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休眠の基準を設定する
休眠顧客を掘り起こす施策を始める前には、まず、自社にとって「休眠顧客」とはどのような状態の顧客なのかを定義を明確にしましょう。単に「取引が途絶えた顧客」として一括りにするのでは、業種や企業規模、取引の形態を考慮しながら、自社に最適な基準を設定することが重要です。基準をしっかりと設定しなければ、適切なターゲット設定ができず、しっかりとした施策を設計することが難しくなります。
休眠顧客の一般的な基準
休眠顧客の基準は企業によって異なりますが、一般的には以下のような条件が設定されます。
- 最後の購入日・契約更新日から⚫︎カ月以上経過している
- 定期購入やライセンス契約の更新がない
- 取引金額や購入頻度が一定期間で大幅に減少している
休眠顧客の定義は単純な「未取引」だけでなく、取引の減少傾向も含めて判断することがポイントです。
業種ごとの休眠基準
この基準は、業種ごとに取引の特性が異なるため、それぞれのビジネスモデルに適した基準を設定する必要があります。一般的な業種ごとの休眠基準の例を以下に示します。
業種 | 休眠基準 | 判断ポイント |
消耗品販売 | 6ヶ月以上未購入 | オフィス用品や飲食業の原材料など、定期的に補充が必要な商材は短期間で取引が発生するため、半年以上購入がないと休眠と判断可能 |
ITサービス | 1年以上ライセンス更新なし | サブスクリプション型のライセンス契約や保守契約が1年以上更新されていない場合、顧客が他社システムへの移行や運用方針の変更を検討している可能性がある |
製造業 | 2年以上大口取引なし | 設備投資や原材料の購入が主な取引形態となるため、取引サイクルが長い。2年以上大きな取引がない場合、休眠状態とみなせる |
例えば、消耗品販売のように取引頻度が比較的高い業種では、休眠の判断期間は6ヶ月と短めですが、製造業やITサービスのように長期契約が前提の業種では、休眠の判断期間は1〜2年以上と長めの場合があります。
自社に適した基準を決める際には、自社の過去の取引データを参照に基準をカスタマイズしましょう。次のステップでは、休眠顧客を特定するために、どのようなデータを収集し、分析するべきかを見ていきましょう。
必要なデータを収集・整理する
基準を設定したら、休眠顧客を特定するために必要なデータを収集し、整理しましょう。BtoB取引では顧客ごとの特性が多様であるため、以下の4種類のデータを収集・分析することで、休眠顧客をより精度高く特定できるようになります。
データ種類 | 具体的な項目 | 活用方法 |
取引履歴 |
| 取引の減少傾向を把握し、休眠顧客を抽出する |
行動履歴 |
| 休眠状態でも関心を持っている顧客を発見し、アプローチの優先度を決定する |
商談履歴 |
| 過去の営業活動の状況を分析し、再アプローチの可能性を探る |
企業属性 |
| 顧客の特性を分析し、適切な施策を選定する |
データの収集と整理のポイント
データを収集・整理する際に、データが分散していたり、古くなっていたりすると、正確な分析が難しくなります。そのため、どのデータを優先的に収集すべきかを、整理の手順を決めることが重要です。ここでは、取引履歴や行動履歴、商談履歴、企業属性データを効率的に収集し、整理するためのポイントを見ていきます。
1. 取引履歴を整理する
取引履歴では、過去の購入履歴や契約の更新状況を確認し、一定期間取引が途絶えている顧客を特定します。
- ITサービス業の場合
→ 最後のライセンス更新日が1年以上前の顧客を休眠顧客とみなす - 消耗品販売の場合
→ 最終購入日から6ヶ月以上経過した顧客を抽出 - 製造業の場合
→ 大口取引が2年以上行われていない顧客を特定
2. 行動履歴を確認する
取引が途絶えている顧客でも、製品情報に興味を持ち続けているケースがあります。
- 最近のメール開封やクリックがあるか?
- 製品ページを頻繁に閲覧しているか?
- 資料ダウンロードを行っているか?
このようなデータを確認することで、アプローチすべき優先的な顧客を見つけ出すことができます。
3. 商談履歴を活用する
過去の商談履歴や問い合わせ履歴も確認し、以下のような情報を整理しましょう。
- 最後の商談での反応(見送り理由は何か?)
- 以前は積極的に取引していたが、突然やりとりが途絶えた顧客はいるか?
- 価格や導入タイミングの問題で見送りになったが、状況が変われば興味を示しそうな顧客はいるか?
