シナリオ設計
リードナーチャリングにおける「シナリオ設計」とは、リードの属性や行動に基づいて、適切なタイミングで適切なメッセージやコンテンツを提供するストーリーを体系的にまとめたものです。これは、リードが自社の製品やサービスに関心を持ち、最終的に購入に至るまでの道のりを計画的に導くための設計図ともいえます。
リードナーチャリングを行う目的は、リード(見込み客)を育成し、最終的に自社の製品やサービスの購入につなげることです。そのためには、相手の意図や考えを読まない一方通行の会話ではなく、リードのニーズを満たす質の高い継続的なコミュニケーションが不可欠です。
シナリオ設計は、この質の高いコミュニケーションを実現するための重要な要素です。次に、シナリオ設計が具体的にどのように役立つかを詳しく見ていきましょう。
シナリオが重要な理由
シナリオが重要な理由は以下2点です。まず、シナリオを活用することで、リードに対しパーソナライズしたアプローチができること。そして、シナリオ設計後の効果測定が容易になることです。以下に詳しく解説します。
リードの興味に応じたアプローチが即座にできる
リードナーチャリングの成功は、リードの状態に応じた個別対応ができるかどうかにかかっています。例えば、価格表や製品サービス資料をダウンロードした興味の高いリードには、「無料トライアルキャンペーンの情報」をメールで送る。また、価格表を見ているリードには、競合他社のサービスとの比較表を提供するなどのアプローチが考えられます。一方、検討度合いの低いリードには、「ウェビナー情報」を提供して製品の理解を促進させるなど、リードの行動や検討度合いに応じて対応を変えます。
このように、リードの検討度合いや行動に合わせてプロセスを細かく分岐させるアプローチは、シナリオを活用することで実現可能です。シナリオを設計することで、リードが購入プロセスのどの段階にいるかを把握し、その段階に応じた情報やオファーを提供することができます。これにより、効果的なタイミングでアプローチができ、結果的にナーチャリング効果が高まります。
効果測定が容易になる
リードナーチャリングの成果を正しく測定するためには、リードに対するアプローチを統一することが重要です。各リードへのアプローチ方法やコミュニケーション内容が担当ごとに異なると、正確な効果測定が難しくなり、施策の改善にもつながりません。また、長期間育成し、検討度合いが高まったとしても、情報が統一されていないと、リードが混乱し、エンゲージメント(関与)が低下する可能性もあります。
シナリオ設計を活用することで、「Aという状態にあるリードに対しては、Aというアプローチを行う」という共通の行動を取ることができます。これにより、担当者ごとのばらつきを防ぎ、統一されたアプローチが可能になります。
さらに、シナリオは事前に仮説を立てて設計するため、各ステップが仮説通りに進んだかどうかを測定することができます。どのメッセージが効果的だったか、どのタイミングが最も反応を引き出せたかを分析しやすくなり、その結果を基にシナリオを最適化することもできます。
シナリオ作成の準備をする
ここからはシナリオ作成について解説します。シナリオ作成前には、ターゲットの分類が必要です。リードの特性や行動を理解し、適切に分類することで、各リードに合わせパーソナライズされたシナリオを設計できます。以下に「獲得経路」「属性情報」「行動情報」の3つの観点での分類方法について解説します。
獲得経路による分類
リードをどのような経路で獲得したかを基に分類する方法です。獲得経路によって、リードの興味関心やニーズは大きく異なります。
例えば、バナー広告経由で獲得したリードは、まだ製品の理解度が低く、自社の課題解決につながるツールをそれとなく探している「潜在顧客」である可能性が高いです。一方、自社の製品特徴に関する内容をテーマにしたウェビナーに申し込んだリードは、すでに自社の製品やサービスについてある程度の知識を持っており、さらに詳細を知りたい「準潜在・顕在顧客」であることが考えられます。
このように、経路を分類することで、各リードがどのような情報を求めているか、どのようなコンテンツに興味を持っているかを予測しやすくなります。経路を分類する際のカテゴリ例は以下の通りです。
- 広告:デジタル広告やバナー広告からのリード
- オーガニック検索:SEOによって自然検索から流入したリード
- ソーシャルメディア:FacebookやXなどのSNSを通じて獲得したリード
