データを基にした仮説構築の重要性
データに基づいた仮説構築は、営業活動の改善や戦略立案において欠かせないプロセスです。
データを活用することで、感覚的な判断に頼らず、客観的で信頼性の高い意思決定が可能になります。営業のパフォーマンスや顧客の反応を数値化することで、課題となるボトルネックを明確にし、効率的な対策を講じることができます。
例えば、成約率や訪問数などの営業KPIを分析することで、どの営業担当者が成果を上げているか、どの顧客セグメントに問題があるかを迅速に特定できます。こうしてデータを根拠にした仮説は、次のアクションがどのような成果をもたらすかを予測し、効果的な施策を支える基盤となります。その結果、施策の無駄を省き、確実な改善が可能となります。
このレッスンの仮想企業
今回のレッスンでは、仮説の立て方と施策の具体的な展開方法を理解するため、前提として以下の仮想企業を例に進めていきます。
- 業種: BtoB向けの人事管理ソフトウェアを販売する企業
- 営業部門: 20名
- 主な顧客: 小売業、製造業、物流業
- 課題: 新規顧客の成約率が低下しており、特に物流業のターゲットで成約率が低い状況
この仮想企業をベースに、データを活用した仮説立案と施策の展開方法を具体的に説明していきます。
仮説を立てるためのプロセス
仮説立案のプロセスは、データを基にして現状の課題を明確化し、そこから仮説を構築して検証する流れで進めます。以下のステップに沿って、段階的に仮説を立案していきます。
データの収集と課題の明確化
仮説の立案
優先順位を決める
1.データの収集と課題の明確化
仮説立案の第一歩は、データを分析して現状の課題を明確にすることです。
営業活動に関するデータを収集し、各営業担当者のパフォーマンスを詳細に評価して、どの部分に改善が必要かを特定します。
例えば、以下のように営業担当者別のパフォーマンスデータを分析します。
営業担当者 | 月間訪問数 | 成約率 | LTV | 経験年数 | 成約件数 |
A(ベテラン) | 40件 | 25% | 3,000万円 | 10年 | 10件 |
B(中堅) | 30件 | 20% | 2,500万円 | 5年 | 6件 |
C(新人) | 20件 | 15% | 1,500万円 | 1年 | 3件 |
このデータから、新人Cの訪問数が少なく、成約率も低いことが課題であることが分かります。
課題の掘り下げ
各営業担当者がターゲットとしている業種に違いがあり、成約率やLTVに影響を与えている可能性について考えます。セグメントごとの記述統計や相関分析を実施し、各営業担当者のターゲット市場別のパフォーマンスをさらに深掘りします。
営業担当者 | 顧客ターゲット(業種) | 成約率 | LTV |
A(ベテラン) | 製造業 | 25% | 3,000万円 |
B(中堅) | 小売業 | 20% | 2,500万円 |
C(新人) | 物流業 | 15% | 1,500万円 |
相関分析の結果、次のような課題が浮かび上がりました。
- 新人Cの訪問数が少なく、物流業での成約率とLTVが他の業種に比べて低い。
- ベテランAの成功要因を他の営業担当者と共有すれば、チーム全体の成約率を引き上げる余地がある。
- 物流業をターゲットとすることが効果的でない可能性があり、ターゲット市場の見直しが必要そう。
2. 仮説の立案
課題が明確になったら、それを基に仮説を立てます。SMARTの法則(Specific, Measurable, Achievable, Relevant, Time-bound)を活用し、具体的で測定可能な仮説を立案することで、施策の効果を正確に予測しやすくなります。
仮説例1
「新人Cの訪問数を30件に増やし、物流業以外のターゲット市場にシフトする。3カ月で完了させる。その3カ月後に成約率を15%から20%に引き上げることができる」
課題:
新人Cは訪問数が少なく、成約率も低い状態が続いています。また、物流業をターゲットにしていますが、成約率とLTVが他の業種に比べて低いことがデータ分析の結果として明確になりました。このため、Cのターゲット市場の見直しと訪問数の増加が必要となっています。
仮説のポイント:
Specific(具体的) | 新人Cの訪問数を30件に増やし、ターゲットを物流業から小売業や製造業に変更する |
Measurable(測定可能) | 訪問数の増加によって、成約率が現在の15%から20%に向上するかをKPIで測定する。訪問数と成約率の変化を具体的な数値で評価する。 |
Achievable(達成可能) | 小売業や製造業へのアプローチは、新人Cが既に知識やリソースを持っており、適切なトレーニングやツールの支援で実行可能。達成の見込みが高い。 |
Relevant(関連性) | 訪問数の増加とターゲット市場のシフトは、成約率向上に直結する。 |
Time-bound(期限) | 次の3カ月以内に、月間30件の訪問数達成とターゲット変更を完了させ、その3カ月後に成約率20%を達成する。 |
仮説例 2