商談履歴を整理することで、休眠理由を明確にし、どのような方向性でアプローチすべきか方針が見えてきます。
4. 企業属性データを活用する
企業の業種や規模によって、取引頻度や購買傾向は大きく異なるため、企業属性データも重要な判断軸になります。
- 大手企業:決済プロセスが長く、1回の取引金額が大きいため、1~2年のスパンでの分析が必要
- 中小企業:取引サイクルが短いため、3~6ヶ月の未購入期間で休眠とみなす
- 業種ごとの違い:消耗品販売なら6ヶ月未購入、ITサービスなら1年以上ライセンス更新なし、製造業なら2年以上大口取引なし
一つのデータだけを分析するのではなく、複数のデータを組み合わせて、顧客をリストアップし、再アプローチの優先順位を決めます。そのため、データを整理する段階ではできるだけ多くのデータを集めることを意識しておきましょう。
データの収集と整理の方法
必要なデータを効率的に収集するためには、ツールやシステムを活用すると良いでしょう。データが分散している場合は統合したり、情報が古い場合は最新のものに更新したり整理することも必要です。ここでは、主に活用できるツールやデータの統合方法について見ていきます。
1. CRM/SFAツールを活用する
CRM/SFAツールを導入している場合は、最も効率的にデータの収集・整理が行えます。ツールには、顧客情報や取引履歴、商談履歴などが一元管理されており、顧客の行動を時系列で把握しやすいのが特徴です。CRM/SFAツールを活用すると、休眠顧客の抽出や優先順位の設定が比較的簡単に行えます。営業チームとマーケティングチームのデータを統合できるため、部門を横断した分析を行い、商談履歴や過去の対応状況を参考に、適切なフォロー施策を設計できます。
2.販売管理システムを活用する
CRM/SFAツールを導入していないが、販売管理システムを導入している場合は、システムに格納されている請求書や発注履歴を確認しましょう。販売管理システムを活用すると、過去の購買履歴を分析し、取引頻度が減少している顧客を特定したり、顧客ごとの購買傾向(季節ごとの発注パターン、定期発注の有無など)を把握したり、取引金額の変動を確認し、取引縮小傾向にある顧客を抽出したり、さまざまな側面で活用できます。
3.Excelや社内共有ファイルを活用する
CRM/SFAや販売管理システムを導入していない場合、Excelや社内共有ファイルから必要な情報を抽出することで、データの収集や整理が可能です。Excelを活用すると、営業記録や問い合わせ履歴などのデータを手動で集計したり、図やグラフでまとめると、比較的簡単にデータの分析が行え、特定の顧客リストを作成できます。ただし、手作業での更新が必要な場合が多いため、データの正確性や最新性をチェックするようにしましょう。
データが分散している場合
複数の部署やツールに情報が分散している場合は、データを統合して整理する必要があります。例えば、CRM/SFAツールには商談履歴が記録されているが、購買データは販売管理システムにしかない、といったケースでは、データを一元化することで、正確な休眠顧客の特定が容易になります。
データの統合のプロセス
データを統合するには、まずどの情報をどのように整理すべきかを明確にし、段階的に統合を進めます。以下のプロセスを参考に、データを整理しましょう。
1. 各データソースをリストアップ
CRM、販売管理システム、Excelファイルなど、社内に存在する全てのデータソースを漏れなくリストアップします。各システムにどのようなデータが保管されているか、詳細に確認しましょう。
2. 休眠顧客の特定に必要なデータを抽出
休眠顧客の特定に必要な取引履歴や顧客属性などのデータを優先的に抽出します。すべてのデータを一度に統合するのではなく、必要性の高いものから順に整理していきます。
3. データクレンジング(整理・修正)
データクレンジングでは、重複データの削除や不正確なデータの修正を行い、データの品質を向上させます。特にBtoB取引では、企業名の表記揺れ(例:「株式会社A社」と「A社」)や担当者の変更などを正確に反映することが重要です。また、取引履歴や顧客属性の欠損は可能な限り補完したり、古い情報は最新のものに更新したり、分析に使える状態に整備します。
4. データの一元管理化
収集したデータはCRM/SFAツールやシステムに統合しましょう。一元管理することで、情報の重複や更新漏れを防ぎ、常に正確なデータを保持できます。また、各部署や担当者が必要なときに最新の情報へスムーズにアクセスできるため、営業部門と管理部門が同じデータを参照しながら、効率的な休眠顧客分析とフォローが可能になります。システムを導入していない場合でも、Googleスプレッドシートなどを活用して、必要なデータを統合し、リアルタイムで共有できる環境を整えることが重要です。
