チームの立ち上げプロセス
カスタマーサクセス(CS)チームの立ち上げプロセスは、以下7つのステップに沿って進め、顧客の成功を支援する強力な体制を整えます。
- 目的と戦略の明確化
- 役割と業務内容の定義
- チーム構成の検討と採用
- プロセスの標準化
- メンバー育成
- 目標設定と評価
- 内部連携とコミュニケーションの強化
ここでは各プロセスで実施する内容について説明します。
目的と戦略の明確化
CSチームの立ち上げにおいて、最初に取り組むべきは目的と戦略の明確化です。売上を上げるCSチームの目的はクロスセル・アップセルによる収益増加がメインミッションとなりますので、アップセル・クロスセルを行うべき顧客ターゲットと適したアプローチを戦略化します。
ターゲットの絞り込み
前回のレッスンで挙げたソフトウェア会社を例とした場合、売上向上のためにCSチームがターゲットとすべき顧客想定は、以下3つが挙げられます。
①利用頻度が高い顧客
②契約更新が近付いている顧客
③特定の機能しか使っていない顧客
①利用頻度が高い顧客をターゲットにする理由は、既にソフトウェアに満足している顧客に対して、追加の価値を提案することで、売上の増加が見込める可能性が高いためです。②契約更新が近づいている顧客に関しては、ソフトウェア更新時に新機能や上位プランの提案をすることで、より高い価値を提供し、アップグレードを促すチャンスとなるためです。③特定の機能しか使っていない顧客は、ソフトウェアの一部機能しか利用していない顧客に対して、他の機能やサービスを提案することで、クロスセルが狙える可能性があるからです。
次に、これらのターゲットを具体的にどのように絞るのかを定義します。①②③の絞り込む方法は以下が想定できます。
①利用頻度が高い顧客
顧客が製品を頻繁に利用しているかどうかを確認するために、CRM(顧客関係管理)/SFA(営業支援)ツールやソフトウェアツールのログ(活用履歴)を分析。特定のアクション(ログイン回数、機能の利用回数、実施プロジェクト数など)を定量的に測定し、利用頻度の高い顧客を確認
②契約更新が近づいている顧客
CRM/SFAや契約管理システムで契約の更新時期を確認し、ソフトウェア更新時期が3〜6カ月以内に迫っている顧客を抽出
③特定の機能しか使っていない顧客
機能の利用データを分析し、ソフトウェア内でどの機能がどの顧客によって利用されているかを確認。複数の機能を持つソフトウェアの場合、特定の機能にしか依存していない顧客を特定
アプローチ方法の具体化
上記のようにターゲットを定めた後は、これらに対しどのようにアプローチをしていくかを具体化します。①②③に対するアプローチ例は以下が考えられます。
①利用頻度が高い顧客
既に使用している機能を補完する新機能やサポートサービスを紹介し、顧客がソフトウェアを最大限に活用できるよう促進。トライアル期間や割引などの提供
②契約更新が近づいている顧客
顧客が抱える課題を解決できる新機能や追加サービスの利用を提案し、更新時の価値を最大化。定期的なフォローアップや更新特典を提供し、スムーズな更新を促進
③特定の機能しか使っていない顧客
ソフトウェア利用状況のレポートを提供、追加機能の活用により顧客の業務効率をどのように向上させるかを示す。例えば、月次レポートに「○○機能の利用で、さらに20%の効率向上が期待できる」などの具体的なデータを挿入
このように、ターゲット、アプローチは具体的に設計します。またターゲットによってアプローチが異なるため、それぞれの顧客セグメントごとに戦略を立てます。
ここで「誰に対し何を行うか」の明確な方向性が、チーム全体の活動を統一し、効果的なサポート体制を構築する基盤となります。
役割と業務内容の定義
次にチームの役割を明確にします。売上を上げることを目的としたCSチームのミッションは、顧客の成功を通じて企業の収益向上を目指すことにあります。
ソフトウェア会社を例に挙げると、以下のような具体的な役割が想定されます。
顧客オンボーディング
役割:
新規顧客がソフトウェアを最大限に活用できるようにサポートし、早期の価値提供を実現主な業務想定:
- 初期設定の支援やトレーニングの提供を行い、顧客がスムーズに製品を使い始められるようにする。
- 技術サポートを強化し、顧客がソフトウェアの使用中に生じる疑問や課題を迅速に解決する。
- 顧客がサービスのメリットを早期に実感できるよう、適切なフォローアップを実施し、解約リスクを低減する。
クロスセル・アップセルの促進
役割:
既存顧客に対して追加の価値を提供し、売上を増加させるためにクロスセル・アップセルを促進主な業務想定:
