MEDDICとは?営業プロセスへの組み込み方、BANTとの違い
MEDDICとは
MEDDIC(メディック)とは、商談の受注確度を判断するためのフレームワークです。MEDDICはMetrics(測定指標)、Economic Buyer(決裁権者)、Decision Criteria(意思決定基準)、Decision Process(意思決定プロセス)、Identify Pain(課題)、Champion(擁護者)の6つの要素から構成されています。
受注する可能性が高いかを判断し、商談に優先度をつけるのがMEDDICの目的です。MEDDICは、複数の関係者が関わり購買プロセスが複雑になりがちなエンタープライズ案件での活用にも適しています。
Metrics(測定指標)
商品やサービスの購入に対して顧客が抱いている期待値のことです。顧客の期待値を知ることで、セールスポイントを把握しやすくなるでしょう。例えば、「企業が従業員に健康を維持するサプリメントの提供を福利厚生として提供することを考えていて、オーガニックな素材へのこだわりが強い」という期待を確認したら、自社の強みをどのようにアピールするかがわかります。また、オーガニックは取り扱っていない場合には、自社ではニーズにお応えできないと判別でき、無用な営業アプローチを防止する役割も果たします。
Economic Buyer(決裁権者)
商品やサービスの購入を最終的に決断する人のことです。BtoBにおいては、決裁権を持つ人が必ず窓口の担当者であるとは限りません。最終的な決裁権を持つ人物が判明していれば、ご挨拶のチャンスを狙ったり、担当者が決裁権者に報告しやすいようにするなど工夫をすることで成約率が上がる可能性があります。
Decision Criteria(意思決定基準)
ほとんどの会社では、購入/契約を判断するために与信も含めさまざまな基準を設けています。意思決定基準は、顧客が商品やサービス購入を決める重要な判断基準のことであり、価格、費用対効果、製品やサービスの品質や機能などが挙げられます。意思決定には何が重要なポイントかを事前に把握することで、基準をクリアしているか、クリアしていなければ改善できる点はないかと検討でき、商談内容の精度を高められるでしょう。
Decision Process(意思決定プロセス)
最終的に商品やサービスの購入を決定するまでのプロセスのことです。意思決定プロセスは、企業によって異なります。「関係者は誰がいて、どのような経緯で意思決定が進み、最終的に誰が決断を下すか」という一連のプロセスを把握することが重要です。
Identify Pain(課題)
ここで言う課題とは、顧客が「早く解決したい」と考えている悩みや問題のことです。課題を浮き彫りにすることによって解決策とシンクしたアプローチが可能になります。
Champion(擁護者)
擁護者とは、顧客組織内で権力や影響力を持ち、こちらが示した提案に理解があり、購入に向けてサポートしてくれる人を指します。「自分の代わりに内部で営業をしてくれる人」「根回しをしてくれる人」「有益な情報をくれる人」「決裁者とのパイプ役になってくれる人」等とイメージするとわかりやすいかもしれません。擁護者を味方につけることがポイントです。
BANTとの違い
営業のフレームワークの一つに、BANTがあります。BANTは、Budget(予算)、Authority(決定権)、Needs(重要)、Timeframe(購入時期)の頭文字を取った言葉で、MEDDICと同様に顧客を見極め、受注の確度を判断する指標として活用されます。
予算 | 商品やサービスを購入するために確保している予算のこと |
決定権 | 商品やサービスを購入を承認する権限も持つ人のこと。 |
需要 | 商品やサービスに対する必要性のこと。 |
時期 | 商品やサービスを購入する具体的な時期のこと。 |
BANTでは、4つの条件が全て明確になっている顧客は、「今すぐにでも購入する準備が整っている顧客(ホットリード)」と見なし、優先的にアプローチする営業先と判断します。BANTは、4つの条件で顧客をシンプルに見極めるため、購買プロセスが複雑ではないケースでの営業アプローチに向いています。
一方でMEDDICには、顧客の意思決定がどのように進むのか、どのような理由で購入するのか、社内で誰か協力して推進してくれるかなど、顧客をより詳細に理解する要素があります。MEDDICは、金額が大きい案件や大企業のような購買プロセスが複雑な大企業へのアプローチに向いています。
MEDDICを活用するメリット
勘に基づく購買意欲の見極めから脱却できる
顧客を見極めるのに必要な6つの要素を明確にすることで、勘に基づく購買意欲の見極めから脱却できるでしょう。勘だけでは、判断を誤りやすくなりますが、その点MEDDICは、顧客について多角的に捉えて抜け漏れをカバーします。MEDDICを用いることによって商談の質を上げるロジックな説明や感情に訴えるストーリー、顧客のバックグラウンドに適した情報の提供などを盛り込み、深みのあるクロージングを展開できるでしょう。
リソース配分を効率化できる
会社が利益を拡大するには、限られたリソースの中で優先順位の高い顧客から営業活動を展開する必要があります。そもそも、「どのように優先順位をつけていいか分からない」ということもあるかもしれません。その時に役立つのがMEDDICです。MEDDICでその商品やサービスを必要とする顧客を見極めることによって、優先順位が明確になり、リソース配分の最適化が実現するでしょう。
MEDDICを聞き出すヒアリング例
MEDDICの6つの要素を聞き出すには、下記のヒアリング例を参考にすると良いでしょう。顧客にヒアリングする際は、顧客との会話のキャッチボールを重視して、無理して引き出そうとしないことも重要です。自然な会話の流れの中でヒアリングすることが重要です。
Metrics(測定指標)
測定指標では、顧客の期待値を定量化することがポイントです。この点を意識しながら、以下のような質問をしてみましょう。
測定指標を聞き出す質問例
- この商品やサービスを購入することで何を達成したいですか?