取引履歴を分析する
データの収集・整理が完了したら、さっそく分析を行いましょう。休眠顧客を特定するための最も基本的な方法は、取引履歴を分析し、一定期間取引のない顧客を洗い出すことです。最終取引日や契約の更新状況、購買金額・取引頻度の変化を基準に分析を行うことで、顧客の状態を可視化し、適切な掘り起こし施策を設計できます。
最終取引日を基準に分類する
顧客が最後に取引を行った日を基準に、休眠度合いを分類します。取引が途絶えている期間が長いほど、再取引の難易度が高まるため、期間ごとに適切なアプローチを検討しましょう。
取引の途絶えた期間 | 休眠の状態 | 対応のポイント |
6ヶ月未購入 | 休眠予備軍 | 購買意欲が残っている可能性が高いため、興味を創起させるシンプルなメールなどで迅速にアプローチを実施する |
1年以上未購入 | 休眠顧客 | 掘り起こし施策の対象として、再購入を促す施策を検討する |
2年以上未購入 | 休眠だが優先度が低い | 取引が途絶えた期間が長いため再取引はハードルが高い。優先度を下げてアプローチする。特定の業種や事業環境の変化を考慮して対応。 |
契約更新状況を確認する
BtoBのITサービス業やSaaS型のビジネスモデルでは、契約更新状況は特に押さえておくべき重要な指標となります。定期契約やライセンス契約がある場合、未更新の顧客は休眠のリスクが高いと判断できます。
チェックポイント
- 定期契約の更新履歴を確認し、未更新の顧客を抽出
- 自動更新の停止や契約のグレードダウンがあった顧客をリスト化
- 契約終了前後の購買行動を分析し、事前のフォローが可能だったかを検討
具体例
- 年間ライセンス契約の顧客が更新を見送った場合 → 1ヶ月以内にヒアリングを行い、契約終了の理由を把握
- 更新前に購買頻度が減少していた場合 → 休眠顧客となる可能性が高いため、フォロー施策を強化
購買金額・取引頻度の変化を分析する
単純に取引が途絶えたかどうかだけでなく、購買金額や取引頻度の変化も重要な指標になります。長期的に取引が続いている顧客でも、購買量が減少している場合、将来的に休眠化するリスクがあるため、早めの対策が求められます。
分析ポイント
- 過去数年間の購買履歴を比較し、減少傾向にある顧客を抽出
- 取引頻度が減少しているが、完全には取引が途絶えていない顧客を優先的にアプローチ
- 特定の製品カテゴリの購入が減少している場合、新製品や代替品の提案を検討
具体例
- POSシステムのソフトウェアを年間契約していた顧客が、昨年の更新時にライセンス数を減らしていた場合 → 休眠予備軍として注視し、フォローの優先度を高める
- これまで毎月消耗品を発注していた顧客が、発注頻度を2ヶ月に1回に変更していた場合 → 購買意欲の低下を示唆し、利用状況の確認を行う
行動履歴を分析する
取引が途絶えていても、休眠顧客が自社の製品やサービスに関心を持ち続けている可能性があります。そのため、Webサイトの閲覧履歴やメール開封状況などの行動履歴を分析することで、休眠顧客の中でも、どれを優先とすべきかを特定できます。特に、製品の最新情報をチェックしている顧客や価格比較を行っている顧客は、適切なフォローアップを行うことで、再取引につなげられる可能性が高まります。
行動履歴を分析するポイント
行動データ | 示唆される関心度 |
新機能に関するメールを開封 | 最新機能に興味がある可能性 |
価格ページを複数回閲覧 | 費用を比較検討中 |
ホワイトペーパーをダウンロード | システム導入を検討中 |
カスタマーサポートページの訪問 | サポートやトラブル対応に不満を抱えている可能性 |
取引が途絶えていても、直近で顧客がメールを開封している場合やウェブサイトを訪問している場合は、取引を再開させられる可能性があります。行動履歴を詳細に分析し、どの層にアプローチすべきか把握しましょう。
商談履歴を分析する
商談履歴を確認することで、過去の商談の経緯やなぜ取引をやめたのか、顧客とのやりとりを詳細に把握できます。特に、最終商談時の状況を分析することで、顧客が休眠になった背景をしっかりと理解でき「顧客の状況に応じた適切な提案」ができるようになります。
最終商談の状況を確認する
取引が途絶えた顧客の過去の商談履歴を確認し、どのような理由で休眠になったのかを分析します。以下のポイントを確認しましょう。
- 最後の商談日:最後の商談でどのような反応があったか
- 商談の見送り理由:価格、機能、競合比較など、導入を見送った理由
- 問い合わせ履歴:製品に関する問い合わせがどの段階で止まったのか
営業チームと連携する
