪化につながるリスクがあります。また、行動しても改善する兆しが見えない場合、組織や個人の士気が低下する恐れもあるため、問題の特定はその後の施策の成否を決めるといっても過言ではありません。問題の特定においては、表層的な問題ではなく根本原因に迫る手順を心がけましょう。
ここでは的確な問題の特定と適切な意思決定に有効な技法を2つ紹介します。
- 5 Whys
- フィッシュボーン図
1. 5 Whys
5 Whysとは、「なぜ?」を5回繰り返すことで問題を深堀りし、根本的な原因にたどり着くトヨタ生産方式で有名な技法で、「なぜなぜ分析」とも呼ばれます。5 Whysは、同じ問題が繰り返し発生したりデータや情報が不足したりしているときに有効です。
例えば、月次売上が目標に達成していないという状況があるとします。
この場合、以下のように「なぜ?」と回答を繰り返してみましょう。
- Q1. なぜ売上が目標を達成していないのか?
A1:商談の成約率が低い。 - Q2. なぜ商談の成約率が低いのか?
A2:見込み客との関係構築が不十分である。 - Q3. なぜ見込み客との関係構築が不十分なのか?
A3:フォローアップの頻度が少ない。 - Q4. なぜフォローアップの頻度が少ないのか?
A4:営業担当者の時間管理が効果的ではない。 - Q5. なぜ営業担当者の時間管理が効果的ではないのか?
A5:優先順位の付け方が不適切であり、重要な見込み客に集中できていない。
以上の分析から、見込み客と関係構築を強化するために活動の優先順位を意識したスケジューリングの必要がありそうです。また、見込み客のスコアリングシステムを導入して成約見込みの高い顧客に重点を置き、商談効率を高めれば、売上目標の達成に近付けるでしょう。
5 Whysでは、できるだけ多角的に「なぜ?」を繰り返す必要があります。他部門と連携したり、多くの担当者による積極的な発言を促したりして、問題を深堀りする姿勢で取り組みましょう。
2. フィッシュボーン図(特性要因図)
フィッシュボーン図は、問題の根本的な原因を視覚的に整理し、全体像を把握できるツールです。主幹とそれに付随する枝の形状が魚の骨に似ているため「フィッシュボーン図」と呼ばれています。
複数の要因が複雑に関わっていると考えられるときは、フィッシュボーン図の作成を通して問題を整理してみましょう。
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フィッシュボーン図の作成手順は以下のとおりです。
- 問題の明確化
用紙の右端に問題を書き出し、背骨(主幹)を引く。 - 主要カテゴリの設定
背骨(主幹)から大骨(枝)を引き、原因となる主要なカテゴリ(例えば、方法、環境、品質、人など)を設定する。 - 詳細な要因の特定
カテゴリから小骨(さらに細かい枝)を引き、詳細な要因を挙げる。 - 原因の分析
図全体を見渡し、どの要因が最も大きな影響を及ぼしているかを分析する。
例えば、製造業の営業部門において売上ダウンという問題の根本的な原因をフィッシュボーン図で分析する場合、以下のように原因を特定していきます。
カテゴリ | 問題要因 | 詳細 |
人 | 営業スキル不足 | 新人営業担当者のトレーニング不足 |
コミュニケーション不足 | 営業チーム間の情報共有不足 | |
方法 | 非効率な営業プロセス | 顧客訪問計画が不十分 |
商談の進捗管理ができていない | ||
フォローアップの欠如 | リードのフォローアップが遅れている | |
成約後のフォローアップが不足している | ||
環境 | CRMツールの未活用 | データ入力が煩雑で使用が進んでいない |
ツールの機能を十分に理解していない | ||
マーケティングツールの不足 | 効果的なマーケティングオートメーションがない | |
リードジェネレーションツールが古い | ||
品質 | 品質低下 | 競合他社の新製品リリースによる相対的品質低下 |
供給の遅延 | 顧客ニーズの変化が早い |
これらの要素のうち営業部門で解決できるのは「人カテゴリ」「方法カテゴリ」「環境カテゴリ」内の「CRMツールの未活用」です。すべての原因を営業部門だけで解消できるわけではないことを認識し、取り組める問題を精査しましょう。
フィッシュボーン図は、定期的な見直しにより精度と有用性を維持します。一度作成した図を継続的に見直し、状況の変化や新たな情報に基づいて更新しましょう。会議内で明らかにした根本原因を解決するための対策はスムーズに実行に移されるべきですが、そのためには関係者間の合意形成が必要です。
合意形成のコツ
合意形成は、複数の関係者が意見を出し合い、組織として納得できる形で意見を一致させるプロセスです。
合意形成がうまくいくと解決策の実行がスムーズになるだけではなく、組織内の信頼が深まり、新たな問題が発生したときの対処が迅速になるでしょう。一方で、合意形成がうまくできないと問題解決の施策にフルコミットできず、結果が伴わないためにモチベーションの低下や会議の形骸化を招きます。