「ベテランAの営業手法と成功事例・失敗事例計20件を1カ月以内に他の営業担当者に共有し、全体の成約率をその後3カ月で15%から20%に引き上げることができる」
課題:
ベテラン営業担当者Aが製造業を中心に高い成約率を誇っていることが確認されました。一方、他の営業担当者は成約率が低く、パフォーマンスにばらつきが見られます。このため、Aの営業ノウハウを他の担当者に共有し、全体の成約率を底上げする必要があります。
仮説のポイント:
Specific(具体的) | Aの営業手法と成功事例・失敗事例計20件を全営業担当者に共有する。 |
Measurable(測定可能) | Aの営業手法と成功事例・失敗事例計20件の共有を把握する。成約率が全体で15%から20%に向上するかどうか、KPIで測定する。各営業担当者の成約率をデータで追跡し、改善 |
Achievable(達成可能) | Aの営業手法は既に実績があり、他のメンバーにも適用可能。Aの指導を受けることで、他の担当者も同様の成功を達成できる。 |
Relevant(関連性) | Aの営業手法を全チームで活用することは、営業全体のパフォーマンス改善に直結し、売上目標の達成に貢献する。 |
Time-bound(期限) | 次の1カ月以内に、ノウハウ共有とトレーニングを実施し、その後3カ月以内に成約率20%を達成しているか効果を測定する。 |
仮説を基にした成果予測
仮説に基づいて具体的な施策を展開し、その結果を予測します。
訪問数増加の予測効果:
新人Cの訪問数を30件に増やし、成約数を3件から5件に増加させ、売上を拡大。
ナレッジ共有の効果:
全体の成約率が15%から20%に向上すれば、年間売上は最大で20%増加する可能性。
3. 優先順位を決定
複数の仮説や施策が立案された場合、どれを優先して実行するかを決定する必要があります。仮説ごとにインパクト(施策がビジネスに与える影響)や実行可能性、ROI(投資収益率)などを評価し、優先順位を設定します。
仮説 | インパクト | 実行可能性 | ROI | 優先順位 |
仮説1: 訪問数を増やす | 高 | 中 | 高 | 1位 |
仮説2: ナレッジ共有 | 中 | 高 | 中 | 2位 |
仮説3: ターゲット変更 | 中 | 低 | 中 | 3位 |
この評価に基づき、即効性があり直接的な売上向上が見込まれる「訪問数の増加」を最優先とし、続いて実行が容易な「ナレッジ共有」の施策を実行します。一方、ターゲット変更は効果が見込まれるものの、実行に時間がかかるため、優先度は低めに設定されています。
仮説を具体的な施策に転換
仮説を立てた後は、その仮説を実際の施策へと展開する段階に進みます。ここで重要なのは、仮説に基づいた具体的な行動計画を策定し、実行可能なアクションを詳細に定義することです。明確な計画と役割分担、進捗管理を行いながら、仮説を現実の成果へとつなげていくプロセスが必要です。
ここでは、データに基づいて立てた仮説を具体的な施策に変える具体的な手順を以下のステップに沿って詳しく見ていきます。
仮説分解と行動計画への落とし込み
KPIの設定
リソースの確保と役割分担
フォローアップとモニタリングの計画
PDCAサイクルで改善
1. 仮説分解と行動計画への落とし込み
最初のステップは、仮説を小さなアクションに分解し、具体的な行動計画に落とし込むことです。営業の成約率向上を目指す場合、仮説を単なるアイデアに留めず、実行可能なタスクにまで分解することで、実際に成果に結びつけることが可能になります。
仮説の例:
「新人Cの訪問数を30件に増やし、物流業以外のターゲット市場にシフトする。3カ月で完了させる。その3カ月後に成約率を15%から20%に引き上げることができる」行動計画への分解:
訪問数の増加:
新人Cの訪問目標を月20件から30件に設定し、訪問スケジュールを作成。毎週の訪問数を確認し、月間の進捗を管理する。これにより、訪問数の確保とターゲットへの接触機会の増加が見込める。トレーニング:
小売業のニーズや課題に関する営業トレーニングを新人Cに提供し、提案スキルや知識の強化を図る。これにより、よりターゲットに適した提案が行える。ターゲット変更:
物流業から小売業へのターゲット変更を実施。具体的には、営業リストを作成し、既存の小売業のリードに対してアプローチを開始する。例えば、既存のデータベースから小売業界の企業を抽出し、アプローチリストを新たに作成する。
仮説をこのように分解することで、進捗を管理しやすくし、施策が具体的な成果に結びつきます。
2. KPIの設定
仮説を施策に変える際には、各施策の成果を評価するために、具体的なKPI(重要業績評価指標)を設定することが重要です。KPIは、施策が実際にどれだけの成果を上げているかを定量的に把握し、進捗をモニタリングするための基準となります。適切なKPIを設定することで、プロセスの進捗状況をリアルタイムで監視し、必要に応じて改善策を講じることが可能になります。
以下は、仮説に基づいた具体的なKPI設定の例です。
KPI項目 | 現状値 | 目標値 | 改善目標 |
訪問数(新人C) | 20件 | 30件 | 月間訪問数を1.5倍に増やす |