- 商品を購入することで「売上を10%上げたい」「コストを10%削減達成したい」など目標はありますか?
Economic Buyer(決裁権者)
ここで重要なのは、決裁権者は誰かを見極めることです。決裁権者の見極めを誤ってしまうと、なかなか商談をクローズできずに、無駄な営業活動を続けてしまうことになり兼ねないので注意しましょう。
決裁権者を聞き出す質問例
- 商品やサービスを購入する際の最終的なご判断はどなたがなさるのでしょうか?
- 商品の購入を決定する方は●●様の他にいらっしゃいますか?
Decision Criteria(意思決定基準)
何を満たせば、顧客が商品やサービスを購入するのかヒアリングします。十分な情報を収集せずに商談を進めると、思い込みや誤解が生じ、重大な失敗につながる可能性があるため、注意が必要です。
意思決定基準を聞き出す質問例
- 商品やサービスを購入する際に、見られるポイントはなんでしょうか。費用対効果(ROI)でしょうか。価格帯でしょうか。
- 商品やサービスに最低限求めている機能はどのようなものがありますか?
- 商品やサービスの導入後にサポートやトレーニングなどの支援を求めていますか?
Decision Process(意思決定プロセス)
この要素では、顧客が商品(サービス)の購入に至るまでのプロセスを明確にするために、以下のような質問が有効です。
意思決定プロセスを聞き出す質問例
- 購入決定までにかかる時間はどのくらいですか?
- 「商品やサービスを購入しよう」と決めてから最終的に購入を決断するために、どのようなステップを踏みますか?
Identify Pain(課題)
顧客が解決したがっている課題を明らかにします。多くの企業が抱えている課題を顧客も抱えている可能性はありますが、なるべく先入観をゼロにして質問することがポイントです。
課題を聞き出す質問例
- 新規顧客の開拓では、どのような課題感をお持ちでしょうか?
- 既存顧客のフォローについて、改善したい点などはありますか?
Champion(擁護者)
顧客が解決したい課題に興味を持ち、かつ意思決定などに影響力のある人を特定する必要があります。
Champion(擁護者)を聞き出す質問例
- 他の部署にこの企画を進めてくれる協力的な人は誰かいますか?
- 上層部と関係性が良い方はどなたか教えていただけませんか?
MEDDICを活用してうまく商談を進めるには
商談をスムーズに進めるためには、早い段階で、Champion(擁護者)を特定し、繋がりが持つことが重要です。そうすれば、”Champion”以外の情報をChampionから聞き出すこともでき、商談をスムーズに進めることができるかもしれません。
Championの特徴:主に2パターンに分かれる
- 横展開してくれる人:部署を横断して顔が広く、社内でよく知られている人
- 縦展開してくれる人:社内政治力をもち上層部とのハイプを持っている
横展開してくれる人
複数部署で顔が広く、社内で良く知られている人を味方につければ、その人経由で他の部署にも商品やサービスの良さを紹介してもらえ、組織全体での理解の促進や共感の拡大につながり、前向きに購入が検討される可能性が高くなります。
縦展開してくれる人
上層部と強いパイプを持ち、社内で影響力を持つ人を味方につければ、経営者および意思決定者を早い段階で説得でき、リードタイムを大きく短縮できるかもしれません。Championは意思決定者(Economic buyer)にとって非常に重要な存在です。
多額なコストをかけてサービスを導入する場合、導入後に、きちんと社内でサービスの利用が促進され、現場レベルまで浸透させなければ意味がありません。購買の判断する意思決定者(Economic buyer)にとって、社内に影響力があって推進力があるChampionは、その役割を任せられ、信頼を置ける存在です。
Championを見つけ出すことは、難しいです。しかし、商談をスムーズに進める上でも、Championの存在は非常に重要なため、商談相手に地道に質問を行い、情報を収集し、見つける努力をしましょう。
関連するフレームワーク
MEDDICに関連した営業フレームワークに、「MEDDICC」と「MEDDPIC」の2種類があります。どちらもMEDDICをベースに進化させたものなので、MEDDICと共通する点があります。
MEDDICC
MEDDICCは、MEDDICにCompetitionを組み合わせた概念です。Competitionは競合他社を指します。競合他社の情報を収集し、その強みや弱みを分析することで、自社の商品やサービスの差別化ポイントが明確になります。これにより、営業担当者は競合他社に勝つための戦略を立てることができるようになります。
MEDDPIC
MEDDPICは、MEDDICにPaper Processを加えた概念です。Paper Processとは、NDA(機密保持契約書)、セキュリティチェック、契約書、覚書等、契約に向けて必要となる書類に関するプロセスです。具体的には、「契約までのどのくらい時間がかかるのか」「利用規約はあるか」「契約締結に必要な書類は何か」など、案件を進めていくために、事前に抑えていくべきポイントなどを指します。
企業規模が大きくなればなるほど、契約書類やその事務手続きが複雑になるという事実もあります。営業担当者が、予め、契約にあたっての必要書類、契約締結までのスケジュール感を把握しておけば、先んじて法務部門や管理部門と協力して準備をしておくことができ、本格的な契約のフェーズになった時、「手続きの遅れ」を避けることができます。
時代の流れや多様化するビジネス形態に合わせる形で、MEDDICはMEDDICCやMEDDPICに変化していったと考えられています。例えば、MEDDICCは2000年代に入ってから登場したといわれていますが、アメリカで競合分析が盛んになった時代と重なります。またMEDDIPICは、インターネットが発達してNDA(機密保持契約書)や契約書の締結などが義務付けられるようになった頃に考案されたようです。MEDDICを含めたこれらのフレームワークは、ケース・バイ・ケースで使い分けることが賢明でしょう。