- メールマーケティング:ニュースレターやキャンペーンメールからのリード
- リファラル: 他のサイトや口コミを通じて紹介されたリード
これらのカテゴリを基に、リードの特性や行動を分析し、適切なシナリオを設計することで、効果的なマーケティングを実現しましょう。
属性情報による分類
リードの基本的な属性情報(会社規模、業界、役職、年齢など)を基に分類する方法です。属性情報に基づいた分類により、リードに対してより適切で効果的なメッセージを作成することができます。属性別での分類例は以下の通りです。
- 会社規模:
例)従業員数が10〜50人、51〜200人、200人以上 - 業界:
例)IT、製造、金融、医療 - 年齢:
例)18〜25歳、26歳〜35歳、36〜50歳、51歳以上 - 性別:
例)男性、女性 - 役職:
例)経営者、部長、課長、一般社員、その他 - 地域:
例)都市部、地方、国内、海外
リードを役職や企業規模で分類する例を考えてみましょう。経営者と一般社員、大手企業とスタートアップ企業では、適したアプローチは異なります。リードに応じた効果的なメッセージを届けるためには、立場や状態に応じてアプローチを考える必要があります。
行動情報による分類
リードがどのような行動を取ったかに基づいて分類する方法です。Web上でのリードの行動には以下のものがあります。
- ウェブサイト閲覧履歴:どのページを訪問したか、どれくらいの時間滞在したか
- 資料ダウンロード履歴:どの資料をダウンロードしたか、その資料を開いたかどうか
- ウェビナーへの参加履歴:どのウェビナーに申し込んだか、参加したかどうか
- メールの開封やクリックの履歴:どのメールを開封したか、メール内のどこをクリックしたか
例えば、特定の製品ページを閲覧したリードは、その製品に興味があると考えられます。また、価格表や競合比較表、複数のお役立ち資料をダウンロードしたリードは、製品に対する関心が高いと推測できます。
これらの行動情報を取得してリードの関心やニーズを把握することで、より正確にパーソナライズされたシナリオを設計できます。例えば、ウェビナーの参加履歴に基づいて、参加後のフォローアップメールを送ったり、メールの開封履歴に基づいて特定のリンクをクリックしたリードには、関連する情報を提供したりすることが可能です。
これらの行動情報に基づいてリードを分類し、リードナーチャリングのシナリオを効果的に設計することで、リードとのエンゲージメントを高め、最終的に自社の製品やサービスの購入につなげることができるでしょう。
ペルソナの設定
ターゲットを分類した後は、ペルソナを設計します。ペルソナとは、製品やサービスのターゲットを具体的に描いた架空の顧客像のことです。ターゲットとペルソナを混同することもありますが、ターゲットが目的に沿った属性の「集団」であるのに対し、ペルソナはその集団に属する「個人」を具体化したものです。例えば、ターゲットが「20代女性、都内在住、オフィスワーカー」である場合、ペルソナは「佐藤花子、28歳、渋谷区在住、広告代理店勤務」といった具合に具体化されます。
シナリオ設計の前にペルソナを設定しておくことで、リードがなぜこの行動を取ったのか、その時の感情はどのようなものかなど、リードの心理をより深く理解できるようになります。また、ペルソナに基づいた効果的なメッセージやコンテンツを制作することで、より効果的なシナリオ設計が可能になります。
ペルソナ設計方法
ペルソナを設計する際には、以下の3つのステップで進めましょう。
Step1:ペルソナ設計の項目を決める
まず、ペルソナの設計に必要な項目を定めます。基本的な項目は以下の通りです。
項目 | 詳細 |
優先度 | どのペルソナを優先的にターゲットにするか |
具体的な企業名 | 架空の会社名を設定(例:ABC株式会社) |
部署 | 営業部、マーケティング部、人事部など |
役職 | 課長、部長など |
会社規模 | 従業員数、売上高など |
課題 | 業務における具体的な課題や悩み |
実現したいこと | 課題を解決することで得られるメリットや目標 |
ペルソナをどのような目的で活用するかにより項目が少々異なります。例えば、自社製品の認知度向上を目的としたオフライン広告の掲載箇所を検討する際には、どこに掲載するとより良いのかという視点が加えられます。例えば、よく出歩くエリア、勤務先、などの情報を追加するとよいでしょう。目的に合わせて項目を決めると効果的です。
2:項目に必要なデータを収集する
