カスタマーサクセスのKPIとは
カスタマーサクセスチームの評価を正確に行う上でも、KPI設定が重要です。KPIは、業界やビジネスモデルによって異なりますが、大きく3つに分類されます。
1つ目は売上に関連する指標、2つ目は顧客の満足度や成功を測る指標、そして3つ目は顧客のリテンション(維持率)を評価する指標です。これらの指標の活用により、KPIに基づいた戦略と施策実行、そして改善といったPDCAサイクルでのチーム運営が可能となります。ここでは、前述した3つに分類される指標について説明します。
3つのKPI
3つの指標について説明します。
売上関連指標
売上関連指標は、企業収益に直接的に影響を与える重要な指標です。例えば、MRR(月間定期収益)、アップセル・クロスセル率、解約率、そして顧客ライフタイムバリュー(CLTV)などの企業の成長性に関わる指標が含まれます。これらの指標をモニタリングすることで、カスタマーサクセスが関与して得た収益の増減や、その増減がどの要素に起因して得られたのか、を把握することができます。
売上関連指標は、どの業界の企業においても重要ですが、特にサブスクリプションモデルを採用する企業においては重要性が増します。サブスクリプションモデルの事業は収益の安定が鍵となるため、成長に大きく関与するためです。MRRやアップセル、クロスセル率が高い場合、企業が安定的に成長していることをこれらのKPIから把握できます。
顧客成功指標
顧客成功指標とは、顧客がサービスにどれだけ満足しているか、サービスや商品を導入し、活用していることに顧客が「成功」を感じているかを測定する指標です。この指標には、ネットプロモータースコア(NPS®︎)などが含まれます。
顧客成功指標は、顧客がサービスや製品を十分に活用した段階から測定するのが理想的です。最初の段階では、顧客の評価が十分に固まっていないため、正確な指標を測ることは難しくなります。そのため、導入直後ではなく、一定期間利用した後に実施するのが効果的です。
リテンション指標
リテンション指標は、顧客がどれだけ長期間サービスを利用し続けるかを測る指標で、契約更新率や顧客ロイヤリティなどが含まれます。顧客がサービスから離れる兆候を早期に察知し、サービス離れが起きないようにする離脱防止の対策を取るためにも、定期的に測定しておきたいKPIです。リテンション指標を定期的に確認することで、顧客の動向を把握し、離脱の兆候がある場合には迅速に対応策を講じることができるようになります。
ビジネスモデルによるKPIの違い
KPIは、事業のビジネスモデルや収益構造によって重点が置かれる指標が異なります。例えば、製造業や小売業、金融業などの一般的な企業と、SaaS型プロダクトを提供するIT企業では、重視するKPIに違いがあります。
一般的な企業では、長期契約もあるものの単発取引での契約も含まれるため、一度の取引における収益を最大化することを目的とした戦略で事業推進する場合は、収益性や取引効率を高めるための指標が重要になります。
一方で、IT系企業でサブスクリプション型の収益モデルを採用している企業の場合は、SaaS企業は顧客が長期間にわたってサービスを利用し続けることがビジネスの成長に直結するため、継続的な収益と顧客維持に関連するKPIが重視されます。
次に、一般的な企業とIT関連企業別で重視すべき売上関連、顧客成功、リテンション指標の各KPIについてとそれぞれのKPIを見てどのように判断すべきか、例を見ていきましょう。
一般的な企業(製造業・小売業・金融業など)向けKPI
一般的な企業は、単発の取引や長期契約を通じて収益を上げることが多いため、以下のKPIに重点を置きます。
1. 売上関連指標
①平均客単価(Average Order Value):1回の取引で得られる収益
このKPIが仮に高ければ顧客が一度に多くの金額を支払っていることを意味し、アップセルやクロスセルが成功していることを示します。低い場合、関連商品を推奨するなど、客単価を上げるための施策が必要と判断できます。
②総売上成長率:一定期間ごとの全体の売上成長
成長率が高い場合、販売戦略が効果を上げていることを示し、またもし成長が停滞していれば、販売チャネルの見直しや新製品の導入などが必要であると判断します。
③取引数:取引の回数を基に、収益の規模や頻度
顧客が複数回の取引を行っている場合、カスタマーサクセスが効果的に機能し、顧客との良好な関係が維持されていると想定できます。取引数が増加していれば、チームの働きかけにより、顧客が再度サービスを利用したり、追加購入を行っていることがわかります。反対に取引数が減少していれば、これは顧客が満足していない、価値を感じていない可能性がありますので、チームは顧客へのフォローアップを強化したり、利用促進や新しい価値提案を行う必要があると分かります。