成約率(小売業ターゲット) | 15% | 20% | 小売業の成約率を5%向上 |
提案成功率(新人C、トレーニング後) | 10% | 20% | トレーニング後、提案成功率を10%向上 |
これらのKPIは、施策の各段階でどの程度の成果が得られているかを数値で把握しやすくなり、進捗のモニタリングが可能です。
こうすることで、具体的な進捗や施策の効果を定量的に評価できるため、次の改善策を迅速に講じるための重要な指針となります。
3. リソースの確保と役割分担
施策を成功させるためには、リソースの確保と役割分担が非常に重要です。リソースとは、施策を実行するために必要な要素であり、具体的には時間、人材、ツール、予算を指します。これらが適切に確保されないと、施策が途中で停滞したり、効果が出なかったりするリスクがあります。
実際に具体例を挙げてみていきましょう。
リソースの具体例
時間
新人Cが訪問数を増やす施策を進めるためには、Cさんが営業活動に集中できる時間の確保が必要です。新人Cの日常スケジュールを見直し、訪問活動に充てる時間を増やす計画が必要です。また、業務の優先順位を見直し、フォローアップやリードアプローチに時間を割り当てる必要があります。
- 例: 1日3時間を新規訪問やフォローアップに充て、月間の訪問数目標30件を達成するスケジュールを組む。
ツール
CRM(顧客関係管理)ツールを活用し、営業プロセスを効率化するツールを準備します。CRMは、リード管理、フォローアップのスケジュール、営業活動の記録などができるので、営業担当者がリアルタイムで進捗を把握し、必要なフォローアップを迅速に行うことができます。
- 例: CRMで自動リマインダー機能を使い、フォローアップが遅れないようにスケジュール管理を強化する。
人材
新人Cの営業スキル向上には、トレーニング担当者の支援が不可欠です。具体的には、小売業に特化した営業スキルや顧客ニーズの理解を深めるためのトレーニングが必要です。あらかじめトレーニング担当者を決め、営業ノウハウの共有や新人指導を行い、施策が順調に進むようサポートします。
- 例: トレーニング担当者が週に1回、商品説明や提案力向上のためのスキルトレーニングを行い、新人Cの提案成功率を高める。
予算
訪問数を増やすために、交通費や営業資料の作成費用など、実際の活動に伴うコストも重要なリソースです。予算を適切に確保し、営業活動が滞らないようにする必要があります。
- 例: 交通費や営業活動にかかる費用を、予算計画に組み込み、新規顧客開拓のための費用を確保。
また、施策を円滑に進めるために、誰がどの施策を担当するのか、具体的な役割分担を明確にしておくといいでしょう。
4. フォローアップとモニタリングの計画
施策を実行するだけではなく、その進捗をモニタリングし、都度フォローアップを行うことが重要です。KPIに基づいて、定期的に結果を確認し、問題が発生した場合には早期に対応します。
フォローアップの例:
- 進捗会議: 毎週、新人Cの訪問数や成約率の進捗状況を確認するミーティングを開催する。
- モニタリングツール: CRMツールを利用して、訪問履歴や成約状況をリアルタイムで追跡する。
- 定期レポート: 1カ月ごとに、訪問数や成約率のデータを集計し、KPI達成度を報告する。
月 | 訪問数 | 成約率(%) | 提案成功率(%) | 目標達成度 |
1月 | 20件 | 15% | 10% | 60% |
2月 | 25件 | 18% | 15% | 80% |
3月 | 30件 | 20% | 20% | 100% |
このような表に記録しておくことで、各施策が進んでいるかどうか、また目標をどの程度達成しているかを月次で確認できます。これにより、計画が順調に進んでいるのか、あるいは途中で改善が必要かどうかを判断する材料となります。
5. PDCAサイクルで改善
仮説を施策に変えた後も、その効果を持続的に向上させるために、PDCAサイクル(Plan, Do, Check, Act)を活用して改善を繰り返します。PDCAサイクルに基づいて、施策を実行(Do)した後、その結果を評価(Check)し、必要に応じて改善策を実行(Act)します。
PDCAサイクルの例:
Plan: 新人Cの訪問数を増やし、ターゲット変更によって成約率を向上させる計画を策定する。
Do: 訪問数の増加とターゲット変更を実行する。
Check: 訪問数や成約率を評価し、KPIの達成度を確認する。
Act: 訪問数が増えたが成約率が伸びなかった場合、提案の内容を見直し、トレーニングを追加するなどの改善策を講じる。
このサイクルを繰り返すことで、施策の効果を最大化し、営業活動の持続的な改善を目指します。データ分析を基にした仮説の立案から具体的な施策への展開方法を学びました。データに基づく洞察から仮説を構築し、その仮説を小さな実行可能なアクションに分解し、KPIを設定して進捗を管理することが、成功の鍵となります。
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