において、ファシリテーターに要求される技術として合意形成の力を挙げましたが、ここでは合意形成のコツだけではなく、合意形成がうまくいかないときの対処法を紹介します。Lesson 3の内容をおさらいし、質の高い会議と迅速な問題解決のために必須のスキルを身に付けましょう。
オープンなコミュニケーション
合意形成には、オープンなコミュニケーションが不可欠です。すべてのメンバーが自由に意見を述べられる環境を整えましょう。意見を出しやすい雰囲気づくりは、ファシリテーターを務めるリーダーの役割です。
緊張感があり失言が許されない状況では、考えを述べずに会議をやり過ごす担当者がいるかもしれません。これでは質の高い合意形成は望めません。
会議を始める前にコミュニケーションを促進するためのアイスブレイクを取り入れたり、ブレインストーミングを行うなどの工夫をしても良いでしょう。
なお、自由な発言ができるようになると批判的な意見や食い違いが生まれやすくなりますが、より良い合意形成のためには必要なプロセスです。批判的な意見にも傾聴し、なぜその意見を持つに至ったのかを理解するために質問をしましょう。批判的な意見や食い違いの中にある共通点と相違点を明確にした上で、相違点に絞って議論を進めるのがポイントです。
会議への参加意識が高まると、合意した打ち手に対するコミットメントが高まり、その後の行動に責任感が生まれたり積極的に改善案を提言したりするといった好影響が望めます。
データに基づく議論
議論はデータを用いて客観的な事実を基に進めましょう。
個人の主観や経験が問題を解決に導くケースもありますが、会議における意思決定や合意形成においては、根拠が曖昧になり不明確なアクションプランになりがちです。データは具体的で明確なエビデンスを示しており、参加した営業担当者にとって理解しやすい情報となります。データに基づいた合意形成を心がければ、個人の主観や感情で訴えるよりも関係者を説得しやすくなるでしょう。
なお、データを使用する際には以下の点に注意が必要です。
注意点 | 詳細 | 方法 |
データの信頼性 | 信頼できるデータを使用し、情報の正確性を確保する。 | データの出所を確認し、信頼できるソースから取得する。複数の情報源をクロスチェックする。 |
データの理解と解釈 | データがどのように収集され、何を示しているのかを正しく理解する。 | データの背景や前提条件を明確にする。専門家や関係者とデータの解釈について議論する。 |
データの視覚化 | 複雑なデータを視覚的にわかりやすく伝える。 | グラフやチャートを使用してデータを視覚化する。重要なポイントを強調し、説明を加える。 |
データのバイアスに注意 | データが意図的に偏ったり、誤った結論に導かれたりしないようにする。 | データ収集や分析のプロセスでのバイアスを排除する。複数の視点からデータを検討し、バランスを取る。 |
データのタイムリーさ | 最新のデータを使用し、古い情報に基づいて意思決定しないようにする。 | データの収集日や更新日を確認する。定期的にデータを更新し、新しい情報を反映させる。 |
例えば、売上データやKPIをもとに各提案の効果を数値で示し、最も効果的な施策を検証するといった利用が考えられます。
Lesson 4 データドリブンの意思決定と分析ツールの活用で触れたように、SFA/CRMツールを活用すれば各営業担当者や組織の月次売上や商談成約率、フォローアップ回数といったデータ収集と分析のプロセスを自動化でき、手間や時間の大幅な削減が可能です。また、ビジュアル化されたレポートやダッシュボードを利用すれば議題がクリアに伝わり、参加者の理解を得やすい資料になります。
合意形成がうまくいかないときの対処
工夫をしても合意形成がうまくいかないときは、改めて問題や目的を再確認してみましょう。気付かないうちに最も大事な目的から議論の方向性がそれてしまっている可能性があります。
また、問題を小さなパーツに分けて簡単な問題から一つずつ合意を得ていく方法も有効です。他にも、議論が煮詰まったら時間を置いたり、妥協点を探ったりしても良いでしょう。会議においてうまく合意が得られない場合は、焦らずにその場に適した方法を選択しながら、少しずつ意見をまとめていく意識が重要です。
アクションプランの作成方法
アクションプランは特定の目標を達成するための具体的な行動計画です。目標達成に向かう具体的なステップを明確にし、それぞれのタスクを誰が、いつまでに、どのように実行するかを詳細に設定します。
アクションプランは以下の順で作成しましょう。
- 目標:達成したい具体的な目標を設定。
- タスク:目標達成に必要な行動を細分化。
- 責任者:各タスクの担当者を明確化。