④利益率:収益に対するコスト比率を評価
カスタマーサクセスがアップセルやクロスセルを行うことで取引単価が増加し、利益率は向上します。利益率が低下している場合、顧客に対して効果的な提案ができていない可能性があり、値引き交渉やダウングレードが発生しやすくなるため対策が必要であると判断できます。
2. 顧客成功指標
①顧客リピート率:顧客が再び取引を行う割合
顧客リピート率が高い場合は、顧客が満足していて、チームが適切に顧客をフォローしていることが分かります。逆にリピート率が低ければ、顧客の現状の不満点をヒアリングし、改善ポイントを明確にします。課題を明確にした上で、カスタマーサクセスのフォローアップの質の問題であればチームのフォロー体制の強化、それ以外のプロダクト等の問題であれば製品・サービスの改善を検討する必要が出てきます。
3. リテンション指標
①顧客ロイヤリティ:顧客が同じ製品やサービスを繰り返し購入する意欲を示唆
仮にロイヤリティが高ければ、顧客が他のサービスに移行するリスクが低く、長期的に収益をもたらす顧客である判断ができます。この判断ができれば、前レッスンで伝えた優先度が高い顧客先としてセグメント化することも可能になり、より特別なサポートができるようになるでしょう。
逆にロイヤリティが低い場合は、顧客が競合に流れるリスクが高くなるかもしれませんが、顧客とのコミュニケーションや価値提供を強化する必要性を検討します。
②契約更新率:長期契約の更新率を測定し、顧客との継続的な関係を評価
契約更新率が高い場合、顧客はサービスに満足し、価値を感じていると一定の判断ができます。更新率が低下している場合は、顧客が何らかの不満を感じている可能性があり、最悪のケースでは他社への乗り換えを検討している可能性もあるかもしれません。早期にフォローアップを行い、顧客に価値を再確認してもらう必要があります。
SaaS関連企業向けKPI
SaaS関連企業は、サブスクリプションモデルを採用しているため、継続的な収益と顧客維持に関連する以下のKPIを重視します。
1. 売上関連指標
①MRR(月間定期収益): 毎月の定期的な収益を測定し、収益の安定性を評価
MRRが安定して増加していれば、ビジネスの収益が安定しているという判断ができます。逆に停滞または減少している場合は、解約率の増加やアップセルの機会不足などが考えられ、収益モデルの見直しや顧客維持施策が必要と考えられます。
②アップセル率: 顧客に対して、より高価なプランや追加機能を提供する成功率
アップセル率が高い場合、チームが顧客に対して追加価値を効果的に提案できていることが判断できます。アップセル率が低い場合は、チームが提案したプランに価値を感じていない可能性があり、顧客のニーズに沿っていなかったり、顧客が必要とするタイミングではない時に提案している可能性も考えられます。ニーズのヒアリングを再度行い、適切なタイミングと内容で提案を行う必要があります。
③クロスセル率: 顧客に別の関連サービスや製品を提供する割合
クロスセル率が高ければ、関連製品やサービスに顧客が興味を持っていることが分かり、顧客の総支出が増加します。低い場合は、チームの関連商品やサービスの提案が不十分であったり、適切な機会を逃している可能性があるため、アプローチの方法を見直す必要があるでしょう。
④顧客ライフタイムバリュー(CLTV): 顧客が生涯を通じてもたらす収益の総額を予測
この指標が高い場合は、顧客が長期間にわたり収益をもたらしていることを示し、優良顧客(優先度の高い顧客)として評価できます。逆に低い場合、顧客の解約や取引額が下がる可能性があり、チームは顧客の取引を拡大する施策検討が必要になります。
2. 顧客成功指標
①ネットプロモータースコア(NPS®︎): 顧客が製品やサービスを他人に推奨する可能性を測定
NPS®︎が高ければ、顧客は製品やサービスに満足していることが判断でき、逆に低ければ、何らかの不満を抱いている可能性があります。NPS®︎がどのように変化しているのかをモニタリングし、チームがどのように顧客満足度を高められるか、アプローチ内容や手法を検討する必要があるでしょう。
3. リテンション指標
①契約更新率: 顧客がサブスクリプション契約を更新する割合
契約更新率が高い場合、長期契約に至っているという意味合いのため、顧客はサービスに満足していることが分かります。更新率が低ければ、顧客が不満を持っており、他社に乗り換える可能性が高いためフォローが必要です。
