カスタマーサクセスの種類
カスタマーサクセスのアプローチは、主に2種類あります。ひとつはCX(顧客体験)向上を目指すことを目的としたカスタマーサクセス、もうひとつはクロスセルやアップセルを通じて既存顧客のLTVを最大化し、企業収益を増大させるといった売上の向上を目指すカスタマーサクセスです。これらのアプローチは、目的、指標、アプローチ方法、そして成果が大きく異なります。
CX向上を目指すカスタマーサクセス
まず、CX向上を目指すカスタマーサクセスの目的、指標、アプローチ方法、そして成果について説明します。
目的
主な目的は、顧客の満足度を高め、長期的なリテンションを確保することです。企業は、自社ブランドに対するロイヤリティを顧客が維持し、長期にわたりサービスや商品を継続的に利用し続けることを期待しています。そのため、顧客が製品やサービスを利用する過程で、いかにポジティブな体験を提供できるかを重視し、リテンション率を高めるための施策を講じることが重要となります。
また、満足度の高い顧客は、リピート購入を促進するだけでなく、口コミを通じて新規顧客を獲得しやすいといった売上観点でのメリットも考えられます。したがって、こうした効果を引き出すためにも、カスタマーサクセスの取り組みは非常に重要であるといえるでしょう。
指標
主な指標として使用するのは、以下の2つです。
- NPS(ネットプロモータースコア)
- リテンション率
NPSとは、顧客が他者に製品やサービスを推薦する可能性を測る指標です。リテンション率は顧客がどれだけ長期間にわたり契約を維持するかを示します。
NPSとリテンション率を指標として定めることで、顧客満足度とロイヤリティを評価し、改善の必要性を判断します。NPSが高ければ顧客満足度が高く、低ければ改善が必要と判断できます。
また、リテンション率が高い場合は顧客がブランドへのロイヤリティが高く、関係性が安定していると一定の判断ができ、低い場合は長期契約に至らない原因を探り、サービスの見直しを行うなどの改善が必要です。またこれらの指標を確認し、改善の優先順位を定めながら、顧客体験を向上させるための具体的なアクションを計画します。
アプローチ方法
CX向上のためのカスタマーサクセスの場合、顧客のニーズの把握や不満を抱えている顧客に対し問題点を的確に把握するといった対応を行うなど、顧客との積極的なコミュニケーションを重視したアプローチを行います。
例えば、定期的な顧客アンケートの実施や顧客との定期的なミーティングを通じて、顧客のニーズや潜在的な問題を把握します。また、カスタマーサポートの問い合わせ履歴を分析し、よくある問題や不満を特定して、迅速に対応策を講じることも行います。
顧客の意見を反映した改善は、顧客満足度を向上させ、ブランドに対する信頼を築く上で非常に有効です。このようなアプローチを行うことで、結果的に顧客との長期的な関係を築き、企業の成長を支える基盤を強化できるようになります。
成果
カスタマーサクセスの成果は、結論から言うと以下の2つです。
- 顧客満足度の向上
- 顧客ロイヤルティの強化
顧客の満足度が高まることで、顧客は製品やサービスに対して信頼感を持ち、長期的な利用を続ける傾向が強まります。
成果の測定のためには、前述したNPSやリテンション率の2点の指標の定点観測が必要となります。成果は、単一の指標に依存せず、複数の指標を組み合わせて総合的に評価することも重要です。また定量的なデータだけでなく、顧客の声やフィードバックも考慮し、顧客体験を全体的に捉えらられると良いでしょう。
売上アップを目指す、営業中心のカスタマーサクセス
売上アップを目指す営業を中心としたカスタマーサクセスの目的、指標、アプローチ方法、そして成果について説明します。
目的
CX向上を目指すカスタマーサクセスは、顧客の体験向上と長期的な関係構築に重点を置く一方で、売上アップを目指すカスタマーサクセスは、クロスセルやアップセルを通じて既存顧客からの収益を拡大し、顧客のLTV(ライフタイムバリュー)を最大化することに重点を置いています。
顧客からの収益拡大には顧客との信頼関係が重要になります。個々の顧客ニーズや行動データを継続的に分析し、それに基づいたパーソナライズされた提案を行うなどで、高い信頼関係を維持しながら長期的な関係を深め、収益の安定化と拡大を目指すことが求められます。
指標
売上アップを目指すカスタマーサクセスの主要な指標は、以下の2つです。
- LTV
- 更新率
LTVは、顧客が生涯にわたって企業にもたらす総収益を測るもので、顧客の長期的な価値を評価するために使用します。LTVを正確に評価するには、更に細かな指標を設定し、総合的な分析が必要です。
- 顧客の購買履歴
- 契約更新率
- クロスセルやアップセルの実績
上記を組み合わせて分析することで顧客の全体的な価値を把握した上で、LTVを評価できるようになります。