次に、決定した項目に基づいてデータを収集します。データを集めることで、人の行動特徴や趣味嗜好などが具体的にイメージしやすくなります。データの収集の方法は以下の通りです。
- ウェブ解析による行動データの確認
- 現在契約のある取引先にヒアリング
- マーケットデータの確認
- アンケート回答情報やSNSの投稿情報の収集
幅広い方法でデータを収集することで、統計的なデータ分析が可能になります。また、日常的にリード情報を蓄積しておくことも重要です。
Step3:ペルソナシートにまとめる
最後に、収集した情報を分析し、具体的なペルソナを設定します。単にデータを並べるのではなく、リアリティを感じられるストーリーを作りながら肉付けをします。例えば、ペルソナ「佐藤花子」は、広告代理店で働きながら新しいマーケティング手法に興味があり、仕事とプライベートのバランスを重視しているといった具体的なストーリーを描きます。そして、作成したペルソナが目的に沿ったものか、最重リードになり得るかを深掘りをしましょう。
ペルソナ設計例1
ここでは、前述した項目に基づいたペルソナ設計例を2つ紹介します。参考にしてください。
ペルソナ設計目的
商材である「SFA」(営業活動やリード情報の管理を支援してくれる営業支援ツール)の販売促進を目的としています。
ペルソナ(営業部門責任者Aさん)
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ペルソナ設計例2
ペルソナ(代表取締役Aさん)
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カスタマージャーニーを設計する
ペルソナの設計が完了した後は、カスタマージャーニーを設計をします。カスタマージャーニーとは、リードが製品やサービスを認知してから、購入・リピートに至るまでの一連のステップを視覚化したものです。これにより、リードがどのようなプロセスを経て購買に至るのかをより深く理解できるようになります。リードのニーズや課題、行動パターンを把握し、タッチポイントを軸にシナリオを設計することで、精度の高いナーチャリング戦略を立てることができます。
カスタマージャーニーを設計する際には、まず購買プロセスを定義します。SFAツールを商談とした場合の購入プロセスは以下の5つです。
- 認知・興味
- 情報収集
- 比較検討
- 購入
- リピート
次に、各プロセス内で以下の要素を定義します。
- 行動:リードが取る具体的なアクション
- タッチポイント:リードと企業が接触するポイント
- 目的:リードがそのプロセスで達成しようとしていること
- ペルソナの思考・心理:その時点でのリードの考えや感情
- 解決策:リードの課題やニーズに対する企業の提供価値
これらの要素を定義した後、購入プロセスを横軸、各要素を縦軸にしてカスタマージャーニーマップを作成し、視覚化してみましょう。以下に、前述した「営業部門責任者Aさん」を対象とした、SFAツール購入のカスタマージャーニーの具体例を示します。
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このように構成することで、読者が各ステップを理解しやすくなり、全体の流れが明確になります。
カスタマージャーニーに沿ったコンテンツを企画
次に、カスタマージャーニーに合わせて最適なコンテンツを企画します。シナリオ設計で重要なのは、適切な「内容」と「タイミング」です。
まず、コンテンツの内容については、リードがコンテンツを閲覧した後にどのような状態になってほしいかを明確にして作成します。これにより、軸がブレないコンテンツを作成することができます。目的に沿いながら、リードのニーズを満たすための適切な内容を考え、訴求ポイントを明確にします。
次に、作成したコンテンツがどのタイミングでリードに見られたら、次の購入ステップに進む可能性が高いかを考えます。前述したカスタマージャーニーを基に、最適なコンテンツ内容、タイミング、コンバージョンについての例を以下の表にまとめました。
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コンテンツはリードにとって価値があるものでなければ、次の購入プロセスへと進めることはできません。コンテンツ制作時には、単なる宣伝ではなく、リードの問題を解決する情報を提供することを心がけましょう。
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