- 顧客の利用状況を分析し、顧客のニーズや課題に応じた追加機能やサービスを提案する。
- 基本機能のみを利用している顧客に対し、より高度なツールやサービスを紹介し、アップセルの機会を創出する。
リテンション率の向上
役割:
顧客が契約を継続するよう促し、リテンション率を向上させることで安定的な売上を確保主な業務想定:
- 定期的に顧客へ価値提供を行い、ソフトウェアの効果を実感してもらうようサポートを継続する。
- 契約更新が近づいている顧客に対しては、利用中の成果を振り返り、アップグレードのメリットを訴求する。
顧客の成功事例を活用
役割:
成功した顧客の事例を活用し、他の顧客や新規顧客に対してもソフトウェアの価値を伝え、売上向上を支援主な業務想定:
- 成功した顧客の事例を集め他の顧客に紹介し、信頼性を高める。
- 営業チームと連携し、成功事例を使ってクロスセル・アップセルの機会を広げ、販売促進活動に役立てる。
顧客フィードバックの反映
役割:
顧客からのフィードバックを基に、製品やサービスの改善を図り、顧客満足度とリテンション率を向上させる主な業務想定:
- 顧客からのフィードバックを定期的に収集し、プロダクト開発チームやマーケティング部門に伝え、改善のためのアイデアを提供する。
チーム構成の検討と採用
チームの規模を、企業の規模や顧客数、提供するサービスに応じて決定します。大規模な企業や多様な製品ラインを持つ企業では、多くのCSメンバーが必要となるでしょう。また、顧客数が多い場合や顧客ごとに個別の対応が必要な場合も、チームの規模を大きくすることが求められます。
しかし立ち上げ初期は、チーム全体の柔軟性を保ち、各メンバーが複数の役割を兼任することで、リソースを効率的に活用できるため少人数でスタートするのが望ましいです。企業が成長し、顧客数が増加したり、新しい製品やサービスを展開したりする場合には、CSチームもそれに応じて拡大していきます。
CSチームの採用活動では、必要なスキルセットを持ったメンバーを慎重に選定します。CSチームに求められる主なスキルセットは以下の6つといえます。
- 顧客対応力
- データ分析力
- 問題解決能力
- 製品知識
- クロスセル・アップセル戦略の理解
- プレゼンテーション力
これらのスキルセットの詳細は後半で解説します。
適切な採用を行うことで、CSチームのパフォーマンスが向上し、顧客に対する優れたサービスを提供できる体制が整いますので、採用プロセスを設計し計画的に行うようにしましょう。
プロセスの標準化
CSチームが一貫して高品質なサポートを提供し売上を最大化するためにも、メンバーそれぞれが属人的なタイミングで勝手な判断で顧客に対しアプローチを行うのではなく、業務を統一するための「業務プロセスの標準化」が大事です。顧客からの質問に対する回答のサポートフロー、フォローアップのタイミング、クロスセル・アップセルの提案時のフォーマット、提案時のスクリプトなどをドキュメント化し、できる限り全員が同じ手順で対応できるようにします。その結果、どのメンバーが対応しても高いレベルのCS対応ができるようになり、顧客体験が上がり、売上への反映が期待できます。
例えば、ソフトウェア会社を例にした場合、業務を遂行する上でプロセスを標準化すべき内容は以下が想定されます。
オンボーディングプロセス(新規顧客のオンボーディングプロセスを統一)
製品設定サポート、トレーニングのスケジューリング、初期フォローアップなどの各ステップなどをテンプレート化サポート対応フロー(顧客からの問い合わせや問題発生時の対応フローを標準化)
問い合わせが発生した場合の初期対応、エスカレーションの手順、解決後のフォローアップまでをドキュメント化クロスセル・アップセルの提案プロセス(クロスセル・アップセルを行うタイミングと方法を明確化)
顧客の利用データを基に、定期的な利用状況分析を行い、利用が一定基準を超えた顧客に対しては、自動的にアップセルやクロスセルの提案を行うといったプロセスを整備
メンバー育成
CSチームの売上向上のパフォーマンスを最大化するためには、メンバー育成が重要です。初期のトレーニング時は、自社のサービスや商品の知識、顧客対応スキル、問題解決能力、クロスセル・アップセルスキル強化を目指し、継続的にトレーニングを行います。
まず第一に必要なのは自社製品の知識底上げです。自社製品の機能や利点を十分に理解することで顧客に正確かつ効果的に説明できるようになります。定期的なトレーニングや社内ワークショップを開催し、製品の新機能やアップデートに関する知識を強化します。