更新率は契約がどれだけの頻度で更新されるかを示し、顧客が継続的に製品やサービスを利用する意欲を測るための使用します。
仮に更新率の低下が見られた場合には、契約更新の障害となる要因を特定し、早期に策を講じるといった対応が必要です。
アプローチ方法
営業中心のカスタマーサクセスは、顧客との継続的な関係を維持しながら、クロスセルやアップセルの機会を見つけ、ニーズに沿った提案を行います。そのためには、顧客データを積極的に活用し、購入履歴や商品やサービスの活用状況を分析、また更新月を事前に確認しておくといったことが重要です。
データを分析する中で例えば、特定のサービスや商品を複数回購入したり検討する顧客を見つけた際には、関連する商品やサービスを提案することで、売上が拡大する可能性が高まります。また更新タイミングに合わせて、更新を促す特別なオファーやサポートを提供できれば、更新率を向上させられることを期待できるからです。
アップセルやクロスセルの提案は、顧客が最もその提案を受け入れやすい時期を見極めことが大事です。その適切なタイミングをはかるために、「カスタマージャーニーマップ」を描き、各ステージに応じたアクションを計画しましょう。
カスタマージャーニーマップの計画方法、作成の詳細については後述します。
成果
ここでの成果は、企業の売上の向上です。営業中心のカスタマーサクセスは、クロスセルやアップセルを通じて既存顧客のLTVを増加させるアプローチを行うため、直接的な企業の売上向上に貢献します。
カスタマージャーニーのコンセプトと構成
顧客が商品やサービスとどのように関わり、どのような体験を経るのかを理解し、またカスタマーサクセス担当者がどのタイミングでどのようなアプローチをするか、を可視化させるための重要な基盤となるのがカスタマージャーニーマップです。ここで、カスタマージャーニーマップの基本的な定義と、それを構成する重要な要素について説明します。
カスタマージャーニーマップとは
ここでは、カスタマージャーニーマップとは何か、定義についてとカスタマージャーニーマップを作成する際に必要となる構成要素について説明します。
定義
カスタマーサクセスが活用するカスタマージャーニーマップとは、既存顧客が製品やサービスを利用する過程で、どのようにカスタマーサクセスチームと関わり、価値を最大化していくかを視覚的に表現したツールです。
このマップは、顧客が初期導入から活用、契約更新に至るまでの各ステージで、どのようなニーズを持ち、どのようなサポートやアクションが必要かを明確に示します。
構成要素
カスタマージャーニーマップを作成する際は、2つの構成要素を掛け合わせて作成します。一つは顧客の行動プロセスを元にした「ステージ」、そしてもう一つは、顧客体験を最適化させるための5つの「要素」の掛け合わせです。
ステージ
「ステージ」とは、顧客がサービスや商品と関わるプロセスの各段階を指します。このステージでは、顧客がサービスや商品を契約したタイミングから始まり、導入後に契約更新するまでに至る全5つの段階を包括しています。
ステージ名 | 説明 |
契約 | 顧客が製品やサービスを選定し、購入契約を締結する段階。 |
導入 | 購入した製品やサービスを企業の環境に適用・設定する段階。 |
オンボーディング | 顧客が製品やサービスをスムーズに使い始め、初期の学習やサポートを受ける段階。 |
活用 | 顧客が製品やサービスを日常的に利用し、その価値を最大限に引き出す段階。 |
契約更新 | 契約終了時に顧客がサービスの継続利用を決定する段階。 |
カスタマーサクセスチームはこれらの各ステージを段階的に確認し、顧客が現在どの段階にいるのかを把握しながら、適切なサポートやアクションを計画・実行します。
顧客体験を最適化するための要素
顧客が、理想とする顧客体験が得られるよう最適化するために、顧客がサービスや製品に関わるさまざまな行動や思考などを細かく分析します。ここでは、「行動」「タッチポイント」「目的「思考・心理」「解決策」の全部で以下5つの要素で構成されます。
- 行動:顧客が取る具体的なアクション
- タッチポイント:顧客と企業が接触するポイント
- 目的:顧客がそのプロセスで達成しようとしていること
- 思考・心理:その時点での顧客の考えや感情
- 解決策:顧客の課題や顧客に対する企業の提供価値
これらの顧客の行動や心理を把握した上で、カスタマーサクセス担当者が適切なアプローチを個々の顧客に行い、最適化していきます。
各ステージのニーズとタッチポイント
ここからは、実際に顧客が各ステージに存在する際に、どのようなニーズを抱えているのか、またそのニーズに対しサポートを提供できるタッチポイントが何か整理をしてみましょう。
ニーズ
ニーズは、顧客が製品やサービスに対して持つ具体的な要求や期待、解決したい課題を指します。