②解約率: 顧客がサービスを解約して離脱する割合
解約率=顧客がサービスを解約した割合ですので、この指標が高い場合、カスタマーサクセスやサービスや製品が顧客にとって最適な価値を提供できていない可能性があります。なぜ解約に至ったのか、原因を特定して改善策を講じる必要があるでしょう。
一般的な企業とSaaSモデルを展開する企業のKPIの違いを説明しましたが、これらが見るべきKPIの正解とは限りません。一般的な企業の場合でも、企業の戦略によってはSaaSモデル企業が優先するKPIを同じく優先して重視する企業もあることでしょう。
大切なのは、自社の目標や戦略に最も合ったKPIを選定することです。ビジネスの状況に応じて柔軟に見直しやKPIの調整を行うようにしましょう。
成果計測の環境をつくる
カスタマーサクセスチームが顧客との良質な関係を保つには、前述したKPIに基づいて現状を把握し、目標からズレがある場合は迅速に対応することが大切です。売上成果を素早く、かつ正確に測定するためにもデータをチームで一元管理し、分析する環境を整えることが欠かせません。
管理はエクセルのようなツールでも対応は可能です。その場合、顧客の購入履歴や取引データを手動で入力し、売上や取引数、利益率などの基本的なKPIを集計・分析する形になります。また、簡単なグラフやピボットテーブルを活用して、売上の推移や顧客ごとの取引状況を視覚化することもできます。しかし、データ量が増えれば増えるほど手作業が複雑になり、リアルタイムなデータ共有や分析の自動化には限界もあります。
自動化に素早く切り替えるためにも、より効率的かつ正確に顧客データの管理と分析を行うことができるCRM(顧客関係管理)ツールやSFA(営業支援)ツールを活用している企業があります。顧客の行動や問い合わせの履歴、契約状況を一目で把握できるだけでなく、アップセルやクロスセルの機会を見逃さない仕組みを構築することが可能になります。また、カスタマーサクセスや営業チーム全体でデータをリアルタイムに共有できるため、顧客対応の質を向上させ、顧客満足度の向上にもつながります。
CRM/SFAツールの活用
CRM/SFAツール活用の最大のメリットは、データの一元管理とリアルタイムでの情報共有です。
カスタマーサクセス部門や営業部門は、顧客の全履歴や契約状況を同時に把握できるようになるため、改善に対するアクションを素早く行えるようになります。顧客ごとのKPI進捗をCRM/SFAツールを活用し自動的にモニタリングできれば、目標とかけ離れている場合にはアラートを設定することが可能です。
例えば、購買履歴、利用頻度、問い合わせ件数などの顧客の行動データを一元管理し、それをKPIとリンクさせて分析します。契約更新率を向上させるために、CRM/SFAツールに搭載されたリマインダーを活用し、契約満了前の顧客のフォローを逃さないためにチームへアラートを鳴らす設定もでき、フォローアップのタイミングを逃さない仕組みを作ることができます。また、顧客満足度やNPS®︎のデータをCRMに統合し、それを基にカスタマーサクセスチームがリテンション施策を強化するためのアクションプランの設計もできるようになります。
データ収集の仕組み構築
正確で効率的な成果計測を行うためにも、データ収集の仕組みを構築しましょう。適切なデータを一元的に収集することで、KPIの進捗をリアルタイムで把握でき、ビジネスの状況を的確に評価できるようになります。逆に、仕組みがなければ、手動の集計作業に依存し、ミスや対応の遅れなどのリスクが生じる場合があるため、時間をかけすぎずに迅速に構築すべきです。
仕組み構築時はカスタマーサクセスでどのデータを蓄積すべきかを定めましょう。これらの項目は、前述したKPIにひも付く顧客行動全てです。契約更新やアップセルのチャンスを見逃さないために必要となる、購入履歴や顧客の契約・解約情報、各顧客との会話履歴、利用状況などの情報全てが含まれます。
それらのデータをKPIと連携し、進捗状況を可視化できるようにします。顧客ごとの進捗状況や成果をCRMツールのダッシュボード機能を活用してレポート化し、自動で生成できるように設定します。ダッシュボードでは、顧客が設定した目標やKPIに対して、どれだけの進捗があるかをグラフやチャートで表示できるため、目標に対する現状を直感的に把握できるようになります。この仕組みを構築することでチームは一目で顧客の健康状態や進捗の度合いを把握することが可能となります。
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