次に、適切なタイミングと方法でクロスセル・アップセルを行うスキル育成を行います。データ分析を基にした提案方法、顧客のニーズに基づく個別の提案技術を習得させ、売上の機会を最大限に活かす方法を学びます。
これらのスキルが向上した後に、応用スキルとして業界のトレンドや成功事例を学び、チーム全体のスキルセットを強化していきます。メンバー育成時にはメンバー個々のモチベーションを維持することも重要です。メンバーそれぞれのキャリアパスをヒアリングし、それらに応じた成長機会を提供することで、モチベーションを維持し、チーム全体のパフォーマンス向上につなげます。
このように、メンバーのスキルを全方位で向上させることで、顧客満足度を高めながら、売上拡大を実現するCSチームの育成を行います。
目標設定と評価
CSチームの活動が目標に一致しているかを確認するためには、明確な目標設定とその達成度を評価する「仕組み」が必要です。まずKPI(Key Performance Indicators; 重要業績評価指標)を定めます。売上を向上させるCSチームの場合、第一KPIは売上に紐づく「アップセル率」「クロスセル率」となります。「アップセル率」や「クロスセル率」は売上向上の直接的な指標ですが、それだけでは顧客が長期的に満足し、サービスを継続して利用するかどうかは測れません。顧客満足度、リテンション率、NPS(ネットプロモータースコア)などの顧客体験に関連する指標も確認し、顧客がサービスにどれだけ満足し、今後も継続的に利用するかを評価する必要があります。以下にCSチームの主なKPI5つを挙げます。
- リテンション率: 顧客が製品やサービスを継続利用する割合
- NPS(ネットプロモータースコア): 顧客が他者に製品を推薦する可能性を測定
- クロスセル率: 既存顧客への関連商品やサービスの追加販売成功率
- アップセル率: 既存顧客への上位商品やサービスの販売成功率
- 顧客満足度: 顧客が受けたサービスに対する満足度の評価
これら全ての指標を追跡することで、長期的にサービスを利用し続けるかどうかを評価でき、持続的な売上向上のための戦略を調整することができるようになります。
内部連携とコミュニケーションの強化
CSチームが効果的に機能するためにも、営業部門や製品開発部門、マーケティング部門とは密接に連携を取る必要があります。
特に、CSチームに渡される前の営業部門とは密な情報連携が重要です。営業時の提案内容と、契約後にCSが会話する内容がかけ離れていると、顧客の信頼を損ないかねないからです。顧客との関係構築を基にした対話で売上向上を目指すためにも、顧客の期待値を正しく把握し、一貫したサポートを提供することが大事です。
会話に乖離が起きないようにするため、具体的には以下の対応を行うと良いでしょう。
- CRM/SFAツールを活用し、営業とCSがリアルタイムで顧客の商談履歴、提案内容、契約時のポイントを共有できるようにし、CSが商談内容に基づいた顧客対応を行えるようにする
- 営業からCSへの引き継ぎミーティングを実施し、営業部門が使用した提案書や契約書をCSチームに共有。どの機能やサービスが強調され、どの課題が優先的に解決される予定なのかを明確にする
このように両部門が情報を正しく連携することで、顧客への一貫した提案が可能になり、高い売上成果を得られることが期待できます。
立ち上げ時期の管理体制強化の重要性
CSチームの立ち上げ時期は特に、物事が定義されていない状態のため担当者が個々に動き、チーム全体の働きが分断されやすくなります。各メンバーが自身の役割を理解し、チーム全体が一貫性を持って効率的に顧客対応を行えるようにするためにも体制の整備を早々に行うことが重要です。
CSチームの効率的な活動のため、リーダーを決め、各役割を決めて管理体制を敷きましょう。各メンバーが目標に向かい一致団結して行動できるようにするためにも立ち上げ早々に管理体制を整えることが重要です。
チームの体制は、チーム構成や企業規模によって異なりますが、CSチームに必要な役割は以下と捉えると良いでしょう。
チームリーダー/CSマネージャー
役割: チーム全体の戦略策定、目標設定、進捗管理、メンバーのサポートやコーチングアカウントマネージャー
役割: 既存顧客との関係維持、クロスセル・アップセル、契約更新のサポートカスタマーサクセス担当者
役割: 新規顧客の導入プロセス、トレーニング提供、初期設定のサポート、顧客対応、アップセル・クロスセル、顧客フィードバックの収集データアナリスト
役割: 顧客利用データの分析、行動パターンの把握、戦略的な意思決定のサポート
チーム立ち上げ初期でメンバーが2〜3人の少人数体制の場合は、上記役割を全て担う必要はなく、「データアナリスト」の役割を割愛するのが現実的です。