顧客のニーズは、カスタマージャーニーの各ステージで異なり、それに応じたサポートやサービスをカスタマーサクセスが提供することが大切です。ニーズを的確に理解することで、顧客満足度を高め、リテンション率や売上を向上させることができるようになります。
SaaSツールサービスを契約した企業を例に、前述した5つのステージ毎でどのようにニーズが異なるのか以下の表を整理してみました。
ステージ | ニーズ |
契約 | サービスが自社のニーズに合っているか確信したい。 |
導入 | サービスを迅速かつ効果的に導入し、スムーズに稼働させたい。 |
オンボーディング | サービスを効果的に使い始め、早期に成果を出したい。 |
活用 | サービスを最大限に活用し、業務効率や効果を向上させたい。さらに高度な機能を活用してみたい。 |
契約更新 | 継続利用を決定する前に、過去の成果を振り返り、最適な条件で更新したい。 |
表のように、各ステージで顧客のニーズが変化しているため、カスタマーサクセスは素早くこれらのニーズをキャッチし、ニーズを満たす鍵を探る必要があります。
例えば導入フェーズでは、導入プロセス全体をスムーズに進行させ、早期に顧客がツール効果を実感したいというニーズから「速さ」と「効果実感」が満足度を高める鍵であることが想定できます。
またアップセル・クロスセルを実施するにはこの表のニーズの整理から「活用」フェーズで行うのが一番望ましいことも分かります。顧客がすでにサービスを日常的に利用し、その価値を実感している可能性が高いため、さらなる機能や関連サービスを導入することで、業務効率や成果をさらに向上させたいと考える可能性が高いとも考えられるからです。
このようにニーズを整理した後に、具体的にニーズを満たすことのできるタッチポイント(ツール)を設計します。
タッチポイント
タッチポイントは、顧客が企業と接触するあらゆる場面や機会を指します。これには、直接的な接触(カスタマーサポートや営業とのやり取り)や、間接的な接触(メール、ウェブサイト、広告など)が含まれます。タッチポイントを効果的に活用することで、顧客のニーズに応じた最適なコミュニケーションやサポートを提供し、顧客体験を向上させることができるようになります。
先ほどのステージとニーズに具体的なタッチポイント例を以下に組み合わせました。
ステージ | ニーズ | タッチポイント |
契約 | サービスが自社のニーズに合っているか確信したい。 |
|
導入 | サービスを迅速かつ効果的に導入し、スムーズに稼働させたい。 |
|
オンボーディング | サービスを効果的に使い始め、早期に成果を出したい。 |
|
活用 | サービスを最大限に活用し、業務効率や効果を向上させたい。 |
|
契約更新 | 継続利用を決定する前に、過去の成果を振り返り、最適な条件で更新したい。 |
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例えば導入フェーズでは、つまずきや設定の不備が、後々の運用に大きな影響を与える可能性があります。これに対して専任のサポート担当者が初期導入時のサポートとして設定を支援したり、迷いが生じることなくスムーズに設定が完了するよう、初期設定のガイドラインを提供することが適切なタッチポイントと考えられます。
また、アップセル・クロスセルを効果的に実施するための具体的なタッチポイントは、「利用状況レポートの提供」「成功事例の共有」などが望ましいでしょう。利用状況レポートを提供することで利用度が高い機能や追加のニーズがあることを示したり、成功事例を共有し、他の顧客が追加機能やサービスを導入して得られた成果を紹介することで同様の成功が見込めることを示します。
このように、顧客のタイミングとニーズを見極め、顧客に対し適切かつ効果的に提案ができれば、アップセルやクロスセルの成功も実現するでしょう。
カスタマージャーニーマップの作成例とコツ
整理したフェーズ、ニーズ、タッチポイントを基に、実際にソフトウェアを購入した顧客を例にしたカスタマージャーニーマップを作りました。

カスタマージャーニーマップを作成する際のコツは、顧客の視点に立ち、各ステージでの具体的なニーズや課題を正確に把握することです。
CRM/SFAツールを活用し顧客の行動データ(ウェブサイトの閲覧履歴、サポートへの問い合わせ、利用ログなど)を収集し、行動パターンを分析してみましょう。勝手な思い込みで仮説を立てるのではなく、その分析した数値結果を基に、なぜ顧客がそのような行動をとるのか、どのような感情を抱いているか(期待、不安、満足、苛立ちなど)の仮説を立て、その心理に寄り添った対応を考えることが大事です。
また顧客のニーズや心理は不動なものではありません。変化が生じる可能性があることを念頭に置き、タッチポイントの効果の定期的な見直しを行いながら最適なサポートを提供しましょう。
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