商談履歴の分析では、データを参照するだけではなく、実際に顧客対応を行った営業担当者と連携し、具体的な情報をヒアリングすることも重要です。特に、顧客が抱えていた課題、導入の背景などの情報を営業から共有を受けることで、より顧客の状況や背景を理解しやすくなり、適切な施策やアプローチ方法を決めることができます。
商談履歴を確認することで、過去の商談の経緯やなぜ取引をやめたのか、顧客とのやりとりを詳細に把握できます。顧客が休眠になった背景をしっかりと理解することで、単なるフォローではなく「顧客の状況に応じた適切な提案」ができるようになります。
企業属性を考慮する
業種や企業規模によって、購買サイクルや取引の傾向は異なります。休眠顧客を特定する際には、単純に取引が途絶えているかどうかだけでなく、企業属性も考慮することが重要です。以下にそれぞれの企業属性に合わせた判断基準を示します。
大手企業の場合
- 取引金額が大きく、再取引の影響が大きい
→ 1件の取引で大きな収益につながるため、取引が途絶えていても積極的にフォローを行う価値があると判断できる。 - 購買意思決定プロセスが長いため、フォローのタイミングが重要
→ 取引停止後すぐのフォローではなく、一定期間を経てアプローチを再開し、継続的な接触を図り、意思決定のタイミングを見極めると顧客からネガティブな印象をもたれにくい。
中小企業の場合
- 短期間での取引再開の可能性が高い
→ 大手企業に比べ、意思決定のスピードが速く、適切なタイミングでのアプローチが有効になる。 - 価格やコストパフォーマンスが重要な要素となる
→ 費用対効果をしっかりと提示した提案や導入支援サポートなどを提案し、価格面、支援面での魅力を打ち出すことが重要になる。
業種ごとの取引傾向を考慮する
業種によって、取引の頻度や契約更新のタイミングは異なります。そのため、業種ごとの取引傾向を考慮することが重要です。
- 小売業:シーズンごとの発注傾向をチェック
→ 例:クリスマス商戦など、特定のシーズンに需要が集中する業種では、前年の発注状況を参考に、適切なタイミングでフォローアップを行う。 - 製造業:長期契約が一般的
→ 例:設備投資や原材料の調達は長期契約が前提となるため、2年以上の取引途絶を基準にフォローを検討する - ITサービス業: サブスクリプション契約やライセンス更新の確認
→ 例:1年以上契約更新がない顧客に対して、新機能の紹介や無料トライアルの提案を実施。
特定した休眠顧客を分類して、優先度をつける
休眠顧客を特定した後は、それぞれの顧客の状況を分析し、取引再開の可能性が高い順に優先順位をつけることが重要です。以下のような基準をもとに、休眠顧客を「優先度の高い顧客」「優先度の低い顧客」に分類しましょう。
優先度の高い顧客(アプローチを優先すべき顧客)
以下のような顧客は、取引再開の可能性が高く、積極的なアプローチが効果的です。
- 過去の取引規模が大きく、定期的に購入履歴がある
→ 取引が途絶えていても、再契約や追加購入の可能性が高い。 - 最近の行動履歴で関心を示している
→ メールの開封・Webサイトの閲覧・ホワイトペーパーのダウンロードなど、現在も興味を持っている兆候がある。 - 直近の商談でポジティブな反応を示していた
→ 「来期予算が確保できたら検討する」「競合との比較検討を続けている」といった前向きな理由で見送りになったケース。 - 業界や企業規模的に、一定の頻度で取引が発生する可能性がある
→ 小売業や飲食業では、定期的にPOSシステムの追加導入やアップグレードの需要が発生する。
優先度の高い顧客には、顧客の状況に合わせて個別に提案をカスタマイズし、提案し、継続的に接触を行うことが、取引の再開に向けて重要となります。
優先度の低い顧客(対応を後回しにする顧客)
以下のような顧客は、再取引の可能性が低いため、積極的なアプローチよりも、中長期的な関係維持を重視した対応が必要です。
- 競合製品に完全移行済み
→ すでに別の製品に移行し、切り替えの可能性が低い顧客。 - 長期間の未取引で、行動履歴の変化も見られない
→ 1年以上取引がなく、メール開封やWeb閲覧もなく、完全に関心が薄れている顧客。 - 価格要因で離れたが、現時点で打開策がない
→ 競合よりも価格が高いため取引を終了し、現在も価格面の打開策がない場合。 - 業種・企業規模的に、再取引の機会が少ない
→ 製造業の大型設備案件など、一度導入すると5年以上更新の必要がない商材の場合。
優先度の低い顧客には、定期的な情報提供を行い、長期的な視点で関係を維持することを目的とします。
このように、顧客の特性を見極めながら優先順位をつけることで、リソースを最適に配分し、より効率的に休眠顧客の掘り起こし施策を展開することができます。
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