初期段階では、データ分析を専門的に行うリソースが限られている可能性が高いため、基本的なデータ分析はチームリーダーやアカウントマネージャーが兼任して対応します。また、「プロダクトスペシャリスト」も技術的なサポートが大きな課題でない限り、他のメンバーが製品知識を習得しつつ対応することが可能です。一部の役割を他のメンバーが兼任し、柔軟に対応しながら少人数でも効果的にチームを推進することも可能です。
トレーニングとチーム育成
市場競争がますます激化し、顧客の期待や業界のトレンドも日々変化しています。顧客にとって多くの選択肢が存在する中で、顧客が満足し、継続的にサービスや商品を利用し、さらには追加で商品共有を検討してもらう行動を促進するには、CSチームのスキルアップが必須です。ここでは、学習すべき内容やCSチームに必要なスキルセットについて詳しく解説します。
継続的な学習
CSチームは、顧客対応の第一線に立つため、業界のトレンドや新しい顧客対応技術に常に精通している必要があります。そのためには、継続的に学習できる環境を整えるのがまず第一に必要です。
手法はさまざまです。定期的なトレーニングセッションやワークショップを開催、メンバーが最新の知識や技術を習得できるようにします。また、オンライン学習プラットフォームや業界セミナーへ参加し、個々のメンバーが自発的に学習を進められるようにします。
継続的な学習を通じて、メンバーは新たな課題にも柔軟に対応できるようになり、結果的に顧客に対する提供価値を高めることができます。
必要なスキルセット
顧客の成功を効果的にサポートし、企業の競争力を高めるためにも、さまざまなスキルを強化しましょう。必要なスキルセットは基礎的なスキルと売上に直結するスキルに分けられます。基礎的なスキルは以下の4つです。
顧客対応力
顧客のニーズや課題を迅速かつ適切に理解し、解決策を提供する能力です。顧客対応力は顧客満足度を高め、信頼関係を構築するための基盤であり、長期的なリテンションを促進します。
データ分析力
顧客の行動データや利用状況を分析し、顧客のニーズや課題を特定する能力です。このスキルにより、パーソナライズされた対応や改善策を提供し、顧客体験を向上させることができるようになります。
問題解決能力
顧客が直面する課題に対して、迅速かつ創造的に解決策を見つける能力です。柔軟な思考と実行力が求められ、予期しない問題にも対応できることが顧客の信頼を得る鍵となります。迅速な問題解決力があれば、顧客の不満を最小限に抑えることができるようになるでしょう。
製品知識
自社のサービスや商品について理解を深めることで、顧客がその価値を最大限に引き出せるようサポートできるようになります。また製品知識が豊富であれば、顧客に対して的確にアドバイスを提供でき、利用促進につながります。
売上を上げるCSチームの場合は上記4つのトレーニングに加えて、売上に直結するスキルや戦略を習得するための特別なトレーニングが必要です。
クロスセル・アップセル戦略の理解
顧客の利用状況やニーズを把握し、最適なタイミングと方法で追加の製品やサービスを提案する能力です。より具体的なスキルを挙げると、「顧客ニーズの洞察力」「タイミングの判断力」「提案力」が必要になるでしょう。
顧客ニーズの洞察力:
顧客の業務状況や課題を理解し、それを解決するための適切な追加機能やサービスを提案できる力。
タイミングの判断力:
クロスセルやアップセルの提案は、顧客の製品利用状況が成熟し、さらに価値を引き出したいと感じる、適切なタイミングで提案を行う力。
提案力:
顧客が持っている課題を解決する形で提案を行い、自然な流れで売上につなげる力。
プレゼンテーション力
顧客に対して自社の製品やサービスの価値を効果的に伝え、納得してもらうための能力です。具体的には、以下4つを重視します。
分かりやすい説明:
複雑な製品機能や技術を、顧客の理解レベルに合わせて簡潔に説明し、利点をわかりやすく伝える力。
ストーリーテリング:
提案を顧客のニーズに合わせたストーリーとして構築し、製品がどのように顧客の成功を支援するかを物語として伝える力。
プレゼンスライドやデモツールの活用:
プレゼンスライドやデモなどのツールを効果的に使い、複雑な内容を視覚的に理解しやすくする能力。
これらの基礎スキルと営業に直結するスキルがそろうことで、CSチームは品質の高い顧客対応が可能となり、顧客にさらなる価値を提供し、売上を増加させることにつながることが期待できます。
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