- リソース:必要な予算や人材、ツールなどを配分。
- タイムライン:各タスクの実行スケジュールを設定。
- モニタリング:進捗状況を定期的に確認し、フィードバック。
目標設定には「SMARTの法則」が有効です。Specific(具体的)・Measurable(測定可能)・Achievable(達成可能)・Relevant(関連性のある)・Time-bound(期限付き)の頭文字を取ったもので、それぞれの項目に配慮することで適切な目標を設定できます。
タスクはできるだけ細分化し、担当者に割り振るよう意識しましょう。雑なタスクの割り振りは組織の混乱を招きリソースの浪費に繋がります。
タスク | 担当者 | 期限 | 具体的内容 |
新規顧客開拓 | 営業担当者A | 第2週目まで | セミナーイベントの開催やDM、訪問で見込み客を1,000件獲得。 |
初期コンタクト | 営業担当者B | 第4週目まで | 獲得した見込み客に対して電話やメールでコンタクト。 |
フォローアップ | 営業担当者C | 第8週目まで | 初期コンタクトで興味を示した見込み客に対してフォローアップ。 |
商談の進行 | 営業チーム全体 | 第12週目まで | 商談を進め、新規受注を50件獲得。 |
また、タイムラインの管理も重要です。目標を細かく設定し、短中長期に分けて期限を設定すると進捗を管理しやすくなります。
定期的に、アクションプランが適切に遂行されているかをモニタリングし、PDCAサイクルを回します。必要に応じて問題の特定と意思決定のプロセスに戻って再定義し、新たなアクションプランに落とし込みましょう。
振り返りと次回会議へのフィードバック
Lesson 2効果的な営業会議を開催する準備(資料とアジェンダ作成)では、営業会議の締めくくりや営業会議の質を向上させる方法について解説しました。ここでは次回以降の会議をより良くするための会議自体の振り返りとフィードバックについて解説します。
会議の振り返りとフィードバックは今後のアクションプランの改善や継続的な成長、質の高い会議に不可欠です。評価基準に基づく分析と担当者や関係者のフィードバックを取り入れ、次回会議に反映させます。参加する営業担当者が期待感を持てるような振り返りとフィードバックを行う上で重要なポイントに対する理解を深めましょう。
振り返りやフィードバックの重要性を強調
フィードバックの重要性を参加している営業担当者全員が認識しているとは限りません。特に形骸化した会議や上司の話を聞くだけの会議、無理な目標を発表させられるだけの会議を長く経験した組織であれば、会議自体をうとましく思われているでしょう。
このような会議を変え、パフォーマンスを上げるために必要な会議を行うには、参加者の振り返りとフィードバックが何よりも重要です。
問題の特定や意思決定、アクションプラン作成のプロセスは、担当者たちの活発な意見交換なくしては成り立たないことを伝え、会議の重要さを認識してもらいましょう。その土台があるからこそ、会議を良くしていくための振り返りとフィードバックが財産になります。
会議中の振り返りセッション
振り返りは記憶が新鮮なうちに行いましょう。会議の最後に振り返りのセッションを設ける方法が有効です。
振り返りの時間がもったいないと感じる営業担当者がいる場合、会議の重要性の認識が不足している可能性があります。リーダーが根気強く会議の重要性を訴え、より良い会議にするように努める姿勢を見せ続けましょう。
会議中の振り返りが定型化すれば参加者に習慣がつき、違和感なくフィードバックをもらえるようになります。
フィードバックの収集
会議後に参加した営業担当者からフィードバックを収集し、次回の会議に活かします。フィードバックの収集方法は、口頭でも良いですしアンケート用紙への記述でも良いでしょう。
口頭で収集する場合は、本音で話してもらえるようにカジュアルな雰囲気づくりを心がけます。慣れないうちは、簡単なフィードバックでも良いです。
例えば、「無理に良いコメントや効果的なコメントを意識する必要はありません。ちょっとした感想を言う程度でも大丈夫です」と最初に伝えるだけで、参加者は話しやすくなります。
フィードバック例
「時間通りに開始・終了でき、効率的だった」
「全員が積極的に意見を出せていて良かった」
「もっと議論をする時間を増やしたい」
「会議で成功事例を詳しく共有してほしい」
「会議の方向性がわからなかった」
会議中に参加した営業担当者からフィードバックを得られたら、その場で改善策を提案するのも、より良い会議づくりに効果的です。すぐに実行・改善する姿勢を見せれば、参加者はフィードバックが無駄にならないことを実感できます。
会議への意欲が高まり振り返りの重要性に気づきますし、会議の質も向上していくという好循環が生まれるでしょう。
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